裁ち鋏・普通のハサミとどう違う

Shop Manager
Shop Manager
日本の裁ち鋏は高品質。世界でも高く評価されています。

裁ち鋏はなぜ特別なのか — 普通のハサミとの違い、そして老舗メーカーの物語

布を正確に、美しく裁断したいとき、手に取るのが裁ち鋏(たちばさみ)です。見た目はどこか普通のハサミと似ているようでいて、実は構造も素材も、使われる思想もまったく異なります。裁縫を始めたばかりの頃、「キッチンのハサミで代用しても大丈夫では?」と思ったことはないでしょうか。この記事では、裁ち鋏と普通のハサミの違いを丁寧に解説しながら、国内外の老舗メーカーの歴史もあわせてご紹介します。


裁ち鋏と普通のハサミ — 何がそんなに違うのか

一見すると大きさの差くらいしかないように思える裁ち鋏と普通のハサミ。しかし、布を切るという繊細な作業に特化した裁ち鋏には、いくつもの工夫が詰め込まれています。

刃の薄さと鋭さが違う

裁ち鋏の刃は、布の柔らかい繊維をとらえるために非常に薄く、鋭く作られています。普通の紙用ハサミは刃が厚く、布のような素材を切るには向いていません。逆に、裁ち鋏で紙を切ってしまうと布よりも硬い紙の繊維が刃を傷め、切れ味が一気に落ちてしまいます。

布用の裁ちバサミは、柔らかい布を切るために、紙を切るハサミよりも刃が薄く鋭くなっています。そのため布の繊維よりも硬い紙を切ってしまうと、刃にダメージが加わり、布が切りにくくなります。


maruam / Japan Tex

グリップの形が非対称になっている理由

裁ち鋏のグリップをよく見ると、親指を入れる輪と、残りの指を入れる輪が大きく非対称になっていることに気がつきます。これは偶然ではありません。布を裁断するとき、ハサミの下側の刃(下刃)はテーブルや台の面と平行に滑らせるように使います。グリップが左右非対称の独特の形をしているのは、この動作のためです。手首をねじらずに自然な角度で刃を台面に沿わせられるよう、人体工学的に設計されているのです。

使い方のコツも普通のハサミとは異なります。布は台の上に平らに置いたまま動かさず、裁ち鋏の下刃をテーブルに押し当てるようにして、自分が体を移動させながら切っていきます。布を持ち上げてしまうと、断面がずれてゆがみが生じやすくなります。

重さと素材の違い

日本の高品質な裁ち鋏(ラシャ切り鋏とも呼ばれます)は、刃の部分に「鋼(はがね)」と「軟鉄」の複合材を使い、鍛造によって作られています。これは日本刀に使われてきた「付け鋼(つけはがね)」という伝統技術と同じ発想です。硬い鋼を軟鉄で包むことで、鋭さと粘り強さを同時に実現しています。

日本の鋏は日本刀の伝統技術である付け鋼を採用し刃部に鋼と軟鉄の複合材を使用して鍛造し、柄(鋳物)と溶接します。この製法によって鋼と軟鉄の特徴を生かし、独特の素晴しい切れ味を生みだしました。


美鈴ハサミ株式会社 / 鋏の構造

「専用で使う」ことが大前提

ハサミはそれぞれの用途に合わせて、構造・刃の角度・形状が異なって作られています。布用の裁ち鋏で紙を切ると切れ味が落ちるように、紙用ハサミで布を切っても、繊維が引っかかってきれいに切れません。裁ち鋏は「布だけを切る専用道具」として大切に使い続けることが、その本来の性能を保つための基本です。

良い裁ち鋏は、一生使えるどころか、研ぎ直しをすれば世代を越えて使い続けられます。そのため、家族の間で「ハサミを布以外に使ってはいけない」というルールを設けているご家庭も多いようです。

→商用利用OKのかわいいUSAコットンあります・輸入生地のオンラインショップ

—  —

日本の裁ち鋏はどこから来たのか — 刀鍛冶と洋裁の交差点

日本に現在のような形の裁ち鋏が登場したのは、明治時代のことです。それ以前の日本は和装文化が中心で、布を切る道具といえば直線的に切るための「裁包丁(たちぼうちょう)」か、細部に使う小さな「握り鋏(にぎりばさみ)」しかありませんでした。

明治の文明開化とともに欧米式のハサミ(ラシャ切り鋏)が渡来します。薄い生地から厚い生地まで曲線的に切れる欧米型ハサミは革新的でしたが、刀の鋭さに慣れ親しんだ日本人には、当時の欧米製ハサミは大きくて重く、切れ味も物足りないものでした。

そこに登場したのが、刀鍛冶の技術を持つ職人たちです。東京の刀鍛冶・吉田弥十郎(銘は「弥吉」)が、欧米式のハサミに日本刀の鋭さと軽量化を組み合わせた独自の裁ち鋏を生み出しました。この技術は弟子たちへと受け継がれ、現代の日本を代表する裁ち鋏ブランドへとつながっていきます。

この頃刀鍛冶であった吉田弥十郎(銘:弥吉)が自らの刀鍛冶技術を生かし、欧米式のハサミに日本刀の持つ鋭さとはさみ全体の軽量化をはかり、独自のはさみを生み出しました。


ApparelX News / 裁ちばさみについて〜これぞ日本の匠の技!鋏の庄三郎〜

弥吉の弟子からはさらに多くの職人が育ち、「東鋏親和会(のちの関東裁鋏工業会)」が結成されました。この会のメンバーだけが「東鋏(トウバサミ)」の刻印を使うことを許されており、品質の証として今も受け継がれています。

