SERIES|アーカイブ探訪
国立国会図書館のデジタルコレクションをご存じですか?国内の貴重な資料をオンラインで閲覧できるアーカイブです。当ブログでは、その中から裁縫・テキスタイルにまつわる面白い資料をシリーズでご紹介していきます。掲載するのは著作権保護期間が満了し、自由に使用できる資料のみです。
VOL.01
最新流行小児洋服全書
── 明治41年の子ども服裁縫書
東京洋裁研究会
子ども服・洋裁
今回ご紹介するのは、明治41年(1908年)3月に出版された『最新流行小児洋服全書』です。発行は東京洋裁研究会。タイトルからして、もうわくわくしませんか?

「最新流行」「小児洋服」── 明治時代にも、子ども服には”流行”があり、それを丁寧に解説した専門書が存在していたのです。洋服が日本に根づき、家庭の裁縫文化と交差していく、そんな時代の空気を感じられる一冊です。

緒言 ── 著者のことば
本書の冒頭には、著者による「緒言」が収められています。明治時代の文語体で書かれた文章ですが、その内容は現代にも通じる切実さにあふれています。
【原文】
今や洋服は第二の日本服となつて、現社會のあらゆる階級に歡迎されて居る、從つて又小兒服の需用も近來非常に増加して來たのは、是又自然の趨勢である、けれども此小兒服の流行が、日尚を淺き爲め、之れを營業とする者を初め、一般の家庭に在ても、末だそれが裁縫上に於ける、智識を持つて居らぬ…(中略)…茲に實物教授的の本書を編述したので、以下掲くる處の數十圖を熟覽すれば忍ち獨手に其技術を解得し得らるゝのである。
【現代語訳】
いまや洋服は「第二の和服」として、社会のあらゆる階層に受け入れられています。それにともない、子ども服の需要も近年ますます増えてきました。しかしながら、子ども服の流行がまだ日が浅いため、洋服を商いとする人も、一般の家庭においても、裁縫の知識が十分に普及していません。どのような形が衛生的・経済的・美的観点から優れており、流行にも合っているのか、まだよくわかっていない状況です。そこで本書は、難しい理論や説法を省いて、実物を見ながら学べる形で編集しました。掲載する数十の図をよく見れば、誰でも独学でその技術を身につけることができるでしょう。
「洋服が第二の日本服になった」という書き出しが印象的です。明治41年の時点で、すでに洋服はそれほど広く受け入れられていたのですね。そして、流行はあるけれど、正しい作り方を知っている人が少ない ── だから本を書いた、という著者の動機も、とても実直で好感が持てます。

尺度の進歩 ── 裁縫の「ものさし」が変わっていく時代
7ページには「尺度の進歩」と題した章があります。裁縫に使うものさし(尺度)の変遷と、著者が開発した新しい尺度「アジヤステーブル尺」について書かれています。
【原文(抜粋)】
我が裁縫界に於て使用し來た尺度は皆思ひ々に鯨尺曲尺米突尺より進下クラジラ尺又スターンダド尺となり…今回大に改良を加へ尺度を二種に分ち小兒服用には鯨尺の中に分數の目盛等其他背巾前巾襟挫袖巾脇の定めなど總て必用なる部分は皆此アジヤステーブル尺に藏せてあるから和服にも應用が出來て素人にも速に裁斷原圖を丁解し得らるゝ…
【現代語訳】
日本の裁縫界では、鯨尺・曲尺・メートル尺など、さまざまな単位のものさしが混在して使われてきました。それぞれ使いこなすには熟練が必要で、初学者には難しい点が多くありました。そこで今回、大きく改良を加えて「アジャスタブル尺」という新しいものさしを開発しました。子ども服用には、鯨尺の目盛りの中に分数の目盛りも加え、背幅・前幅・衿・袖幅・脇など、必要な寸法がすべてこの一本のものさしでわかるように設計しています。和服にも応用でき、初心者でもすぐに裁断の原図が理解できるようになっています。
「アジヤステーブル尺」は「Adjustable(調整可能な)尺」のこと。鯨尺・曲尺・メートル尺が混在していた時代に、初心者でも使える「オールインワンのものさし」を作ろうとした試みです。今でいうと、スマートフォンのアプリひとつですべての単位を換算できるような感覚でしょうか。

アジヤステーブル尺の仕組み
【原文(抜粋)】
人体は右左相對照せるものなるを以て例令ば上胴迴りの一尺六寸なる人には其半分即ち八寸を以て其人の上胴廻の左右何れかの一方と見做して作圖するを便なりとす…小兒用尺は其長さ一尺にして恰も二尺の正度に相當するを以て二尺より一尺二寸に至る人の衣服を調製するに當り要する寸法は一々精細に求め得らるものなり…
【現代語訳】
人の体は左右対称であるため、例えば胴回りが1尺6寸の人であれば、その半分の8寸を「片側の正度(基準寸法)」として型紙を引くと便利です。子ども用尺は長さ1尺で、ちょうど胴回り2尺の「正度」に対応するように設計されています。これにより、胴回り2尺から1尺2寸(子どものサイズ範囲)の衣服の寸法を、この一本のものさしで細かく求めることができます。表面には「正度・脇幅・女子用袖幅・仙操(前身頃)の深さ」などが刻まれ、裏面には普通の鯨尺の目盛りと衿の寸法などが一目でわかるようになっています。
体の左右対称性を利用して「半分の寸法で型紙を引く」という考え方は、現代の裁縫でも変わらぬ基本ですね。それを一本のものさしに集約しようとした発想の合理性に、思わず唸ってしまいます。

寸法取方 ── 採寸の基本
10ページには「寸法取方」、つまり採寸の方法が書かれています。
【原文(抜粋)】
先づ上着の寸法を測るには必ず下着を着し其上より測るものとす…第一に上胴廻り次は下胴廻を測る夫れから前巾及び後巾を少し廣目に測るもよし…背丈は身柱より圖の如く測る…前丈は肩の眞中より臍迄とす…
【現代語訳】
上着の寸法を測るときは、必ず下着を着た状態でその上から測ること。また重ね着(多套)のときは、上着の上から測るのがよいとされています。順番は、まず上胴回り、次に下胴回り。前幅・後ろ幅は少し大きめに測っても構いません。背丈は背骨(身柱)から図のように測り、前丈は肩の中心からへそまでとします。そのあと順に、首回り・袖丈・着丈、男の子であれば股下なども細かく測ります。なお、メジャーを使うときは体に密着させすぎず、適度にゆるめて測るのがよいとされています。
「下着を着た状態で測る」「メジャーは密着させすぎない」── 現代の洋裁テキストに書かれていることと、基本的にほとんど変わりませんね。採寸の原則は、100年以上前からすでに確立されていたのだと実感します。

おわりに
明治41年という時代、洋服はまだ「新しいもの」でした。でも洋服を作りたい・着せたいという人たちは確かにいて、そのための書籍が生まれ、工夫が重ねられていた。そのことが、この一冊からしみじみと伝わってきます。
生地や裁縫の文化は、こんなにも長い時間をかけて積み重ねられてきたのですね。次回もまた、デジタルコレクションの中から面白い資料をご紹介します。どうぞお楽しみに。
📚 資料情報
| 書名 | 最新流行小児洋服全書 |
| 発行 | 東京洋裁研究会 |
| 出版年 | 明治41年(1908年)3月 |
| 所蔵 | 国立国会図書館デジタルコレクション |
| 備考 | 著作権保護期間満了・自由利用可 |
