Yarn Math – 編み物の計算テクニック

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数字は制約ではなく、むしろ創作の自由を広げるための地図!

「ゲージ」と「Yarn Math」——編み物は、なぜ数字から始まるのか

何時間もかけて編み上げたセーターの袖を通してみたら、なぜか二の腕がぱんぱん。あるいは、思っていたより毛糸が二玉も足りなくて、慌てて追加注文したら微妙に色ロットが違う——編み物をしている方なら、一度はこんな経験があるのではないでしょうか。実はこの手のつまずきの多くは、編み始める前の小さな計算をひとつ怠っただけで起きています。海外の編み物コミュニティでは、この「編む前の計算」全般を親しみを込めて「Yarn Math(ヤーン・マス)」と呼びます。今日は、その入り口である「ゲージ」の考え方から、必要な毛糸の量を見積もる具体的な数式まで、順を追ってご紹介します。


ゲージとは何か——なぜニットは「計算」から始まるのか

ゲージとは、10cm四方(もしくは4インチ四方)の中に、自分が何目・何段編めるかを示す数字です。同じ毛糸、同じ号数の針を使っても、編む人の手の力加減によって目の詰まり方はまったく違います。パターンに書かれたゲージと自分のゲージが合っていなければ、指示通りの目数で編んでも、できあがりのサイズはずれてしまうのです。

海外の編み物界隈で長く読み継がれている名著『Knitting Without Tears』の著者、エリザベス・ジマーマンは、ゲージについてこう言い切っています。

“Gauge is the most important principle in knitting.”
(ゲージは、編み物においてもっとも重要な原則である。)


The Endless Skein(エリザベス・ジマーマン『Knitting Without Tears』より引用)

「たかがゲージ」と思われがちですが、彼女がここまで強く言い切るのには理由があります。ゲージは単なる目安ではなく、その後のすべての計算——目数、必要な毛糸の量、サイズ調整——の土台になる数字だからです。

試し編みの基本ルール

海外の編み物解説サイトで共通して勧められている手順は、次のようなものです。まず、実際に使う毛糸と針で30〜40目ほど作り目をし、パターンと同じ編み地(メリヤス編みなら同じくメリヤス編み)で15cmほどの高さまで編みます。編み終えたら、実際の仕上げと同じように水通しやスチームでブロッキングをし、完全に乾かしてから測るのがポイントです。動物繊維は水を通すとふっくらと膨らみ、目の詰まり方が変わることが知られています。乾いたら平らな場所に置き、端から少し内側の、歪みの出にくい中央部分で10cm幅に何目・何段あるかを数えます。何箇所か測って平均を取ると、より正確な数字になります。

仕上がり幅から、作り目の数を逆算する

スワッチが測れたら、それを使って「何目作ればいいか」を逆算できます。考え方はとてもシンプルで、まず1cmあたりの目数を出し、それに仕上げたい幅(cm)をかけるだけです。

1cmあたりの目数 = スワッチの目数 ÷ スワッチの横幅(cm)
必要な作り目数 = 仕上げたい幅(cm) × 1cmあたりの目数

例)幅50cmのセーターを編みたいとき、スワッチが「10cmで20目」だったら、1cmあたり2目。
必要な作り目数は 50cm × 2目 = 100目、という具合です。

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ゲージがずれていたら——数式で乗りこなす方法

スワッチを測った結果、パターン指定のゲージと自分のゲージが合わないことは珍しくありません。針の号数を変えても近づかない場合、海外の編み手たちがよく使うのが、次のようなシンプルな比率計算です。

“my gauge / pattern gauge = difference in gauge”
(自分のゲージ ÷ パターンのゲージ = ゲージの差=換算比率)


Knitter’s Kitchen

たとえば、パターンのゲージが10cmで14.5目のところ、自分のゲージが20目だったとします。20 ÷ 14.5 で約1.38という数字が出ます。これは「パターンの1目分を編むのに、自分は1.38目分の力で編んでいる」ということ。この比率を、作りたいサイズの号数表にかけ合わせることで、パターンの目数をそのまま使いながら、自分のゲージに合ったサイズを選び直すことができるのです。

