イノベーション界のアカデミー賞 Edison Awards テキスタイル部門

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「布地そのものが考え・動く」という昔では信じられなかったような技術もすでに開発されています

「布地が考える」時代へ。イノベーション界のアカデミー賞「エジソン賞」が選んだ、次世代テキスタイルとは

もし、着ているだけで体温を自動調整してくれる服があったら。もし、運動中に筋肉を支えてくれる糸があったら。SFのような話に聞こえますが、こうした「布地そのものが考え、動く」テクノロジーは、すでに世界の研究機関で実用段階に入っています。今回は、アメリカの権威あるイノベーション賞「エジソン賞(Edison Awards)」の中でも、テキスタイル業界にとりわけ縁の深い「スマート&アダプティブ・テキスタイル」部門について、最新の受賞事例とともにご紹介します。


01|エジソン賞と「スマート&アダプティブ・テキスタイル」部門とは

エジソン賞は1987年に創設され、発明家トーマス・エジソンの功績を記念して毎年アメリカ・フロリダ州フォートマイヤーズで開催されている、世界的に権威あるイノベーション表彰制度です。数千件におよぶ世界中からのエントリーの中から、科学者・エンジニア・デザイナーなど専門家による厳正な審査を経て選出されるため、ウォール・ストリート・ジャーナル紙などから「イノベーション界のアカデミー賞」と称されています。

数ある審査カテゴリーの中で「Consumer Solutions(消費者向けソリューション)」という大きな枠が設けられており、その中に「スマート&アダプティブ・テキスタイル(Smart & Adaptive Textiles)」という、テキスタイル専門の部門が用意されています。この部門が評価するのは、ただ着心地の良い服ではありません。周囲の環境や着用者の体の動き・状態に合わせて、布地自体が自律的に変化し適応していく技術が対象です。

「スマート」と「アダプティブ」、それぞれの意味

「スマート」は、センサーや導電性繊維、微小な電子回路などが布地に組み込まれ、心拍数や体温といった生体データを取得・通信できることを指します。一方「アダプティブ(適応型)」は、温度変化に応じて糸が伸縮して通気性を変えたり、衝撃を感知した瞬間に硬くなって身体を守ったり、筋肉の動きをサポートしたりする機能を指します。両者が組み合わさることで、衣服は「ただ身にまとうもの」から「人を守り、支えるデバイス」へと進化していきます。

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02|2026年、実際にどんな技術が受賞したのか

2026年4月にフロリダ州フォートマイヤーズで開催された「2026年エジソン賞」では、まさにこの部門の思想を体現するような技術が受賞しています。

金賞:iAdapt(インテリジェント・ソフトロボティック・クロージング)

この部門の金賞を受賞したのは、香港繊維・アパレル研究機関(HKRITA)が香港理工大学と共同開発した「iAdapt」です。衣服の内部に組み込まれた微小なロボット構造が、プログラムされた膨張・収縮のプロセスによって熱と湿気の移動特性を自動で調整する仕組みで、外気温にかかわらず高い通気性を保ちます。医療従事者や屋外作業員、消防士、ウィンタースポーツ選手など、厚手の機能性ユニフォームを様々な温度環境で着続ける人々への応用が期待されており、市街地の一般消費者にとっても冷暖房エネルギーの削減につながる技術として注目されています。

銀賞:Oscillaware Fiber(オシラウェア・ファイバー)

銀賞は、香港応用科技研究院(ASTRI)による「Oscillaware Fiber」です。環境に配慮した溶融紡糸プロセスで製造される伸縮性のあるエコフレンドリーな繊維で、激しい運動時に従来の繊維の3倍以上の力で筋肉をサポートし、怪我のリスクを軽減するとされています。高い通気性とデザインの自由度を保ちながら機能性を高めている点が評価され、スポーツウェアや日常のヘルスケア分野での応用が見込まれています。

エジソン賞の特集記事では、iAdaptとOscillaware Fiberの2作品を軸に「衣服が考える」未来像が語られており、いずれも香港の研究機関による技術であることが強調されています。


Edison Awards「The Future Is Wearable」(2026年5月)

この2作品以外にも、着用者の環境に合わせて温度や形状を自動調整する衣服など、「ヘルスケア(特にシニア向け)」「スポーツ科学」「過酷な環境下での防護服」といった分野のイノベーションが、この部門の主役として選ばれる傾向が続いています。

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03|なぜ今、この部門が重要視されているのか

スマートテキスタイル市場は、2025年時点で約89億ドルと評価され、2035年には208億ドル規模まで拡大すると予測されています。年平均成長率は37%にも達し、スマートホーム市場やウェアラブル市場と比べても、群を抜くスピードで拡大している分野です。単なる「面白いガジェット服」の域を超え、社会課題を解決するための素材革命の舞台になっているからこそ、多くの投資と研究が集まっているといえるでしょう。

医療・介護、労働環境を変える可能性

高齢者の転倒による骨折は世界的に大きな課題となっており、同じ2026年エジソン賞のウェアラブル部門では、入浴時にも外さずに着用できるヒップ・プロテクター「NuHip」が受賞しています。衝撃を10,000ニュートンから2,500ニュートン以下まで軽減する設計で、常時着用できることが骨折予防の実効性を高めているとされます。テキスタイル部門のiAdaptも、猛暑の中で働く作業員や医療従事者の体温調整を支える技術として位置づけられており、これらはいずれも「着ているだけで人を守る」という思想を共有しています。

サステナビリティとの融合が審査の鍵に

2026年の受賞作に共通しているのは、高機能でありながら環境負荷の低い製法を採用している点です。Oscillaware Fiberは溶融紡糸という比較的環境負荷の少ない工程で製造されており、こうした「機能性」と「サステナビリティ」の両立が、審査における重要な指標になってきています。私たちがふだん手にするファブリックの世界でも、機能性と環境配慮を両立する素材選びは、これからますます重要なテーマになっていきそうです。

ちなみに、2026年のエジソン賞では香港応用科技研究院(ASTRI)が金賞2件・銀賞3件を獲得し、香港の団体として最多受賞を記録しました。テキスタイル分野に限らず、香港の研究機関がこの数年で存在感を大きく高めていることも、今回の受賞結果からうかがえます。


まとめ|衣服は「まとうもの」から「支えるもの」へ

エジソン賞の「スマート&アダプティブ・テキスタイル」部門は、私たちが普段親しんでいる「布」というものの可能性を、大きく広げてくれる分野です。センサーが心拍数を読み取り、繊維が体温に合わせて形を変え、糸そのものが筋肉を支える。そんな未来の一端が、すでに現実の技術として形になっています。手芸やファブリックを愛する私たちにとっても、こうした最先端の動きを知っておくことは、これからの「素材」との付き合い方を考えるうえで、きっと良いヒントになるはずです。

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