繊維の未来を変える新技術 – 世界最高レベルの白

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私たちが日々触れている布もまた、繊維という微細な構造が光をどう受け止めるかによって表情を変えています

白は、なぜ美しいのか——蝶の羽に学んだ、繊維の未来を変える新技術

真っ白なリネンのハンカチ、雪のように白いレース、糊のきいた白シャツ——私たちは「白」をとても身近な色だと思っています。ですが実は、美しい白を薄く、軽く生み出すことは、色の中でもっとも難しい仕事のひとつなのだそうです。2026年9月10日、京都大学と東京都立大学の研究グループが、この難題に新しい答えを示す論文を英国科学誌『Nature』に発表しました。しかもその技術は、副産物として「超撥水」という、繊維業界にとって見過ごせない贈り物まで連れてきています。


白をつくることの、途方もない難しさ

色というのは、ある波長の光を反射し、それ以外の波長を吸収することで生まれます。赤いものは赤い光をよく跳ね返すから赤く見える、というわけです。ところが白だけは事情が違います。すべての波長の光を、偏りなく均等に跳ね返さなければ、白にはならないのです。

たとえばチョーク。白い粉を固めたものですが、絵の具として塗るとどこか半透明な白にしかなりません。厚みのあるコピー用紙は白く見えても、同じ紙を薄く漉いたグラシン紙やティッシュは向こう側が透けてしまいます。薄く、軽く、それでいて完璧な白を保つには、光を効率よく何度も散乱させる緻密な構造が必要で、これがとても難しいのです。

だからこそ人類は、長らく限られた材料に白を頼ってきました。古代エジプトから20世紀初頭まで使われ続けた「鉛白」は、蓄積性の高い毒性が問題となり姿を消し、代わって酸化チタンが世界の白色顔料市場の大部分を占めるようになります。ですがその酸化チタンも、近年は遺伝毒性への懸念からEUで食品添加物としての使用が禁止されるなど、逆風にさらされています。安全で、なおかつ美しい白をどう作るか——これは今もなお、材料科学の大きな宿題だったのです。

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蝶や甲虫、そして和紙に学んだ「発泡」の技術

ヒントは、自然界にありました。モンシロチョウの羽や、東南アジアに生息するキホキルスという甲虫は、鉛もチタンも使わずに見事な白を発色します。キホキルスにいたっては、わずか5〜10マイクロメートルという薄さで、キチン質の繊維がつくる立体的な網目構造だけで、質のよい白を実現しているのだそうです。

京都大学アイセムスのイーサン・シバニア教授、秦徳涛特定助教、そして東京都立大学の柳島大輝准教授らのチームは、この「繊維がつくる微細な構造」という発想をポリマー素材で再現する手法を編み出しました。名付けて「ディープフォーム フォトリソグラフィ(DFP)」。紫外線を当てたポリマーの内部に、目に見えないほど微細な泡(フォーム)構造をつくりだし、その泡が光を何度も散乱させることで、酸化チタンに劣らないレベルの白を、顔料も塗料も使わずに生み出すというものです。

葛飾北斎の『神奈川沖浪裏』に描かれた波しぶきや富士の雪の白さは、実は白い絵の具ではなく、和紙そのものの地の色。植物繊維が光を乱反射することで、私たちはそこに白を見ている——研究チームは発表にあたり、この和紙の仕組みを引き合いに出しています。


— 京都大学アイセムス 研究発表資料より

紫外線を当てた場所にだけ泡構造が生まれるため、型紙やプロジェクターを使えば任意の模様を白く描くことができ、半導体づくりに使うような精密な露光装置を使えば、なんと解像度20,000dpiという超高精細の白色印刷まで実現できたといいます。ポリスチレンやPET、アクリル樹脂など、身近なさまざまなポリマーで応用できることも確認されているそうです。

〈ちいさな豆知識〉紫外線を当てたポリマーの表面には、切れた分子とつながった分子が同時にできます。そこへ弱い溶剤を浸みこませると、切れた小さな分子のまわりにだけ溶剤が集まり、局所的に泡が生まれる——これが今回の技術の核心です。専門的には「相分離」と呼ばれる現象ですが、シャボン玉が水と空気の境目で丸くふくらむのと、どこか似た仕組みだとイメージすると分かりやすいかもしれません。

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副産物として生まれた「超撥水」という贈り物

この研究が繊維に関わる私たちにとって特に興味深いのは、白色印刷の副産物として、まったく別の性質が生まれたという点です。ポリマーの泡構造をぎりぎりまで大きく膨らませていくと、やがて泡の壁が耐えきれず破れ、内部の溶剤が絞り出されてポリマーが濃縮されます。この過程で、結晶性のポリマーはまるで花が咲いたような微細な突起構造をつくり、それが蓮の葉のような「超撥水」の表面を生み出すのだそうです。

この技術を高分子ファイバーに応用すれば、表面にとげ状の凹凸を持つ超撥水繊維がつくれます。撥水性のある生地といえば、これまで長らくPFAS(有機フッ素化合物)に頼ってきました。防水ウェアやレインコート、汚れをはじく作業着まで、その用途は広範囲に及びます。ところがPFASは自然界でほとんど分解されず、水や土壌、人体にまで蓄積してしまう「永遠の化学物質」として、日本・EU・アメリカを中心に規制が急速に強まっている物質でもあります。

今回の超撥水繊維は、金属もフッ素も使わず、一般的なポリマーの構造変化だけで撥水性を実現しています。アウトドア向けの防水ギアから、日常の作業着、カーペットの防汚加工まで、PFASに代わる選択肢として期待されているのは、まさにこの点にあります。生分解性プラスチックへの応用も原理的には可能とされており、研究チームは環境負荷の低い素材への置き換えを目指し、現在も研究を続けているとのことです。

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京都の職人技と、新しい白のゆくえ

研究チームがこの先に見据えているのは、工業利用だけではないようです。京都の伝統工芸の職人たちと協力し、屏風や行灯、和紙づくり、さらには撥水性を備えた日傘など、伝統的なものづくりへこの技術を応用する構想が語られています。金属を使わない新しい白粉(おしろい)の開発や、若手アーティストへの新素材提供といった、文化的な広がりを持つ計画も進められているそうです。

蝶の羽の構造から着想を得て、和紙の白さに重ねて語られ、最後には日本の伝統工芸へと接続していく——この研究のストーリーには、自然、科学、そして手仕事が地続きであることを思い出させてくれる何かがあります。私たちが日々触れているファブリックもまた、繊維という微細な構造が光をどう受け止めるかによって、その表情を変えているのですよね。

真っ白な生地を手に取るとき、その白さの向こうに、こんなにも壮大な科学と工夫の歴史があると知ると、いつもの布がすこし違って見えてくるかもしれません。

jumble shop oneでは、厳選した海外ファブリックを取り揃えています。

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