デニムリサイクルの新技術・インディゴ染料だけを取り除く



Shop Manager
Shop Manager
綿の需要は高まる一方で、生産はすでに環境的・農業的にも限界に近づきつつあり、リサイクルが重要になっています。

古着のデニムが、また糸になる。
インディゴ染料だけを取り除く新技術とサーキュラーエコノミーの今

クローゼットの奥に眠る色褪せたジーンズ。捨てるには忍びなく、かといってリメイクするほど気力もない――そんな経験が、きっとどなたにもあるはずです。実は、そのジーンズに使われている綿は、まだ十分に「使える」状態かもしれません。問題はただひとつ、深くしみ込んだインディゴ染料をどうするか、ということでした。2026年、その問いに応える研究成果が、繊維科学の国際学術誌『Textiles』(MDPI)に発表されました。綿繊維を傷つけることなく、インディゴだけを選択的に除去する最適化技術です。デニムリサイクルの扉が、また一枚開いた瞬間かもしれません。


デニムを「青くする」インディゴとは何か

ジーンズのあの深いブルーを生み出しているのが、インディゴ染料です。古くは植物(藍)から抽出されていたこの染料は、現在は主に合成インディゴとして工業的に生産され、デニム生地の製造に広く使われています。インディゴ染料には独特の性質があります。綿繊維の内部まで化学的に結合するのではなく、繊維の表面にゆるやかに付着する「表面染着」に近い構造をとります。これがデニム特有の「色落ち」を生むメカニズムでもあります。

なぜ染料がリサイクルの「壁」になるのか

綿は本来、繰り返し使用できる再生可能な天然繊維です。しかし染色されたまま機械的に裁断・解繊すると、色が残ったまま繊維が短くなり、新しい糸を作るには品質が落ちてしまいます。また、化学的なリサイクル(セルロースを一度溶かして再生繊維にする方法)においては、インディゴを含む染料や仕上げ剤が残っていると工程を妨げる原因になります。そのため「染料を先に取り除く前処理」が、高品質リサイクルへの重要な鍵とされてきました。

“A major obstacle to textile recycling is the presence of dyes, which limits the reuse of fibers in high-value applications.”

(日本語訳)「繊維リサイクルを妨げる大きな障壁が、染料の存在です。これにより、繊維を高付加価値な用途に再使用することが難しくなっています。」


Effective Dye Removal from Post-Consumer Cotton Textiles, Textiles (MDPI), 2025

—  —

2026年の新発見:水溶液とオゾンでインディゴだけを取り除く

2026年4月、国際学術誌『Textiles』(Volume 6, Issue 2)に掲載された研究(著者:Carla Joana Silvaら)が、繊維リサイクル研究者の間で注目を集めています。この研究が取り組んだのは、綿およびポリエステル生地のうえにプリントされたインディゴ染料を、基布(生地そのもの)を傷めずに取り除くための最適化処理です。

研究で試みられた2つのアプローチ

研究チームは大きく2種類の方法を検証しました。ひとつは「水系アルカリ溶液+界面活性剤」を使った湿式処理、もうひとつは「オゾン処理(乾式・湿式)」です。界面活性剤とは、石鹸や洗剤に含まれる「油と水の橋渡しをする成分」と考えるとわかりやすいでしょう。染料の粒子をほぐして水に引きはがすように作用します。

処理の効果は、色の濃さを示す数値(K/S値)と色差(ΔE)によって精密に測定されました。また処理の前後で、生地の引張強度や寸法安定性も比較評価されています。

“Results reveal that surfactant-assisted aqueous treatments enable effective pigment removal and maintain textile properties, supporting subsequent reprinting for textile upcycling. Wet ozone treatment also promoted substantial decolourisation, particularly in cellulosic substrates.”

(日本語訳)「界面活性剤を用いた水系処理は、染料(顔料)を効果的に除去しつつ生地の品質を維持し、その後の再プリントによるアップサイクルを可能にすることが示された。湿式オゾン処理もまた、特にセルロース系(綿)基布において著しい脱色効果をもたらした。」


Indigo: Textile Print Removal Using Aqueous-Based Solutions and Ozone Technology, Textiles (MDPI), 2026

綿とポリエステルで結果はどう違う?

