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Fabric.com という場所があった ——アメリカ・オンライン生地販売の先駆者、その誕生と終焉
インターネットがまだ珍しかった1990年代の終わり、アメリカに一つのウェブサイトが産声をあげました。名前は Fabric.com。自宅にいながら好みの生地をヤード単位で注文できる、当時としては革命的なサービスでした。全米のソーイング愛好家たちに長年にわたって愛されたこのサイトは、2022年10月、静かにその幕を閉じました。今回は、Fabric.com の歴史をたどりながら、オンライン生地販売というジャンルそのものが歩んできた道のりを振り返ってみたいと思います。
はじまりは、卸売問屋から
Fabric.com の前身は、1993年にジョージア州で誕生した Phoenix Textile Group(フェニックス・テキスタイル・グループ)という会社です。当初はアパレル向けの生地を扱う卸売業者として出発し、デザイナーや縫製工場に素材を供給する B2B(企業間取引)ビジネスを行っていました。
転機が訪れたのは1999年。創業者のスティーブン・フリードマン氏が、インターネットの可能性に目をつけます。「生地を一般消費者にオンラインで直接届けられないだろうか」——その実験的な試みとして Fabric.com が立ち上がりました。当時、生地をネット上でヤード単位(日本でいう切り売り)できるサービスはほとんど存在しておらず、まさに「誰もやっていなかったこと」への挑戦でした。
全米のソーイスト(縫う人)たちの聖地へ
2000年代に入ると、Fabric.com は急速に成長します。取扱点数は最盛期に60,000点以上に達し、アパレル用・キルト用・ホームデコレーション用などあらゆるカテゴリーの生地を揃えていました。Jo-Ann のような実店舗チェーンでは見つからないニッチな柄、輸入素材、高品質なデザイナーファブリック——そういったものが手に入る場所として、全米のソーイング愛好家にとってなくてはならない存在になっていったのです。
「オーストラリアに住んでいる私でも使っていました。こちらの実店舗より品揃えが豊富で、シャツ地の質が素晴らしかった。本当に残念です」
実店舗を持たずに倉庫から直接発送する仕組みは、固定費を抑えて競争力のある価格を実現するためのものでした。アメリカにおける「生地のeコマース」というジャンルそのものを作り上げた、まさにパイオニア的な存在だったといえます。
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2008年、Amazon による買収
2008年、Amazon が Fabric.com の買収を発表します。当時の Amazon はまだ今ほどの巨大プラットフォームではなく、本・家電・日用品が中心でした。この買収の目的は明確で、「ホビー・クラフト(手芸・工芸)」分野への本格参入でした。
生地販売には、ヤード単位での正確なカット、色・風合いの丁寧な説明、繊細な在庫管理といった専門的なオペレーションが必要です。Amazon はゼロからこのノウハウを構築するより、すでに確立されたブランドと顧客基盤を持つ Fabric.com ごと取り込む道を選びました。Audible(オーディオブック)や Zappos(シューズ)と同様に、専門性の高い独立ブランドをそのまま傘下に収めるという Amazon らしい戦略でした。
NOTE
買収後もしばらくの間、Fabric.com はジョージア州マリエッタを拠点に、Amazon とは独立したウェブサイト・カートシステムを維持していました。2012年には20万平方フィート(約18,580平方メートル)の新倉庫に移転し、400万ドルを投じて250名の雇用を見込む拡張を行っています。バックヤードで Amazon のインフラが活用されながらも、「Fabric.com」というブランドと専門サービスは保たれていました。
2022年10月、突然の閉鎖
買収から14年が経った2022年10月。ベンダー(取引先)への通知と、ウェブサイト上の一枚のメッセージによって、Fabric.com の閉鎖が突然発表されます。最終受注日は10月20日。発表からわずか数日での幕引きでした。
「通常の事業評価の一環として、各サービスの進捗と可能性を継続的に検討した結果、Fabric.com を閉鎖することを決定しました」
背景にあったのは、2022年当時のAmazonが直面していたコスト圧力でした。オンライン販売の伸びが鈍化し、同時期に Amazon Care(医療サービス)の終了や採用凍結なども相次ぐ中、Fabric.com という独立サイトの維持コストが見直されたのです。
閉鎖後、顧客は Amazon 本体へ誘導されましたが、かつての「1ヤードから好きな長さでカット」というサービスは失われ、あらかじめカットされた規格品が中心となりました。「便利にはなったけれど、専門性が失われた」という声がソーイングコミュニティの間で多く聞かれたのも、無理のないことでしょう。

Fabric.com が残したもの
Fabric.com の閉鎖後、その穴を埋めるように、Spoonflower(カスタムプリント生地)や Mood Fabrics(プロ向け高品質生地)、Etsy の個人出品者たちが注目されるようになりました。大きなプラットフォームには吸収されないカスタム性・専門性・コミュニティ感——それこそが、Fabric.com がかつて体現していたものであり、今もなお多くのソーイスト(縫う人)たちが求め続けているものです。
また、アメリカのソーイングシーン全体を見渡すと、2025年2月には Jo-Ann Fabrics も全米約800店舗を閉鎖するという大きな変化がありました。実店舗とオンラインの両面で、アメリカの手芸業界は大きな岐路を迎えています。
Fabric.com の歩みは、「専門特化型のeコマースが、巨大プラットフォームの効率性に飲み込まれていく」という現代の縮図でもあります。それでも、ニッチな品揃えへのこだわり、丁寧なサービス、そして生地を愛する人々のコミュニティ——そういった価値は、どんな時代にも形を変えながら生き続けていくのだと思います。
jumble shop one でも、海外の生地文化や素材への好奇心を大切にしながら、セレクトを続けていきたいと思っています。遠くアメリカで育まれたオンライン生地販売の歴史が、今の私たちの暮らしにも静かにつながっていることを、生地を手に取るたびに感じていただけたら嬉しいです。
jumble shop one では、厳選した海外ファブリックを取り揃えています。