—  —

日本の老舗 — 庄三郎・貝印・長太郎

裁ち鋏の世界で長い歴史を持つ日本のブランドを、いくつかご紹介します。

PROFILE

庄三郎(三浦庄三郎)
東京都台東区根岸に本社を置く、日本を代表する裁ち鋏ブランド。弥吉の弟子・兼吉の系譜に連なる初代三浦庄三郎が創業し、現在は3代目。全国の洋服屋(テーラー)・洋裁学校・家庭で使われるハサミの8〜9割のシェアを占めたこともあると言われるほどの存在感を持ちます。アジア各国への輸出も行っており、東京都の伝統工芸師の認定を受けた職人による手仕上げが特徴です。最終調整は一丁ずつ職人の手で行われます。
公式サイト:shozaburo.com
庄三郎のハサミを見る

PROFILE

貝印(KAIグループ)
1908年(明治41年)、世界三大刃物産地のひとつとして知られる岐阜県関市に、初代遠藤斉治朗がポケットナイフの製造を始めたことに端を発します。現在はカミソリ・包丁・美粧用品から洋裁鋏まで幅広く展開するグローバルな刃物メーカーに成長。120年以上にわたって「切れ味とやさしさ」を企業理念に掲げ、縫い物向けの裁ち鋏もラインナップに持ちます。
公式サイト:kai-group.com
貝印のハサミを見る

PROFILE

長太郎(東鋏)
1901年創業。弥吉の弟子・兼吉の系譜から生まれた、庄三郎と同じ流れを汲む東鋏の老舗です。初代長太郎から三代目まで100年以上の歴史を持ち、「東鋏」の刻印を使うことを許された職人集団による手作りにこだわり続けています。プロの仕立て職人や洋裁家に根強い支持があります。

—  —

海外の老舗 — 刃物の街ゾーリンゲン、フィンランドの巨人、アメリカの職人ブランド

世界にも、裁ち鋏の名産地や歴史あるブランドがあります。

PROFILE

Fiskars(フィスカース)— フィンランド、1832年創業
フィンランドの小村「フィスカース」に刃物製造所が設立されたのは1832年のこと。19世紀には刀類からフォーク・ハサミへと生産を拡大し、今や世界100カ国以上に展開する大手生活用品メーカーとなりました。Fiskarsが最も有名なのは、1967年に誕生したオレンジ色のグリップのハサミ。このオレンジカラーは2003年にフィンランドで商標登録された、まさにブランドの象徴です。裁縫用・手芸用のシリーズも充実しており、ハサミの分野ではアメリカの老舗Gingher(後述)を傘下に収めています。
公式サイト:fiskars.com

PROFILE

Gingher(ギンガー)— アメリカ・ノースカロライナ州、1947年創業
1947年、アメリカのノースカロライナ州グリーンズボロに創業。高炭素カトラリー鋼を使ったホットドロップ鍛造という製法と、刃の研磨・テンションの調整を職人の手で一枚ずつ行う丁寧な仕上げで、アメリカのソーイング・キルティング愛好家から絶大な支持を得てきました。「世代を超えて使い続けられるハサミ」として語り継がれる存在です。2005年にFiskarsに買収されましたが、現在もGingherブランドとしてイタリアで製造が続けられています。
公式サイト:thegingher.com

Skilled craftsmen use a time-honoured method to hot-drop forge scissors from high carbon cutlery steel. The process of key grinding and polishing gives Gingher scissors their distinct appearance and sharpness. Hand-tuned tension points ensure that your Gingher will stand the test of time.(熟練の職人が高炭素鋼を鍛造し、研磨・テンション調整をすべて手作業で仕上げます。これがGingherのハサミの際立った外観と切れ味を生み出し、長期にわたる使用に耐える品質を保証しています。)


Sewing Parts Online / Gingher Scissors & Shears

PROFILE

DOVO Stahlwaren — ドイツ・ゾーリンゲン、1906年創業
刃物の街として世界に名を馳せるドイツ・ゾーリンゲン(Wüsthofのナイフや高級カミソリでも知られる産地)で生まれた老舗ブランド。ステンレス製の精密なハサミは刺繍・ソーイング愛好家から長年支持されてきましたが、2022年に裁縫用ハサミのラインナップを終了し、カミソリ・理容製品に特化することを発表しました。今もコレクターやファンの間で当時の製品が大切に使われています。

—  —

まとめ — 道具を選ぶことは、布と向き合うこと

裁ち鋏と普通のハサミの違いは、「大きさ」だけではありませんでした。刃の薄さ・鋭さ、グリップの非対称な形、付け鋼の製法、そして「布だけを切る」という専用性。これらすべてが積み重なって、あの独特の切れ心地が生まれています。

日本では刀鍛冶の技術が裁ち鋏に宿り、海外ではドイツのゾーリンゲン、フィンランドのFiskars、アメリカのGingherといった産地ごとのものづくり文化がそれぞれに花開きました。一丁の裁ち鋏を手に取るとき、その背景にある職人の歴史にも思いを馳せてみると、日々の裁縫がまた少し豊かになるかもしれません。

そして裁ち鋏と並んで大切なのが、もちろん生地そのもの。海外から厳選されたファブリックを使うからこそ、道具にも少し気を配ってみてください。

jumble shop oneでは海外から厳選したファブリックをお届けしています。

ショップへ

✦ 新着商品
読み込み中...
ショップで全商品を見る →