ソーイングが、テレビの前に人を集める。イギリスの人気番組「ソーイング・ビー」の世界
ミシンの音、ハサミが生地を切り抜ける瞬間、完成した洋服をモデルに着せる緊張感。イギリスでは毎年、素人のソーイング好きたちがテレビカメラの前でその腕前を競い合います。BBC制作のリアリティ番組「The Great British Sewing Bee(グレート・ブリティッシュ・ソーイング・ビー)」は、2013年の放送開始から今日まで、世界中のソーイングファンを魅了し続けてきました。この番組の魅力を、海外コミュニティの声とともにご紹介します。
「ソーイング・ビー」ってどんな番組?
The Great British Sewing Bee(略称:GBSB)は、BBC制作のリアリティ・コンペティション番組です。「英国一の家庭ソーイング名人」を決めるべく、全国から集まった12名のアマチュアソーイングファンが週ごとのテーマに沿ってさまざまな課題に挑戦します。
同じ制作会社(Love Productions)による料理番組「The Great British Bake Off」のソーイング版とも言える存在で、2013年4月2日にBBC Twoで初放送。その後人気を拡大し、2020年からはBBC Oneに昇格。シリーズ11(2025年)まで続く長寿番組となっています。
番組の舞台と出演者たち
撮影は現在、イングランド北部リーズ郊外にある19世紀の羊毛紡績工場「Sunny Bank Mills」で行われています。産業革命の時代から続く歴史ある建物の中でミシンが動く、という背景もまたこの番組ならではの風景です。
進行役(プレゼンター)はシリーズごとに変わり、初期はクローディア・ウィンクルマン、その後ジョー・ライセット、サラ・パスコー、キール・スミス=バイノーなどが務めてきました。一方、審査員のパトリック・グラントとエスミー・ヤングは長年にわたって番組の顔となっており、ふたりのやりとりも視聴者に愛されています。
PROFILE
Patrick Grant(パトリック・グラント)
エディンバラ出身。ロンドン・サヴィル・ロウの老舗テーラー「Norton & Sons」のオーナー。服飾の技術的な観点から審査を行い、その鋭い目とユーモアで知られる。
Esme Young(エスミー・ヤング)
1970年代にロンドンのカムデンでデザイナーズ・コレクティブ「Swanky Modes」を立ち上げた伝説的人物。映画衣装デザイナーとしてブリジット・ジョーンズのバニーガールスーツなども手がけた。シリーズ4からジャッジとして参加。
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毎回3つの課題に挑む — 番組のフォーマット
各エピソードには毎回テーマがあり(「夏」「リサイクル」「1930年代」「ランジェリー」など)、そのテーマに沿って3つの異なる課題に挑戦します。
1. パターン・チャレンジ(Pattern Challenge)
全員が同じ型紙を使い、同じアイテムを制作します。求められるのは正確な裁断、きれいな縫い目、丁寧な仕上げ。同じスタートラインからどれだけ精度の高い仕上がりを見せられるかが問われる、基礎力の試練です。
2. トランスフォーメーション・チャレンジ(Transformation Challenge)
既製品の洋服や古着を素材として、まったく別のアイテムに作り替えます。「男性のスーツを女性のドレスに」「カーテンを子ども服に」といった発想の転換と技術力が同時に試される、番組の中でも特に見どころのある課題です。サステナビリティの観点からも注目されています。
3. メイド・トゥ・メジャー・チャレンジ(Made-to-Measure Challenge)
実際のモデルにぴったり合うオリジナル作品を一から制作します。型紙も構造も自分で考え、モデルの体型にフィットさせなければなりません。毎エピソードのクライマックスにあたる最難関の課題です。
“Each episode features three main challenges: the Pattern Challenge, the Transformation Challenge, and the Made-to-Measure Challenge. Contestants are judged on accuracy, innovation, garment fit, and finishing techniques, providing viewers with practical insights into sewing.”
(訳)「各エピソードには3つの主要課題がある。パターン・チャレンジ、トランスフォーメーション・チャレンジ、そしてメイド・トゥ・メジャー・チャレンジだ。参加者は正確さ、独創性、フィット感、仕上げの美しさで評価され、視聴者に実践的なソーイングの知識を届けてくれる。」
参加者は「普通の人たち」。それが魅力のひとつ
ソーイング・ビーが多くの視聴者に愛される理由のひとつは、プロのデザイナーではなく、あくまで「普通の暮らしの中でソーイングを愛してきた人たち」が主役であることです。
医師、郵便配達員、バスの運転手、研究者、教師、退職した会社員——毎シリーズ、まったく異なるバックグラウンドを持つ12名が集まります。年齢も10代から80代まで幅広く、シリーズ11(2025年)では当時19歳の学生Órla(オーラ)が最年少でファイナリストに進出しました。72歳のGaynorは「学校の家庭科で辛うじて合格点だったのに」と笑いながらも、今では孫娘にソーイングを教えているといいます。
“The contestants have diverse backgrounds… they have very different life stories, but are united by a love of sewing.”
