静電気を逃がす糸が、白や淡い色を手に入れた――グンゼの新制電糸「STATAWAY」を読み解く
冬の足音が近づくと、ニットを脱ぐたびに「パチッ」と走る、あの小さな衝撃を思い出す季節になりました。
10月8日、グンゼがカーボンや金属を使わずに静電気を逃がす新しい制電糸「STATAWAY(スタットアウェイ)」の開発を発表しました。従来の制電糸が抱えていた「どうしても黒やグレーになってしまう」という悩みを、素材の発想から変えた糸です。
手芸や生地の世界に直接つながる話なのか。まずは公式発表と報道をもとに内容を整理し、最後に「もし手作りの現場に届いたら」を想像してみました。
静電気を逃がす「制電糸」とは
セーターを脱ぐ瞬間のパチッは、こすれ合った素材のあいだにたまった電気が、一気に逃げていく現象です。素材によって帯電のしやすさは違い、ポリエステルに代表される合成繊維は電気を通しにくく、静電気が起きやすい素材だと特許公報でも説明されています。また、静電気は環境条件や取り扱い条件に強く左右されることが、大阪産業技術研究所の資料でも述べられています。冬の乾いた日に特に気になるという実感とも重なります。
そこで使われるのが「制電糸」です。電気を通しやすい成分をもたせた機能糸を、衣服の生地に織り込むことで、たまった静電気を逃がしやすくします。静電気を防ぐ方法には、塗布や練り込み、複合紡糸などがあり、芯にカーボンや金属などの導電性物質を含ませた芯鞘(しんさや)複合糸もその一つとして、先ほどの特許公報に紹介されています。
制電は、不快感をやわらげるためだけの機能ではありません。可燃物を扱う現場や、精密な電子部品をつくる現場では、衣服にたまった静電気の放電が、発火や部品の損傷につながりうることが、制電性の布地に関する米国特許で説明されています。作業服の制電は安全のための機能でもあるのです。
ただし、色には悩みがあった
従来の制電糸は、カーボン(炭素)や金属を使うものが主流でした。静電気を素早く逃がせる一方で、糸そのものが黒やグレーに見えてしまうため、白や淡い色、鮮やかな色の衣服や資材には使いにくいという制約があったと、グンゼのリリースは説明しています。
STATAWAYの仕組みと、3つの強み
STATAWAYは、この色の制約を、導電の担い手を替えることで越えようとした糸です。導電性の物質として、カーボンや金属ではなく「イオン導電ポリマー」を採用しています。
「カーボンや金属を一切使用しない」
イオン導電ポリマーとは、名前のとおり、イオンの移動によって電気を通す性質をもつ高分子(プラスチックの仲間)のこと。黒い炭素や金属が入らないぶん、糸の白さを保てるのが大きなポイントです。日本経済新聞は、このポリマーを繊維の内部に配置することで、糸の白色度を高めたと伝えています。
技術の出どころもおもしろいところです。グンゼが得意とするプラスチックフィルム事業の「樹脂成型加工技術」を、繊維に応用しています。性質の異なる素材を積み重ねるフィルムづくりの知見を、糸の設計に持ち込んだとのこと。ふだんは別々の部門で磨かれてきた技術の掛け合わせが、今回の糸を生みました。
PROFILE
グンゼ株式会社
1896年(明治29年)、京都で創業。アパレル、プラスチックフィルム、エンジニアリングプラスチック、医療機器などを手がける製造・技術開発企業です。繊維資材事業では、工業用ミシン糸なども展開しています。
リンク:グンゼ公式サイト
強み1 白から多色まで、色を選ばない
糸そのものの白さが保てるため、ピュアホワイトはもちろん、さまざまな色への染め分けが可能になったとのことです。デザインを重視する衣料から、清潔感のある見た目が求められる産業資材まで、これまで制電糸が入りにくかった領域を狙います。
強み2 静電気を素早く、効率よく逃がす
イオン導電ポリマーを繊維の中に最適な形で配置することで、従来の制電糸と比べて、静電気を素早く効率的に逃がせると説明されています。
強み3 効果が長く続く
発生した静電気を持続的に逃がす効果があり、衣服への静電気の蓄積を抑えるとのこと。時間が経っても効果が続くことを、グンゼは特長の一つに挙げています。
