自分の体に合わせて服を作る Body Positivity

Shop Manager
Shop Manager
誰かが作った型紙に自分を合わせるのではなく、自分のためだけの型紙から服を作る

「体を服に合わせる」から「服を体に合わせる」へ ― 型紙をめぐる静かな革命

市販の服のサイズがどうしても合わず、鏡の前で「自分の体のほうが悪いのだろうか」と感じたことのある人は、きっと少なくないはずです。けれど近年、海外の縫い物コミュニティを中心に、その前提そのものをひっくり返す動きが広がっています。掲示板を覗けば、自分にジャストフィットする服を自作し、誇らしげに見せ合う投稿であふれている――それは単なるトレンドではなく、型紙という道具の役割そのものを問い直す変化なのかもしれません。


「標準サイズ」はいつ、なぜ生まれたのか

そもそも「型紙」は、最初から誰かの体に合わせて作られていたわけではありません。西洋の型紙製図の歴史をたどると、19世紀以前は職人の勘に頼る「ロック・オブ・アイ(目分量)」式の裁断が主流で、そこから胸囲などの身体寸法を基準にした比率で製図する「プロポーショナル・システム」、個人の実寸を採寸して製図する「ダイレクト・メジャー・システム」が徐々に整備されていきました。もっとも、当時はまだ職人の男性たちの世界の話で、家庭向けに簡略化する必要はほとんどなかったといいます。

非専門家向けの型紙が広まり始めたのは19世紀、しかもファッション誌ではなく慈善・道徳系の出版物がきっかけだったそうです。そこから子供服、続いて胸囲を基準にした女性服へと展開し、20世紀にはButterickやMcCall’sといった企業が「決まったサイズの型紙」を大量生産・大量流通させる仕組みを確立しました。戦後の home sewing ブームもこの流れを後押しし、「標準体型」という前提が型紙の中にしっかりと組み込まれていったのです。つまり「サイズが合わない」という感覚は、体の側の問題というより、量産のために生まれた仕組みの副産物だったとも言えます。

参考:The Weekend Project「A brief history of the sewing pattern」

—  —

「自分の体が普通」という視点への転換 ― 海外コミュニティの声

この「標準サイズ」という前提に、正面から異を唱えたのが海外の縫い物コミュニティでした。2010年代、SNS上では#SewLimitedというハッシュタグのもと、サイズ展開の狭さに疑問を投げかける動きが広がり、2013年にはJenny Rushmore氏(後にCashmerette Patternsを創業)がCurvy Sewing Collectiveを立ち上げ、体格の大きい人のための情報を集積する場をつくりました。この流れを受けて、Cashmerette(サイズ0~32、カップC~H)、In the Folds(ヒップ184cmまで対応)、Sew House Seven(Curvy Size Range)など、インディーズ系パターンブランドが相次いでサイズ展開を拡大しています。

ファッション研究誌『Fashion Studies』に掲載された論考では、こうしたインディーズ型紙コミュニティを既製服(RTW)産業に対する存在として位置づけています。

“a radical alternative to the ready-to-wear industry”

(既製服産業に対する「ラディカルな代替案」)


Fashion Studies「A Radical Alternative」

数字や制度だけでなく、個人の語りもこの動きを支えています。縫い物ブロガーのSwoodson Saysさんは、事故やケガで背骨から胴体まで歪んでしまった自分の体に合わせてスポーツブラを縫った経験を綴り、こう読者に呼びかけています。

“sew for & celebrate the body you have right now”

(今、目の前にあるその体のために縫い、その体を祝おう)


Swoodson Says

—  —

「自分サイズ」をつくるという技術

もっとも、「サイズを広げます」と宣言するのと、実際に体に合う型紙を引くのとの間には、大きな距離があります。インディーズブランドの拡張プロセスを追ったIn the Foldsのインタビューでは、多くの企業が既存のファッション教育やテキストブックに頼って製図しているものの、それらの多くがヒップ48インチを超える体型を想定しておらず、参照できる体系立った資料自体がほとんど存在しないという課題が語られていました。サイズを広げるというのは、単に数字を足すだけではなく、知識そのものを一から積み上げ直す作業でもあるのです。

こうした状況もあって、海外でも日本でも、「まず自分の実寸で型紙を引く」という発想への回帰が見られます。日本の洋裁ブロガーの中には、自分の正直な採寸データを製図ソフトに入力し、既製の型紙を一切介さずにTシャツの型紙を一から起こしたという記録を残している人もいます。海外のハウツー記事でも、すでに体にぴったり合っている手持ちの服を型紙代わりにトレースする方法が紹介されており、アプローチは違っても「既製のサイズ表に自分を当てはめるのではなく、自分の体から型紙を立ち上げる」という考え方は共通しています。

“we sew a “my size””

(私たちが縫うのは「サイズ10」でも「サイズ36」でもなく、「自分のサイズ」)


This Blog Is Not For You

ちなみに日本の洋裁教育にも、体の実寸から製図する「原型(げんけい)」という考え方が昔からあります。海外のボディポジティブな型紙文化と、日本の原型づくりの伝統は、出発点も呼び方も違いますが、「まず自分の体を測ることから服づくりを始める」という点では、実はよく似ているのかもしれません。

—  —

型紙は、体に寄り添うための道具

型紙の歴史をたどると、それが最初から「体に合わせる」ためではなく、「大量生産のために体を揃える」ために整備されてきた側面が見えてきます。だからこそ、市販服が合わないのは、決して自分の体のせいではありません。ボディポジティブという言葉の広がりは、その事実に多くの作り手が気づき始めた証でもあります。掲示板やブログにあふれる「自分にジャストフィットな一着」の投稿は、標準サイズという発明への問い直しなのだと思います。

jumble shop oneでは、厳選した海外ファブリックを取り揃えています。

ショップへ

✦ 新着商品
読み込み中...
ショップで全商品を見る →