(訳)「参加者たちはさまざまなバックグラウンドを持つ。それぞれまったく異なる人生を歩んできたが、ソーイングへの愛という一点で結ばれている。」
— The Daily Telegraph(レビュー記事より)
番組の雰囲気はとても温かく、参加者たちは互いに助け合い、審査員のコメントも建設的です。厳しい脱落と戦略が渦巻くサバイバル番組とは一線を画す、穏やかで前向きな空気感が視聴者から絶大な支持を集めています。
海外ファンの声 — SNSとレビューから
ソーイング・ビーは英国内にとどまらず、世界中のソーイングファンに視聴されています。海外コミュニティでもその評判は高く、SNSやブログにはさまざまな感想が寄せられています。
「ミシンを引っ張り出したくなる」
“How have I never heard of this show?! Sounds amazing and I am definitely going to check it out. Maybe it will inspire me to sew again…”
(訳)「なんでこの番組のこと、これまで知らなかったんだろう!すごく良さそう、絶対観てみる。またソーイングを始めたくなるかも……」
「ほかの競争番組とは違う」
“The energy is impeccable — very encouraging, informative, silly in places, and not mean like some competition shows are.”
(訳)「この番組のエネルギーは最高。応援したくなるし、勉強になるし、ちょっとコミカルな場面もあって、他の競争番組みたいに意地悪じゃない。」
批評家も絶賛するその温かさ
“This is a lovely warm apple crumble of a show.”
(訳)「この番組は、温かいアップルクランブルのような存在だ。」
— Lucy Pavia, London Evening Standard(Rotten Tomatoes掲載レビューより)
“Kind, supportive and funny, Sewing Bee is a pure delight.”
(訳)「優しくて、励まし合いがあって、笑いもある。ソーイング・ビーは純粋な喜びだ。」
エスミー・ヤング自身の言葉
“Sewing Bee is such a positive programme. Nobody who stops me in the street because they recognise me has ever been negative.”
(訳)「ソーイング・ビーは本当にポジティブな番組。私を街で見かけて声をかけてくれた人が、ネガティブなことを言ったことは一度もないの。」
コロナ禍で6百万人が観た — 社会現象にもなった番組
2020年のコロナ禍、外出自粛が続く英国でソーイング・ビーのシリーズ6が放送されました。このとき最高視聴者数は600万人を突破。ジャッジのパトリック・グラントも「ソーイング番組でこの数字は信じられない」と驚きを隠せなかったといいます。
この時期、視聴者の間では「自分でも縫ってみよう」という動きが広がり、ホビークラフト店ではミシン用コットン生地の検索数が500%以上増加したと報告されています。パトリックは「Big Community Sew」というプロジェクトを立ち上げ、視聴者がフェイスマスクや医療スタッフ向けスクラブを自宅で縫って寄付する運動を推進しました。
“People have been sewing gowns and masks across the country. The dedication of these groups is incredible… Sewing Bees have traditionally been a community effort.”
(訳)「全国でガウンやマスクを縫う人たちが現れた。その献身ぶりは信じがたいほど。ソーイング・ビーとは、もともとコミュニティの共同作業だったのです。」
ソーイングを「見る」ことが、縫う喜びを呼び覚ます
シリーズ11(2025年)でも、参加者たちは1920年代のフラッパードレス、バイアスカットのスリップドレス、トロンプ・ルイユ(視覚的錯覚)を使ったドレスなど、毎回息をのむような作品を仕上げました。優勝したのは59歳のCaz、NHS(国民保健サービス)への敬意を込めたメイド・トゥ・メジャー作品が審査員と視聴者の心を動かしたといいます。
番組を観た後、棚の奥から型紙を引っ張り出したくなる——そんな声が世界中から届いているのが、ソーイング・ビーという番組の持つ力です。素敵な生地と、針と糸があれば、誰でも何かを作れる。それをテレビが優しく教えてくれるのです。
英国ではBBC Oneで放送されているほか、一部エピソードは動画配信サービスでも視聴可能です。海外在住の方はVPNを利用することで視聴できる場合もありますが、ご利用の際は各サービスの利用規約をご確認ください。
番組データ
タイトル:The Great British Sewing Bee(グレート・ブリティッシュ・ソーイング・ビー)
放送局:BBC Two(シリーズ1〜5)/ BBC One(シリーズ6〜)
制作:Love Productions
初回放送:2013年4月2日
シリーズ数:11(2025年現在)
公式サイト:BBC The Great British Sewing Bee
番組を観てソーイング熱が高まったら、ぜひ素敵な生地を探しに来てください。
