「商用利用不可」のキャラクター生地、海外では訴訟にならない?--その誤解と、知っておきたい本当のリスク
ハンドメイド作家さんの間で、ときどき話題にのぼる「海外では商用利用不可の生地を使っても、訴訟になった例はほとんどないらしい」という話。SNSや海外フォーラムでもよく見かける言説ですが、これは危険な誤解です。今回は、海外の事例、アメリカの著作権法の基本的な考え方から、実際に起きている訴訟事例、そして生地を扱うすべての人が心に留めておきたいことまで、できるだけわかりやすく整理してみました。
最初にお伝えしたいこと
この記事は、「海外なら商用利用不可の生地を使っても大丈夫」ということを伝えるものでは、まったくありません。むしろ逆です。著作権・商標権といった他者の知的財産権を侵害する行為は、国や地域を問わず、絶対に避けるべきものだという立場で書いています。そのうえで、「なぜそうした誤解が生まれるのか」「実際には何が起きているのか」を、できるだけ事実に基づいて整理していきます。
「ファーストセール・ドクトリン」とは何か
アメリカの著作権法には、「ファーストセール・ドクトリン(初回販売の原則)」という考え方があります。これは、いったん正規に販売された著作物(本やCD、生地なども含まれます)については、著作権者がその後の転売や処分をコントロールできないというルールです。だからこそ、私たちは古本を売ったり中古CDを買ったりできるわけです。
この原則を根拠に、「お店で正規に買った生地を使って何かを作り、それを売ることも合法のはずだ」と主張する人が一定数います。けれど、実際に弁護士や法律専門サイトの解説を調べてみると、この解釈はかなり危ういものだとわかります。
「生地の転売」と「生地を加工した商品の販売」はまったく別の話
アメリカの著作権専門サイトの解説では、ファーストセール・ドクトリンが認めているのは「購入したものをそのまま転売すること」だけであり、それを材料に新しい製品を作って販売する行為までは保護しないと、複数の専門家が説明しています。この原則は、購入したものをそのまま転売することを認めるものであり、トレードマークやコピーライトの対象になった生地のロゴをそのまま複製したり、別の生地に転写したりすることまでは認めていません。
さらに踏み込んだ解説では、ファーストセール・ドクトリンが適用されるのは「もとの著作物そのものの再販売」だけであり、ライセンス生地を加工して新しい製品を作る行為には及ばないという見解も示されています。つまり、「生地を買ったから、加工品を売る権利まで自動的に手に入る」という考え方自体が、法律家の間でも支持されていないケースが多いということです。
“The ‘first sale doctrine’ allows resale of purchased goods but does not permit creating new products bearing copyrighted or trademarked designs without permission.”
(日本語訳:ファーストセール・ドクトリンは購入した商品の転売を認めるが、許可なく著作権・商標権で保護されたデザインを使った新しい製品を作ることまでは認めない)
実は、訴訟は起きている
「訴訟までは進まない」というイメージとは裏腹に、実際にはディズニーをはじめとする大手企業が、Etsyなどのハンドメイドマーケットの個人セラーを相手取って裁判を起こしているケースが複数報告されています。
例えば、フロリダ州の事業者が、ミッキーマウスのカチューシャなどをEtsy・eBay・Amazon・Facebook・Instagramなど複数のプラットフォームで販売していたところ、2022年12月にディズニーとルーカスフィルムから、商標権・著作権侵害を理由とする訴訟をフロリダ州中部地区裁判所に起こされました。この事業者は、2021年12月の時点で一度ディズニーから警告状(cease-and-desist letter)を受け取っていたにもかかわらず、店舗名を変えて販売を続けていたとされています。
また別の解説記事でも、ディズニーが近年、著作権で保護された知的財産を侵害する商品を販売しているとして、多数のEtsyセラーに対して法的措置を取っていると伝えられており、これは決して珍しいケースではないことがわかります。
「警告を無視して続けた」場合に訴訟リスクが跳ね上がる
上記の事例からもわかるとおり、権利者は最初から訴訟に踏み切るわけではなく、まずは警告状や削除要請という形でアプローチしてくることがほとんどです。問題は、その警告を無視して名前や店舗を変えながら販売を続けた場合です。こうした「悪質性」が認められると、企業側も本格的な法的措置に踏み切るケースが出てきます。
訴訟にならない=OKでは、決してない
ここがもっともお伝えしたいポイントです。仮に「裁判沙汰になりにくい」という側面があったとしても、それは権利侵害ではないということとはまったく違います。
