世界のソーイングコミュニティをのぞく、注目ハッシュタグ4選
海外の英語圏では「Sewcialists(ソーシャリスツ)」と呼ばれる、ソーイング愛好家たちの巨大なオンラインコミュニティが存在します。国境を越えて日々作品が共有され、いくつかのハッシュタグを中心に、前向きなムーブメントが次々と生まれてきました。今回は、その中でも特に象徴的な4つのハッシュタグ──#MeMadeMay、#Sewcialists、#SewingInspo・#PatternDupe、#SlowFashion──の背景や成り立ちを調べてみました。
#MeMadeMay ── 5月を「手作りの服」で過ごすチャレンジ
本ブログのタイミングではちょっと遅い紹介となりますが、毎年5月になると、世界中のソーイスト(sewist=縫う人)のSNSタイムラインが一斉に賑わいます。それが「Me Made May(ミー・メイド・メイ)」通称MMMです。ルールはとてもシンプルで、5月のあいだ、自分で作った服を積極的に取り入れて生活するというものです。
このチャレンジは、イギリスのブロガーZoe Edwards(ゾーイ・エドワーズ)さんが2010年に始めたものです。当初は自分ひとりの試みとして3月に行われましたが、より過ごしやすい季節にしようと5月に変更し、ブログで呼びかけたところ、初年度だけで80人以上が参加を表明。それから毎年参加者が増え続け、今では数万人規模のムーブメントに成長しました。
興味深いのは、MMMの本質が「作ること」ではなく「すでに持っている手作り服を着ること」にある点です。新しく何かを縫い足すチャレンジではなく、クローゼットの中にある自分の作品と向き合い、それをどう着回すかを考える1か月というのが、提唱者自身の説明です。SNSに毎日コーディネート写真を投稿する人も多いですが、それはあくまで記録であり、写真投稿自体が目的ではないとも語られています。
誰でも、どんな量からでも参加できる
提唱者は、他人と比較する必要はなく、自分だけのペースで参加してよいと繰り返し伝えています。手作りの服が1着しかなくても、それをどう着るかを工夫するだけで立派な参加になる、という考え方です。5月が終わったあとも、日常的に手作り服を楽しむ様子は #MeMadeEveryday や #MeMade といったハッシュタグで通年シェアされています。
Me Made Mayは「作る」ためのチャレンジではなく、すでに持っている手作りの服を着るためのチャレンジです──という趣旨が、提唱者自身のブログで説明されています。写真の共有は記録であって、目的そのものではないとも述べられています。
#Sewcialists / #SewistsOfInstagram ── つながるための合言葉
「Sewcialists(ソーシャリスツ)」は、「Sew(縫う)」と「Social(社交的)」を組み合わせた造語です。同名のブログ兼コミュニティは2013年、国籍も背景も異なる有志のソーイング愛好家たちによって立ち上げられました。運営はすべてボランティアによって支えられており、これまでに100人を超える書き手がブログに寄稿してきたといいます。
このコミュニティが大切にしているのは「多様性」です。年齢、性別、体型、人種、性的指向、経済状況など、それぞれ異なる背景を持つ人々が、同じ「縫うこと」への愛情でゆるやかにつながっている──という考え方が土台にあります。年に4回の「テーマ月間」を設け、誰もが参加しやすいお題(定番パターンの着回し、ストライプ生地、Me Made Mayなど)を用意してきました。
ブログを読むだけでも「Sewcialist」
面白いのは、「Sewcialist」という呼び名の間口の広さです。ブログを読んでいる、Instagramをフォローしている──それだけで、あなたはすでにSewcialistの一員だという考え方が示されています。作品を発表しなくても、他の人の投稿にコメントで応援を送るだけでも十分だという、非常にオープンなスタンスです。
日々の投稿でよく使われるのが、より一般的な #SewistsOfInstagram や #SewersOfInstagram です。特定の団体が管理しているわけではなく、世界中のミシン愛好家が自分の作品を投稿する際に添える、いわば「合言葉」のようなハッシュタグとして定着しています。
ブログを読む、あるいはInstagramをフォローしているだけでも、あなたはSewcialistの一員です──という一節が、コミュニティの自己紹介ページに書かれています。「Sewcialist」という言葉は、ソーシャルメディアとソーイングを組み合わせた造語だと説明されています。
