韓国ヒョンジが挑む「縫製AI」実証センター

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人の手が不可欠であった「縫製」もAIの進歩で無人化してしまうのでしょうか

布を縫うロボットは生まれるか。韓国ヒョンジが挑む「縫製AI」実証センター

金属や木材と違い、生地はやわらかく、滑りやすく、持ち上げるたびに形が変わります。だからこそ「縫う」という工程は、ロボットにとって長年もっとも攻略が難しい領域とされてきました。2026年6月30日、韓国のアパレル大手ヒョンジ(Fashion Group Hyungji)が、この壁に正面から挑む実証・研究開発拠点を全羅北道に建設すると発表しました。日々ファブリックに触れている私たちにとっても、他人事ではないニュースです。今回はこの発表の背景と、そこから見えてくる縫製業の未来について整理してみます。


何が発表されたのか

ヒョンジは、20以上のアパレルブランドを展開する韓国の大手ファッショングループです。本社は仁川にありますが、今回新たに建設が発表されたのは、全羅北道高敞(コチャン)郡興徳面にある自社保有地。広さは約2,000坪(およそ6,600平方メートル)で、サムスン電子の「スマートハブ」複合団地に近接し、湖南(ホナム)地方全体へのアクセスにも優れた立地とされています。

ここに作られるのは、単なる縫製工場ではありません。ヒョンジ自身が「裁断・縫製の自動化を研究・検証するフィジカルAI実証拠点」と位置づけている施設です。柔らかい生地をロボットが人の手のように扱う「柔軟素材ハンドリング技術」、生地の質感や縁、縫い目の位置を認識する「ビジョン(画像)認識技術」、そして生地を無駄なく正確に裁断する「自動裁断技術」――この3つを軸に研究を進め、実際の生産環境に近いパイロットラインで検証していく計画です。

ヒョンジは、傘下のヒョンジエリート、ヒョンジグローバルといったグループ企業の生産効率向上にもこのセンターを役立て、湖南地域の繊維産業を革新する拠点として育てていく方針を示しています。


ニュースピム「형지, 봉제 로봇 실증센터 추진…패션에도 ‘피지컬 AI’ 입힌다」より要約・翻訳

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なぜ「縫う」はロボットにとって難しいのか

金属や樹脂の部品を溶接したり組み立てたりする作業は、すでにAIとロボットが得意とする領域です。しかし生地は違います。重力や引っ張る力によって刻一刻と形を変え、滑りやすく、しわになりやすい。1枚の布をロボットアームでつかみ、変形を認識しながら、もう1枚の布に正確に重ねて縫い合わせる――この一連の動作は、今も人の手先の感覚と経験に大きく頼っています。「縫製の自動化」は少なくとも30年来のテーマでありながら、いまだに根本的な解決に至っていない課題なのです。

過去の挑戦と、いまだ残る壁

これまでにも、アメリカのSoftWear Automationをはじめ、複数の企業がロボットによる縫製自動化に取り組んできました。ただ、その成果の多くは実験室の中にとどまるか、タオルやシーツのように型崩れの少ない平面的な生地の縫製といった、限定的な用途にとどまっています。襟やポケットがあり、曲線的な裁断が必要な複雑な衣服は、今なお人の手による縫製が中心です。この「最後の壁」を崩せるかどうかが、ヒョンジの新センターの挑戦の核心にあります。

生地は柔らかく、滑りやすく、予測が難しい――だからこそ「縫製」は繊維産業において数十年来、最も自動化が困難な工程とされてきました。台湾のAIメディア「AI郵報」は、今回のヒョンジの動きを、この長年未解決の課題への挑戦として紹介しています。


AI郵報「韓國時尚集團連縫紉都要交給AI了!」より要約・翻訳

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国家プロジェクトとの連動、そしてその先にあるもの

今回の発表には、もう一つ重要な背景があります。ヒョンジの発表の前日にあたる6月29日、韓国のイ・ジェミョン大統領は「大韓民国大跳躍・3大メガプロジェクト」と題した国民向け報告会を主催し、サムスン電子やSKグループの会長らも同席しました。ここで示されたのは、半導体、フィジカルAI、AIデータセンターを3本柱とし、政府と企業が合わせて約2,000兆ウォン(約1.3兆ドル)規模を投じるという国家的な構想です。

ヒョンジは自社の発表文の中で、今回のセンターがこの政府方針の「フィジカルAI」分野と明確に連動していると位置づけています。一民間アパレル企業の設備投資が、国家戦略の一部として語られている点に、このニュースの規模感がよく表れています。

もし柔軟素材のハンドリングとビジョン認識で本当にブレイクスルーが起きれば、その影響は韓国国内の生産効率向上にとどまりません。バングラデシュ、ベトナム、カンボジアといった国々が長年、世界のアパレルサプライチェーンの中心であり続けてきたのは、まさに縫製の労働集約性が技術によってなかなか崩れなかったからです。この壁が崩れるとき、世界の服づくりのコスト構造や生産地図そのものが、静かに書き換えられていくのかもしれません。

もっとも、複雑な衿ぐりや曲線のあるパターンを縫うには、まだ多くの技術的なハードルが残っているとみられます。AIがどこまで生地の「クセ」を読み取れるようになるのか、そして手縫い・手仕事の価値がどう再定義されていくのか――ファブリックを扱う私たちとしても、今後の展開を注意深く見守りたいところです。


まとめ

韓国ヒョンジによる「縫製AI」実証センターは、繊維業界が長年抱えてきた「布はロボットが最も苦手とする素材」という常識に挑む試みです。国家プロジェクトと連動した大規模な取り組みだけに、今後の成果次第では、世界のアパレル製造のあり方そのものに影響を与える可能性があります。技術がどこまで生地の繊細さに追いつけるのか、私たちも引き続きこのテーマを追いかけていきたいと思います。

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