JASTIとは?日本の縫製現場に広がる「人権監査」のはなし
「JASTI」という言葉を、ニュースや業界誌でちらっと見かけたことはありませんか。アルファベット4文字だけ見ると、なんだか堅そうな制度に思えてしまいますが、実はこれ、私たちが日々触れている「日本製の生地」や「日本製の縫製品」の足元を支える、とても大切な仕組みです。今日は、この「JASTI(ジャスティ)」を取り上げます。
JASTIって、そもそも何?
JASTI(Japanese Audit Standard for Textile Industry)は、経済産業省が策定した、日本の繊維産業のための「監査要求事項・評価基準」です。2025年3月26日に策定が発表され、同年4月1日から実際の監査運用が始まりました。かんたんに言うと、「工場の労働環境は、国際的な人権基準にきちんと適合していますよ」ということを、第三者の監査機関が確認するためのしくみです。
なぜ今、このような制度が必要になったのでしょうか。背景には、世界的なファッション・繊維業界の潮流があります。「この服はどんな環境で作られたのか」を問う視線は、年々厳しくなっています。日本の縫製工場やテキスタイル産地でも、深刻な人手不足を補うために外国人労働者の力が欠かせない存在になっていますが、労働環境や人権への配慮が国際基準に見合っていなければ、海外ブランドからの信頼も、そして日本のものづくりそのものへの信頼も、失われてしまうおそれがあります。
経済産業省は、日本の繊維産業全体の社会・人権面の対応強化による競争力向上を図るべく、日本の繊維産業の実態を踏まえた監査要求事項・評価基準「JASTI」を策定しました。
JASTIは、国際労働機関(ILO)が定める中核的労働基準(結社の自由、強制労働の禁止、児童労働の撤廃、差別の排除、安全で健康的な労働環境など)を土台にしながら、日本の繊維産業の実情に合わせて作られた、いわば「日本仕様の人権チェックリスト」なのです。
具体的に、何をチェックしているの?
JASTIの監査項目は、全部で84項目。それが下記の9つの分野に分かれています。
強制労働(9項目)/児童労働(6項目)/差別・ハラスメント(9項目)/結社の自由・団体交渉権(2項目)/労働安全衛生(22項目)/雇用及び福利厚生(15項目)/賃金(8項目)/デュー・ディリジェンス(7項目)/外国人労働者(6項目)
なかでもいちばん項目数が多いのが「労働安全衛生」で22項目。ミシンを踏む現場、裁断機を扱う現場など、まさにソーイングの最前線に直結する分野です。パスポートの取り上げがないか、不当な手数料を取っていないか、パワハラ・セクハラがないか、国籍や性別による賃金差別がないか——そうした一つひとつを、書面と現地調査の両方でチェックしていきます。
「認証」ではなく「監査」という選択
興味深いのは、JASTIがGOTS(オーガニックテキスタイル世界基準)のような「認証」ではなく、あえて「監査」という形を取っていることです。認証には独立した認定機関が必要で、時間もコストもかかります。JASTIは、これまで海外の監査を受けた経験のない中小事業者が対象になることを想定し、国際認証と最低限つながる項目に絞ることで、取り組みやすい設計になっているのです。
これまで監査などの経験がない中小事業者が対象に多いことを想定し、国際認証と最低限接続できる項目に絞った。当面はGOTSのような「認証」ではなく「監査」とする。認証に比べて時間と手間、コストがかからないため。
縫製業界に、どんな影響が出ているの?
「特定技能」の外国人を受け入れるための必須条件に
2024年3月の閣議決定で、外国人材の在留資格「特定技能」の対象分野に繊維業が加わりました。人手不足の現場にとっては朗報ですが、その受け入れには「国際的な人権基準に適合し事業を行っていること」という追加要件が課されています。JASTIは、この要件を確認するための監査・認証の一つとして採用されました。つまり、JASTI監査でA判定またはB判定を受けなければ、特定技能の外国人を新たに雇うことも、在籍している方のビザを更新することも難しくなる——縫製工場にとっては、避けて通れない関門になっているのです。
中小の工場でも挑戦しやすいコスト設計
海外の人権認証(SA8000など)を取得するには、100万円を超える費用がかかることも珍しくありません。一方、JASTI監査は、指定監査機関であるカケンテストセンターや日本繊維製品品質技術センター(QTEC)が、監査費用を20万円程度と明示しています。決して安い金額ではありませんが、国際認証に比べればぐっと手が届きやすくなり、小さな縫製工場でも取り組める設計になっています。
運営を支える体制
JASTI監査制度全体は、日本繊維産業連盟に設置された「JASTI統括事務局」が管理しています。その傘下で、人権デュー・ディリジェンス推進コンソーシアムと全国社会保険労務士会連合会がそれぞれ事務局を持ち、監査の受付・実施や、事前相談・事後フォローを担当する形で、3者が連携しながら運用されています。監査経験のない工場にとっては、社労士のサポートを受けながら準備を進められるのも心強いポイントです。
もっと知りたい方へ
JASTIの詳しい制度概要や監査項目は、日本繊維産業連盟が運営する公式ポータルサイトで確認できます。
リンク:JASTIポータルサイト
まとめ:ミシンの手仕事と、働く人へのやさしさ
JASTIは、経済産業省の「生活製品課(旧・繊維課)」が中心となり、2023年9月に立ち上げられた研究会での議論を経て、2025年3月に策定された制度です。日本の伝統的な、丁寧なミシン縫製の技術だけでなく、「そこで働く人にもやさしい、クリーンな製造現場である」という新しい強みを、世界にアピールするための土台になっています。
私たちが手にする一枚の生地、一着の製品の向こう側には、必ずそれを縫い上げた誰かの手があります。JASTIのような制度が根づいていくことは、めぐりめぐって、私たちが安心して「made in Japan」の生地や製品を選べる未来につながっているのかもしれません。
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