なお、確認できた公式情報の範囲では、帯電量などの具体的な数値や、洗濯を重ねたあとの持続性を示すデータは公表されていません。使い心地や耐久性の実際は、今後の製品情報や試験結果を待ちたいところです。
想定される用途と、これから
リリースで想定されている用途は、大きく3つに分けられています。
高機能・ファッションアパレル
白物のカットソー、スポーツウェア、アウトドアギア、冬用ニットなど。デザインを邪魔しない静電気対策として。
ユニフォーム・作業着
精密機械工場、医療・製薬の現場、クリーンルーム用ウェアなど。高い安全基準と、清潔感のある白や多色展開の両立をめざします。
インテリア・資材
カーペット、カーテン、車載シート、フィルター類など。
日本経済新聞によると、グンゼは医療現場や精密機器工場のユニホーム、アウトドアやスポーツ用などでの利用を見込み、2027年以降、国内外で年間3億円以上の売上高を目標にしています。今後は、この技術をベースに製品ラインアップを広げ、国内外のBtoB(企業向け)市場へ積極的に展開していく方針です。
一方で、発売時期や販売の経路、具体的なラインアップについては、確認できた公式情報では明らかになっていません。
手芸・ファブリックの目線で想像してみる
ここから先は、発表された内容ではなく、手芸やファブリックの目線での想像です。
まず前提として、発表されたのは「糸」です。生地として届くのか、ミシン糸なのか、編み糸や刺繍糸なのか、提供の形は明らかにされていません。グンゼは工業用ミシン糸の製造・販売を手がける繊維資材事業をもち(ニュースイッチ)、今回のリリースにもその紹介が添えられていますが、手芸向けの展開に触れた記述は見当たりません。
色の繊細さを損なわない機能性
繊細な色合いを楽しむ生地ほど、機能のための黒い糸が混ざると、色の印象が変わってしまいます。白や淡い色のまま静電気対策ができるなら、これまで「機能性」と「やさしい色合い」を両立しにくかった衣料にも、選択肢が広がるかもしれません。
冬の手作り服と、静電気
合成繊維は静電気が起きやすい素材です。ニットやフリース、ポリエステルの裏地などで冬の服を手作りすると、着たときのまとわりつきやパチパチが気になることがあります。もし制電糸が衣料用の布や裏地に使われる日が来れば、手作りの冬服の快適さにも関わってくるかもしれません。
パッチワークや手芸資材への広がり
パッチワーク用の布や手芸用の糸にまで届くかどうかは、現時点では未知数です。それでも、色を選ばない制電糸という考え方は、これからの手芸資材の発想を広げるきっかけになるかもしれません。産業の現場で磨かれた素材が、数年後に身近な布や糸のラインアップを少しずつ変えていく。そんな未来を気長に待ってみたいと思います。
まとめ
STATAWAYは、カーボンや金属の代わりにイオン導電ポリマーを使うことで、制電糸の弱点だった「色」を克服しようとする糸です。グンゼは、白から多色までの展開と、高い制電性能、その効果の持続性を特長として挙げています。用途の中心は、アパレル、作業着、インテリア・資材で、展開先は国内外のBtoB市場です。
手芸分野への展開は、現時点では発表されていません。今後は、発売時期や販売の形、展開される色の幅、耐久性のデータなどが明らかになっていくかどうかが注目点です。生地や糸を扱う立場として、機能素材の進化には、引き続き目を向けていきたいと思います。
参考・出典
グンゼ株式会社 プレスリリース(PR TIMES、2026年10月8日)
日本経済新聞「グンゼ、静電気逃す糸に炭素や金属使わず 白・淡色を鮮明に」
化学工業日報「グンゼ、カーボンレス制電糸開発 白・多色展開可能」
特許公報 JPH03180511A「制電性複合繊維」(Google Patents)
大阪産業技術研究所(orist)掲載の静電気測定に関する資料
米国特許 US6291375「Textile fabric for dissipating electrical charges」(USPTO)
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