もうひとつ、海外の編み物界で語り継がれているのが、エリザベス・ジマーマンが考案した「Elizabeth’s Percentage System(EPS)」という設計法です。これは、ゲージと仕上がりの胸囲から「キーナンバー」と呼ばれるひとつの数字を割り出し(ゲージの目数 × 仕上がりサイズ)、袖ぐりも襟ぐりも、この数字に対する割合(パーセンテージ)だけで導き出してしまうという、驚くほど合理的な仕組みです。パターンの号数表に自分を無理やり合わせるのではなく、自分のゲージを起点にしてすべてを組み立て直す——ゲージ計算の本質は、まさにこの発想の転換にあります。

横だけでなく、縦のズレも掛け合わせる

ここまでの換算比率は目数(横方向)だけを見たものでしたが、実際に「糸をどれだけ多く使うか」を知りたいときは、段数(縦方向)のズレも一緒に見る必要があります。編み地は面として広がっているので、横のズレと縦のズレをそれぞれ計算し、掛け合わせることで、面全体としてどれくらい糸を余分に使うことになるかが見えてきます。

面全体の補正係数 = (自分の1cmあたりの目数 ÷ 指定の1cmあたりの目数) × (自分の1cmあたりの段数 ÷ 指定の1cmあたりの段数)

この係数を、パターンに書かれた必要な糸の長さに掛けると、自分の編み方の場合に実際どれくらいの糸を使うことになるかが分かります。目が詰まりやすい方ほど、この係数は1より大きくなりやすい傾向があります。

→新・棒針あみの基礎 (BASIC TECHNIQUES BOOK)

→新・かぎ針あみの基礎 (BASIC TECHNIQUES BOOK)

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必要な毛糸の量を見積もる「Yarn Math」

ゲージが決まれば、次に知りたいのが「結局、毛糸は何玉買えばいいのか」という切実な問題です。海外の老舗手芸誌インターウィーブが紹介している方法のひとつが「スワッチ重さ法」。作ったスワッチの面積(cm²)と重さ(g)を量り、そこから「1cm²あたり何gの糸を使ったか」を割り出します。あとは、仕上げたい作品全体の面積にこの数字をかければ、必要なグラム数が求められます。手元にキッチンスケールがあれば、誰でも試せる方法です。

パターン指定の毛糸を別の糸に置き換えたいときは、「グリスト(grist)」という考え方が助けになります。これは1グラムあたり、あるいは1玉あたり、その糸が何メートルあるかを示す数値。同じ「並太」という表示でも、メーカーやロットによって実際の長さはかなり違うことがあるため、グラム数だけで揃えても、糸が足りなくなることがあるのです。海外の毛糸置き換え計算サイトは、糸を巻いた芯に1インチあたり何周巻けるかを数える「WPI(Wraps Per Inch)」という方法も併せて勧めています。

“WPI sees the actual strand, not the marketing on the band.”
(WPIは、ラベルの謳い文句ではなく、糸そのものの実際の太さを教えてくれる。)


Stitch Sums

つまり、ラベルの「並太」「合太」といった表示だけを信じるのではなく、実際に糸を巻いてみて太さを確かめることで、初めて安全な置き換えができるということです。

Yarn Mathの覚え書き
・換算比率=自分のゲージ ÷ パターンのゲージ
・必要量の目安=パターン指定量 × 換算比率 × 1.1(予備分)
・毛糸は必ず10〜15%多めに購入し、同じ色ロットで揃える
・グラム数ではなく、メートル(ヤード)数で比較する

海外の手芸サイトの多くが口を揃えるのが、「計算した量より10〜15%多めに買っておく」という保険です。ゲージのわずかなブレや編み直し、スワッチ自体に使う分を見込んでのことで、この余白があるだけで、最後の一玉を求めて手芸店を駆け回る事態をかなり防ぐことができます。


まとめ——数字は、創作の自由を広げてくれる

ゲージ計算もYarn Mathも、一見すると編み物の楽しさから遠い、無味乾燥な作業に思えるかもしれません。けれど実際は逆で、この小さな計算をひとつ挟むだけで、パターン通りにしか編めなかったところから、自分の手や好みの毛糸に合わせて自由に組み立て直せる領域へと踏み出せます。数字は制約ではなく、むしろ創作の自由を広げるための地図なのだと思います。

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