自分で服を作るほうが安く済むか?

Shop Manager
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金銭コストだけの比較では既製服に負けますが、手作りの服は驚くほど豊かなリターンを返してくれます

「手作りはファストファッションより高い」は事実。それでも海外の洋裁コミュニティが辿り着いた結論

「自分で服を作れば安上がりになるはず」——洋裁を始めたばかりの頃、誰もが一度はそう考えます。ところが実際に生地を裁ち、糸を通してみると、レシートに並ぶ数字は想像よりずっと大きい。海外のRedditの洋裁コミュニティ(r/sewing、r/craftsなど)では、この「自作は本当に安いのか」というテーマが、まるで季節の風物詩のように定期的に燃え上がります。そして近年、そこで交わされる議論はある一つの結論に収束しつつあるようです。今日は、その「金銭的には負ける、でも……」という現実的な着地点を、海外の実例とともに辿ってみたいと思います。


01. なぜ「手作り=節約」は、もう成り立たないのか

かつて洋裁は、既製服を買うよりも確実に安く済む「生活の知恵」でした。けれど今、ファストファッション企業は世界規模の大量発注によって、卸値に近い価格で生地やパーツを仕入れています。さらに人件費の安い地域での大量生産によって、驚くほど低い価格帯を実現しています。一方、個人が手芸店で買うのは、あくまで「小売価格」の布です。この時点ですでに、既製品の値札を超えてしまうことが少なくありません。

費用を並べてみると(参考値:海外での最低価格帯)

比較項目 ファストファッション ハンドメイド
初期投資 0円 ミシン・裁ちバサミ・アイロンなど(数万円〜)
材料費(Tシャツ・ワンピース) 1,000円〜3,000円 3,000円〜10,000円(生地・型紙・糸代)
時間 0時間(購入のみ) 5〜20時間以上

Redditの洋裁板では、こうした計算を自虐まじりに語る投稿がよく見られます。「15ドルのドレスを作るために、40ドルの生地と15ドルの型紙、10ドルの糸やファスナーを買い、10時間かけた」——このタイプの体験談は、もはや一種の「あるある」としてコミュニティ内で共有されています。

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02. 比較対象が、そもそも間違っている

数字だけ見れば、ハンドメイドの完敗のように思えます。けれどコミュニティで必ず出てくる反論が、「そもそも比較の土俵が違う」というものです。自作する服では、自分の体型に合わせて型紙を微調整(フィッティング)でき、上質なリネンやウールといった天然素材も自由に選べます。つまり本当に比べるべきは「15ドルの既製ドレス」ではなく、「自分の体に完璧にフィットする、200ドルのクチュール服」だという考え方です。それを50ドルの材料費と自分の技術で仕立てたと捉え直すと、コストパフォーマンスの評価は大きく変わってきます。

実際、この価値観の転換を体現している人たちが、海外の洋裁シーンには少なくありません。ロンドンで15年間パタンナーとして働いたTara Viggo氏は、2017年に独立し、自身のパターンブランドを立ち上げました。業界の内側を知る彼女は、自分で服を仕立てる技術を身につけたことで、既製服の「安さ」そのものへの感覚が変わったと語っています。

“…you can’t fathom that a shirt should be £3 anymore.”
(一度、自分で服を仕立てる方法を知ってしまうと、シャツが3ポンドで売られていること自体が信じられなくなる)


Tara Viggo(元パタンナー), AFP取材(Malay Mail掲載)

同じ記事では、ロンドンで自分の服の8割を手作りするようになった神経科学の博士課程生、Lea Baecker氏の例も紹介されています。彼女がミシンに向かう動機は「安く済ませたいから」ではなく、大量生産・大量廃棄の仕組みそのものへの違和感でした。値段の比較から一歩離れたところに、洋裁を続ける理由がある——これもまた、コミュニティで繰り返し語られる視点です。

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03. 「1着あたりの着用コスト」という物差し

もう一つ、コミュニティでたびたび引き合いに出されるのが「Cost per Wear(コスト・パー・ウェア/着用1回あたりのコスト)」という考え方です。これは、服の価格をその服を着る予定の回数で割ることで、単純な購入価格ではなく、実際にどれだけ「使い倒したか」で服の価値を測ろうとするものです。研究者のLisa Eckmann氏らの調査によれば、この指標を提示された消費者は、低価格・低品質な服よりも、価格は高くても長く使える高品質な服を選ぶ傾向が強まることが分かっています。一般的なサステナビリティの訴えよりも、こうした具体的な数字のほうが説得力を持つとも指摘されています。

ファストファッションの服は、数回の洗濯で型崩れや毛玉が目立ち始めることが少なくありません。一方、丁寧に縫った自作の服は、正しい素材選びと仕立てさえあれば10年単位で着られます。さらに洋裁の技術があれば、破れても自分で直したり、リメイクして着続けたりすることができます。購入価格だけを見れば高くつく自作服も、「何回、何年着たか」で割り戻せば、既製の安価な服よりもむしろ経済的だった、という逆転が起こり得るのです。

ワンポイント:Cost per Wearの計算はとてもシンプルです。「購入価格(材料費)÷ 想定着用回数」。たとえば8,000円かけて作ったワンピースを80回着れば、1回あたりのコストは100円。数字にしてみると、手作り服への向き合い方が少し変わるかもしれません。

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04. 時間を「娯楽費」として捉え直す

そして、Redditの議論で特に多くの共感を集めるのが「エンタメとしてのコストパフォーマンス」という視点です。海外の家計ブログでは、外食や映画、読書といった娯楽を「1時間あたりの費用」で比較する試みが度々話題になります。映画なら1回2時間でチケット代と交通費を合わせて数千円。一方、洋裁は数千円の材料費で10時間、15時間と没頭できる時間を買っていると考えれば、時間単価としての「娯楽費」はむしろ割安です。しかも映画と違って、没頭した先には実際に着られる1着が残ります。

「服を安く手に入れる手段」として洋裁を始めると、多くの人がどこかで挫折します。けれど「自分の体型にぴったり合う服を着る権利」「サステナビリティへの実践」「趣味としての没頭時間」を買っていると考えれば、そこにはファストファッションでは決して手に入らない価値がある——これが、長年この議論を重ねてきた海外の洋裁コミュニティが辿り着いた、現実的で、けれど前向きな結論のようです。

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まとめ

純粋な金銭コストだけを比べれば、手作りの服がファストファッションに勝つことはほぼありません。それは今、海外の洋裁コミュニティでも共通認識になっています。けれど「何と比べるか」「何年着るか」「その時間に何の価値を見出すか」という物差しを変えた瞬間、手作りの服は驚くほど豊かなリターンを返してくれます。次に生地を選ぶとき、値札の数字だけでなく、その先に待っている何十回、何百回もの「着る時間」にも、少しだけ思いを馳せてみてください。

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