興味深いのは素材による反応の違いです。ポリエステル生地は機械的な強度(引張強度)をよりよく保ちましたが、オゾン処理によるインディゴ除去効果はやや限定的でした。一方、綿(セルロース系)生地では、湿式オゾン処理が特に効果的に脱色をもたらしました。今後の産業応用では、素材の種類に応じた処理の最適化が重要になるでしょう。

ポイント整理:今回の研究の意義
(1) 綿繊維を傷めずにインディゴだけを選択的に除去できることを実証
(2) 既存の染色機械と互換性のある処理方法のため、新たな設備投資が少なくて済む
(3) 除去後の生地を再染色・再プリントできる状態に保てる(単なる廃棄ではなく「アップサイクル」への道が開ける)

—  —

古着デニムを「繊維資源」に変える産業の動き

この研究は、学術的な発見にとどまりません。綿のリサイクル技術全体を大きく前進させる可能性を持っています。2026年現在、繊維のサーキュラーエコノミー(循環型経済)は世界的な注目テーマとなっており、複数の研究機関や企業が産業応用を目指した開発を続けています。

HKRITAによるAI活用のデニムリサイクルシステム

香港に拠点を置く繊維・アパレル研究機関HKRITA(Hong Kong Research Institute of Textiles and Apparel)も、インディゴに特化した革新的な技術を発表しています。同機関が開発したのは、AIを活用してデニム生地からインディゴ染色された縦糸(たていと)を機械的に抽出・分離する自動リサイクルシステムです。化学薬品も水も使わないドライな工程という点が特徴的です。

“HKRITA has developed an AI driven mechanical recycling system to extract the reusable indigo-dyed warp yarns from denim fabrics. The Institute said it is a first-of-its-kind attempt to separate blended denim fabric using a chemical-free and waterless recycling approach.”

(日本語訳)「HKRITAは、デニム生地から再利用可能なインディゴ染色の縦糸を取り出すAI駆動の機械的リサイクルシステムを開発した。同機関によれば、これは化学薬品も水も使わないドライな工程でデニム混紡生地を分離する世界初の試みだという。」


WWD / Sourcing Journal, “HKRITA Advances Indigo-Focused Technologies”, 2024

「繊維から繊維へ」——2030年に向けた課題

学術誌『Textiles』に2026年3月に掲載された包括的レビュー論文(”Fibre-to-Fibre Recycling in Textiles”)は、綿を含む各種繊維の「繊維から繊維へのリサイクル」技術の現状をまとめています。それによると、セルロース系繊維(綿など)の需要は2030年までに約50%増加すると予測される一方、綿の農業生産はすでに環境的な限界に近づきつつあるとされています。「回収した綿をそのまま再び糸・生地にする」技術への期待が高まっているのは、こうした背景があるからです。

“Demand for cellulosic fibres is expected to increase by around 50% by 2030. However, cotton production is approaching its agricultural and environmental limits, prompting interest in recycling as an alternative to landfilling and primary production.”

(日本語訳)「セルロース系繊維の需要は2030年までに約50%増加すると見込まれる。しかし、綿の農業生産はすでに環境的・農業的な限界に近づきつつあり、埋め立てや新規生産に代わる手段としてリサイクルへの関心が高まっている。」


Fibre-to-Fibre Recycling in Textiles: Strategies, Limitations and Industrial Perspectives, Textiles (MDPI), 2026

—  —

まとめ:「染め直し」ではなく「染め落とし」から始まる循環

布を傷めずに染料だけを取り除く。シンプルに聞こえるこの技術が、繊維産業のサーキュラーエコノミーにとって、どれほど重要な一歩であるかがお分かりいただけたでしょうか。古着のデニムジーンズは、インディゴを取り除けば再び高品質な綿繊維として生まれ変わり、新しい糸に、生地に、そして次の誰かの一枚へとつながっていきます。

手芸やソーイングをたしなむ私たちにとって、布は特別な存在です。1枚の生地の向こうに、それを育てた畑があり、染めた人がいて、縫った人の手がある——そう思うと、「もう一度使う」という選択が、より豊かな意味を持ってくるように感じます。研究室での発見が、やがて私たちの手元に届く生地の物語を変えていく日を、静かに楽しみにしています。

jumble shop oneでは、厳選した海外ファブリックを取り揃えています。

ショップへ

✦ 新着商品
読み込み中...
ショップで全商品を見る →