— Who We Are: The Sewcialists
#SewingInspo / #PatternDupe ── 「これ、作れるかも」の楽しみ
#SewingInspoは、「こんな服を作りたい」というインスピレーション写真に付けられる、ごく一般的なハッシュタグです。街で見かけた服、雑誌の1ページ、SNSで見かけたコーディネートなど、次の製作のヒントになりそうなものを気軽にシェアする場になっています。
そこからもう一歩踏み込んだのが #PatternDupe(パターン・デュープ)です。「Dupe」は「duplicate(そっくりさん)」の略で、もともとはファストファッションの世界で、ハイブランドの人気アイテムに似せた低価格品を指す言葉でした。ソーイングの世界では、「憧れのハイブランドの服を見て、手持ちの型紙をアレンジすればこれが作れるかも」と考え、レシピを工夫して再現する、というクリエイティブな遊びとして使われています。
「デュープ」をめぐる、コミュニティ内の議論
興味深いのは、このタグをきっかけに海外のソーイング界隈で「デュープはどこまで許されるのか」という議論が起きていることです。個人が自分で着るために、あるいは無償のチュートリアルとして再現することは、知識の共有として肯定的に受け止められる一方、特定のブランドのデザインを模した型紙を営利目的で販売する行為については、意見が分かれています。過去には、あるインディーズパターンブランドの型紙が、有名ブランドのドレスに酷似していると指摘され、SNS上で話題になった例もありました。
型紙の世界では、袖や身頃といった基本のパーツの構造そのものに独自性を主張しにくいという事情もあり、「何が模倣で、何がインスピレーションなのか」という線引きは簡単ではありません。とはいえ、既製品を大量消費するのではなく、自分の手で作って長く着るという発想そのものは、次に紹介する #SlowFashion の考え方ともつながっています。
個人が自分用に、または無償のチュートリアルとしてデュープを作ることは、誰かのビジネスを損なうものではないため問題視されにくい一方、営利目的での型紙販売は議論の的になりやすい、という整理がされています。
#SlowFashion ── すべての土台にある価値観
「スローファッション」という言葉は、サステナブルファッションの研究者Kate Fletcher(ケイト・フレッチャー)さんが、2007年に環境メディア「The Ecologist」への寄稿の中で初めて使ったとされています。「スローフード運動」からヒントを得た言葉で、大量生産・大量消費に象徴されるファストファッションのアンチテーゼとして提唱されました。
フレッチャーさんは寄稿の中で、綿花のような繊維はどれだけ早く消費されても、育つのに同じだけの時間がかかるという事実に触れながら、生産の速度だけを追い求めることの矛盾を指摘しています。数量よりも質を重視し、着る人と服との関係を丁寧に育てていくこと──それがスローファッションの核にある考え方です。
「自分で作る」こと自体がスローファッション
服を洗濯表示に沿って丁寧に手入れする、リペアして長く着る、すでに持っている服を新しい組み合わせで着てみる──こうした小さな積み重ねがスローファッションにつながると紹介されています。海外のソーイングコミュニティでは、既製服を大量に買うのではなく、時間をかけて1着を仕立て、長く大切に着るという行為そのものが、スローファッションの実践として広く受け止められています。#MeMadeMayや#PatternDupeが単なる制作の楽しみを超えて共感を集めている背景には、こうした価値観の共有があるようです。
ファストファッションが「速さ」を特徴とするのに対し、スローファッションはそのアンチテーゼとして、労働者・環境・消費者のすべてを尊重するものづくりのあり方を目指す、と提唱者は説明しています。
まとめ
#MeMadeMay、#Sewcialists、#SewingInspo・#PatternDupe、#SlowFashion。それぞれ生まれた背景は異なりますが、どれも根っこには「自分の手で作り、長く大切に着る」という共通の喜びがあるように感じます。日本のソーイング愛好家にとっても、こうした海外のハッシュタグをのぞいてみることは、新しい作品づくりのヒントや、生地選びの視野を広げるきっかけになるかもしれません。
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