ある法律相談サイトの解説では、はっきりとこう述べられています。著作権で保護された画像、キャラクター、商標を使って何かを作ることは、それらの権利の侵害にあたり、技術的に違法であるだけでなく、倫理的にも問題があるとされています。その上で、著作権侵害も商標権侵害も「無過失責任」に近い性質を持っており、侵害の意図や認識の有無にかかわらず、侵害したかどうかだけが問われるという厳しい現実も指摘されています。
別の専門家による解説でも、似たような注意喚起がされています。ライセンス生地や刺繍データ、画像などを完成品に使うことは、あくまで「抗弁(防御の主張)」になり得るだけであり、それ自体が「権利」として保障されているわけではないとされ、最終的にそれが許されるかどうかを判断するのは、知的財産を持つ企業側であり、必要であれば裁判所だという点が強調されています。
「他の人も売っているから」は、理由にならない
Etsyなどのマーケットプレイスでは、明らかにキャラクター生地を使った商品が普通に出品されている光景を目にすることがあります。これについて、ある解説記事はこう注意しています。他のセラーがディズニー関連の商品を成功裏に販売しているのを見て、自分も同じことをしてよいと考えてしまうのは誤った思い込みであり、他のセラーが見逃されているからといって、それが合法であることを意味しないとされています。
さらに踏み込んで、ディズニーのような大企業であっても、プラットフォーム上のすべての侵害出品を完全に逐一取り締まることはできないため、たまたま削除を逃れているだけのセラーと、運悪く対象になってしまうセラーとの違いは、単なる「巡り合わせ」に過ぎないという指摘もあります。つまり、今出品が消えていないことは、安全であることの証明にはまったくならないということです。
“Usage of any licensed fabric/embroidery file/image for finished products is always a defense, not a right.”
(日本語訳:完成品にライセンス生地・刺繍データ・画像を使用することは、常に「抗弁」になり得るだけであって、「権利」として保障されているわけではない)
「訴訟」より身近な、もっと現実的なリスク
個人作家にとって、実際に直面しやすいのは「裁判」よりも、もっと日常的なペナルティです。具体的には、出品の強制削除、アカウントの停止・永久BAN、そして場合によっては損害賠償の請求です。
Etsyの運用について解説した記事では、Etsyは著作権侵害にあたる画像やキャラクターの不正利用1件ごとに「ストライク」を科しており、3回のストライクでアカウントが永久に削除されるという具体的な仕組みが紹介されています。たとえ訴訟までいかなくても、これまで積み上げてきたショップそのものを失うリスクがある、ということです。
また、損害賠償の金額についても、軽く考えられるものではありません。著作権で保護された画像1点あたり最大15万ドル(日本円で2000万円超)、さらに原告側の弁護士費用まで請求される可能性があると、法律相談サイトでは具体的な金額が示されています。これは個人作家にとって、決して現実味のない数字ではありません。
補足:著作権侵害と商標権侵害は法律上の枠組みが異なりますが、どちらも「侵害したという事実」が認められれば成立し得るもので、「知らなかった」「悪気はなかった」という主張だけでは、責任を免れる理由にはなりにくいとされています。
まとめ:「グレーゾーン」に見えるものほど、慎重に
今回調べてみて改めて感じたのは、「訴訟になりにくい」という話が、いつのまにか「だからやってもいい」という話にすり替わってしまいやすい、ということでした。実際には、ファーストセール・ドクトリンという法律上の原則があるからといって、加工品の商業販売まで自動的に保護されるわけではないというのが、専門家の見解としてはむしろ主流です。そして実際に、警告を無視し続けた結果として訴訟に至っている事例も、決して少なくありません。
「商用利用不可」と明記された生地や、キャラクター・ブランドの著作権・商標権が関わる生地については、海外・国内を問わず、商用利用は避けるのが基本です。これは法律論である以前に、その生地のデザインを生み出した作り手や権利者への敬意の問題でもあります。
この記事を読んでくださる方へ
この記事は、公開されている情報や専門家の解説をもとに調べた内容をまとめたものであり、法律の専門家による正式な見解や法的助言ではありません。著作権・商標権に関する法律は国・地域によって異なり、また個別の事情によって判断が変わる場合があります。実際に生地を商用利用される際の最終的な判断と責任はその生地を使用するご本人にあります。少しでも不安や疑問がある場合は、メーカーや権利者に問い合わせたり、法律の専門家等にご相談のうえ、慎重にご判断ください。
jumble shop oneでは、厳選した海外ファブリックを取り揃えています。
