公益財団法人日本手芸普及協会(JHIA)とは — 手芸文化を60年支えてきた団体の歩み
編み物、刺しゅう、キルト、レース……。日本にはこうした手芸のジャンルごとに「先生」と呼ばれる指導者がいて、教室があり、資格があります。その仕組みを長年にわたって支えてきたのが、公益財団法人日本手芸普及協会(JHIA)です。今回は、この協会がどのように生まれ、どんな活動をしているのかを調べてみました。
協会の歩み — ひとつの養成講座から始まった60年
1964年、手芸講師を育てる講座からすべては始まった
JHIAの前身は、1964年に発足した「ヴォーグ手芸コンサルタント協会」という任意団体でした。5年間にわたり、全国規模で年間24日間という手芸講師の養成講座を開催し、4千名を超える手芸指導者を送り出しています。当時としてはかなり本格的な取り組みで、この実績が当時の文部省の目にとまることになります。
財団法人化、そして公益財団法人へ
1969年(昭和44年)、文部省から高い評価を受けたことをきっかけに、「財団法人日本手芸普及協会」として正式に活動をスタート。手芸指導者の育成と、一般の人への普及という、ふたつの柱を掲げました。その後、公益法人制度の改革にともない、2012年(平成24年度)に内閣総理大臣から「公益財団法人」としての認定を受けています。任意の勉強会だったものが、半世紀近くかけて国の認定を受ける公的な団体へと育っていった、というのがおおまかな流れです。
2015年、編物文化協会との統合
もうひとつ見逃せないのが、2015年に「一般社団法人日本編物文化協会」と統合したことです。編物文化協会は、全国に3万軒あったといわれる編物教室をネットワーク化する目的で発足した団体で、こちらも日本ヴォーグ社と縁の深い組織でした。この統合によって、JHIAは編み物分野の裾野もあわせ持つ、より大きな組織になりました。
公益法人制度改革に伴い、平成24年度、内閣総理大臣より「公益財団法人」としての認定をいただきました。
9つのジャンルを支える資格制度と教育の仕組み
ニットからホームソーイングまで、9つの手芸ジャンル
JHIAが扱う手芸のジャンルは、ニット、刺しゅう、レース、キルト、ペイント、レザークラフト、手織り、カリグラフィー、ホームソーイングの9部門。ジャンルごとに体系立ったカリキュラムが組まれていて、通信講座やスクーリングを通じて技術を学び、修了すると講師や指導員といった資格が認定される仕組みになっています。会員数は資料によって幅がありますが、公式サイトのFAQでは現在およそ2万名の会員が所属しているとされ、海外会員もアジア諸国を中心に含まれています。
「スマホで添削」という今どきの通信講座
面白いのは、伝統的な手芸団体でありながら、学び方はかなり現代的になっている点です。テキストと動画で学び、作品はスマホで撮影してアプリから送信、講師の添削も原則4日以内に返ってくるというスタイルの通信講座が用意されています。場所や時間を選ばずに学べるため、忙しい人や地方在住の人でも、師範や指導員といった資格を目指しやすくなっています。
「ヴォーグ学園」との関係
出版社として知られる日本ヴォーグ社は、JHIAの「友好法人」にあたり、両者は深いつながりを持っています。ヴォーグ社が運営するカルチャースクール「ヴォーグ学園」と、JHIAの資格課程は内容が近く、入門科をJHIAで、講師科をヴォーグ学園で、というように相互に移行しながら学ぶこともできるそうです。ただし、最高位の「師範」資格を目指す場合はJHIAへの入会が必要になるなど、細かな違いもあります。
手芸指導者の育成を通じ、公益としての手芸を普及する。
展覧会と社会貢献 — 手芸文化を未来へつなぐ
「キルト日本展」— 文部科学省認定の唯一のキルトコンテスト
JHIAのキルト部門は1987年に発足し、1990年には第1回「キルト日本展」が開催されました。文部科学省が認定した公益法人が主催する、日本で唯一のキルトコンクールとされています。トラディショナル部門、コンテンポラリー部門、ミニチュアキルト部門などが設けられ、毎回、国内だけでなく海外からもハイクオリティーな作品が寄せられているとのこと。東京都美術館を皮切りに海外巡回展も行われており、ヨーロッパやアメリカの主要なキルトフェスティバルから招聘されるほど、国際的にも認知度の高いコンテストに育っています。「国際キルト博」や「キルト&ステッチショー」といった大規模な展示イベントも、こうした土壌があってこそ実現しているようです。
手づくりを通じた社会貢献活動
JHIAの活動は、資格制度やコンテストだけにとどまりません。「世界の子どもたちへ編み物作品を贈ろう」というプロジェクトや、被災地の子どもたちへスクールバッグを贈る取り組みなど、会員が持つ手仕事の技術を、社会貢献という形で生かす活動も継続して行われています。手芸を「趣味の延長」で終わらせず、誰かの役に立てる力として位置づけているところに、この協会らしさを感じます。
今、あらためてこうした団体が必要とされる理由
女性の社会進出や核家族化、ひとり親家庭の増加など、家庭のかたちが変わってきた現代において、かつては家庭の中で自然に受け継がれてきた手仕事の技術が、次の世代に伝わりにくくなっているといわれています。JHIAのような団体が体系的なカリキュラムと資格制度を整えていることは、そうした「家庭内での継承」が難しくなった部分を、教室や講座という形で補っている、という見方もできそうです。60年という時間をかけて積み重ねられてきた仕組みだからこそ、今の時代にも意味を持ち続けているのかもしれません。
まとめ
1964年の小さな養成講座から始まり、文部省の評価、財団法人化、公益財団法人としての認定、そして編物文化協会との統合と、JHIAはひとつずつ段階を踏みながら、日本の手芸文化を支える基盤をつくり上げてきました。指導者の資格制度、キルト日本展のような国際的な展覧会、そして社会貢献活動。どれも「手を動かすこと」の価値を、次の世代へつなげていくための工夫のように思えます。生地を選び、針を持ち、何かを形にしていく——そんな時間の背景に、こうした団体の積み重ねがあることを知ると、いつもの手芸の時間が、少しちがって見えてくるかもしれません。
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