物価高でも手芸を楽しむ。海外の「倹約クラフト」に学ぶ、コストをかけないファブリックの工夫
生地の値段が上がった、と感じている方は多いのではないでしょうか。海外の手芸コミュニティでも事情は同じで、ここ数年「お金をかけずに、手芸を楽しみ続ける」ための工夫がSNSや裁縫ブログで盛んに共有されています。今回は、そうした海外の発信をリサーチしながら、ハギレを無駄にしない考え方や、道具を増やさない工夫、コストをかけずにモチベーションを保つコミュニティの仕組みなどをまとめてご紹介します。
世界で広がる「直して着る」ブーム
イギリスでは「物価高が、繕い物を再び流行らせている」という報道が話題になりました。実際、大手百貨店では繕い用の針や毛糸の売上が前年より大きく伸び、パッチや補修テープといった修理用品の売上も6割以上増えたと伝えられています。捨てるのではなく直す、という選択が、節約と同時に一種のライフスタイルとして支持されているのです。
この流れの中心にあるのが「ビジブルメンディング(visible mending)」、つまり繕った跡をあえて隠さず、デザインとして見せる修理の方法です。TikTokでは関連ハッシュタグの再生数が5,600万回を超えたとも報じられており、PinterestやInstagramでも同様の広がりを見せています。技法として参照されているのが、日本の刺し子や襤褸(ぼろ)。もともとは布や糸が貴重だった時代に、東北などの農村で着物や布団地を長く使うために生まれた技術です。海外の作り手たちは、この技法にある「欠けや繕いを美として受け入れる」という考え方――侘び寂びの精神――に惹かれているようです。
繕われた袖は、欠陥のある服ではない。それは、記録を持つ服なのだ――という考え方が、ビジブルメンディングの根っこにあります。
普段何気なく使っている刺し子の技法が、実は海外では「新しい節約の作法」として熱心に学ばれている——そう考えると、手元にある古い着物地や余り布の見え方も少し変わってくるかもしれません。穴が空いたデニムやカットソーを捨てる前に、当て布と刺し子で繕ってみるのも、コストをかけずに手芸を楽しむ立派な方法です。
「新しい生地を買わない」を楽しみに変えるコミュニティの工夫
海外の裁縫コミュニティでは、Instagramを中心に「手持ちの生地だけで作る」を後押しするハッシュタグ企画が数多く続けられています。たとえば「Whole 30 Fabric Challenge」は、新しく生地を購入する前に、まず手持ちの生地を30ヤード(約27メートル)縫い切ることを目指す企画。もし途中で新しい生地を買ってしまったら、カウントは最初からやり直しというルールが、ゲーム感覚で在庫を使い切る動機づけになっています。ほかにも「#stashbusting」「#ScrapbustingSeptember」「#SewFrugal」といったハッシュタグで、余り布だけを使った作品が日々シェアされています。
新品ではなく「掘り出し物」を探す
生地の値上がりを受けて注目されているのが、リサイクルショップでの布探しです。古いシーツやカーテン、使わなくなったキルトなどは、質の良い天然素材が新品よりずっと手頃な価格で手に入る貴重な調達先として紹介されています。バッグの持ち手だけを切り取って別の作品に再利用するアイデアなど、パーツ単位で「使えるところだけ活かす」発想も参考になります。アメリカでは、アパレル業界の廃棄予定の新品生地を扱う非営利団体(FabScrap)のような取り組みも紹介されており、業界の廃棄ロスを手芸の材料として循環させる動きも生まれています。
生地の小売価格が上がり続ける今、地元のリサイクルショップを覗くことが、裁縫のコストを抑える一番の近道になっている。
日本でも古布市やリサイクルショップ、実家に眠る古い着物地など、同じように活用できる調達先はたくさんあります。「プロジェクトを決めてから生地を選ぶ」という、海外のブログでもよく語られる鉄則も、衝動買いを防ぐシンプルながら効果的なコツです。
道具もハギレも、買わずに手作りする
海外の「倹約系」裁縫ブログで繰り返し紹介されているのが、道具そのものを手持ちの端切れで手作りしてしまう発想です。カーブを美しくアイロンするための「シーム・ハム(当て布まくら)」は、ハギレを詰め込んだ布袋で代用でき、型紙を固定するウェイトも、お米やワッシャーを布で包むだけで作れます。ミシンのほこり避けカバーも、余った生地でオリジナルの一枚に仕立てられるそうです。専用の道具を買い足す前に、まず手元の端切れで代用できないか考えてみる、という視点は取り入れやすいアイデアです。
小さなハギレほど「作品」になる
10センチ角ほどの小さなハギレでも、カードケースやジップポーチ、ちょっとしたスマホポーチなど、無料パターンを活用すれば十分に一つの作品として仕上げられます。柄合わせを楽しむデザインの端切れは特に、パッチワーク的に組み合わせることで、単色の生地よりも個性的な仕上がりになるとも紹介されていました。ちょっとした手土産やプレゼントに、コストをかけずに気持ちのこもった一品を用意できるのも、ハギレ活用の嬉しいところです。
海外のコミュニティでは、こうしたハギレ活用や在庫消化の様子をSNSに投稿し合うこと自体が、モチベーションを保つ仕組みになっています。一人で黙々と続けるより、同じ目標を持つ人たちの投稿を眺めるだけでも、「今あるものでいいものを作ろう」という気持ちが続きやすくなるようです。
まとめ——「持っているもの」を出発点にする
今回まとめた海外の事例に共通していたのは、「まず持っているものから始める」という視点でした。繕う、リサイクルショップで探す、道具を手作りする、小さなハギレを作品にする。どれも特別な技術がなくても始められるものばかりです。生地に手を伸ばしにくい今だからこそ、手元にある一枚一枚をじっくり見直す時間も、悪くないのかもしれません。
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