手を動かすことが、世界を変えていく
海外手芸チェーンの決算から読む、クラフト業界の現在地
コロナ禍の手芸ブームが落ち着いたいま、海外の大手手芸チェーンはどんな状況を迎えているのでしょう。アメリカのマイケルズ、イギリスのホビークラフトといった世界を代表するお店の最新決算を調べると、数字のなかに業界全体の動きや、これからのクラフト文化のかたちが見えてきました。今回はそのエッセンスをご紹介します。
アメリカ・マイケルズ 関税という逆風を乗り越えたV字回復
北米最大級の手芸チェーン・マイケルズ(Michaels)は2025年、劇的な回復を遂げました。アメリカ国内に1,200店以上を展開するこの大型チェーンは、アポロ・グローバル・マネジメントの傘下で事業を続けながら、1年前には深刻な懸念材料となっていた「関税問題」を乗り越え、秋には力強い数字を出しています。
2025年第3四半期の決算ハイライト
マイケルズの2025年7〜9月期(第3四半期)の調整後EBITDAは1億7,800万ドルと、前年同期の1億2,700万ドルから約40%増。既存店売上高(同じ店舗の前年比較)はなんと12%増という大幅な伸びを記録しました。
「2025年はマイケルズにとって大きな転換点となった一年でした。若い世代のお客様が増え、ものづくりが持つメンタルヘルスへの効果や、仲間とつながる喜びを発見してくれています。この新しい作り手たちの参入が、クラフト業界の健全な未来を示しているのです」
— マイケルズ代表者コメント(Craft Industry Alliance, 2025年12月)
回復のカギは「仕入れ先の分散」と「JOANNの顧客取り込み」
2025年前半には、アメリカの対中関税引き上げによって製品調達コストが大きく揺れ、マイケルズも打撃を受けました。商品の多くが中国から輸入されていたためです。しかし同社はすばやく動き、工場や仕入れ先を他国へ切り替えるなどの対策を進めました。CEOのデービッド・ブーン氏は「価格を上げることは最後の手段」と述べ、サプライチェーンの効率化でコストを吸収する方針を貫きました。
さらにこの時期、競合のJOANN(ジョアン)が倒産・閉店したことで、マイケルズはその顧客を取り込む機会を得ました。同じ期間の既存店売上高は2.3%増と回復基調を見せており、秋にかけて大きく加速していきます。また同社は現在、ファブリックやパーティー用品のカテゴリー強化を進めており、「北米最大のファブリック専門小売」を目指す戦略を明確に打ち出しています。
イギリス・ホビークラフト 苦しい再建を経て、クリスマスに輝いた復活劇
イギリス最大の手芸専門チェーン・ホビークラフト(Hobbycraft)は、2025年に大きな試練と転換を経験した年でした。2025年2月期の決算では、売上が前年比1.1%減の約2億1,590万ポンド(約400億円)に落ち込み、収益(調整後EBITDA)は前年比半減という厳しい数字を出しました。イギリス全体で消費者の購買意欲が低迷し、コスト上昇も重くのしかかっていました。
18店舗を閉鎖し、経営の立て直しへ
2025年5月、ホビークラフトは新オーナーであるモデラ・キャピタルのもとでCVA(会社任意整理)という手続きを実施。採算の取れない18店舗を閉鎖し、コスト削減と体制の見直しを断行しました。CEOのアレックス・ウィルソン氏は「この再建こそが、ホビークラフトが将来にわたって繁栄するために必要なことだった」と語っています。
「2025年度は小売全体にとって厳しい年でした。消費者マインドの低迷やコストインフレの影響をホビークラフトだけが受けたわけではありません。再建を経て、私たちは将来に向けてよりよいポジションに立てています」
— アレックス・ウィルソンCEO(Retail Gazette, 2025年11月)
クリスマス商戦での大躍進
再建後の勢いは、年末商戦で証明されました。2025年のクリスマス期間(6週間)の売上は前年比6.3%増。さらにオンライン売上は13.8%増、クリスマス関連商品は21.6%増という好結果を出しました。とくに注目は、手作りの飾りやギフトへの需要が高まったこと。陶器のオーナメント、木製アドベントカレンダー、ベルベットリボンといった「自分でつくる喜び」を感じられる商品が人気を集めました。
ほかにも、プラモデルなどのモデルメイキング分野が61.1%増、コレクタブル・ホビーが52.6%増と、いわゆる「趣味としてのクラフト」が力強く伸びています。手芸(ハーバーダッシャリー)も14.4%増、ニット糸も増加し、「手を動かすこと」への関心が確かな形で戻ってきていることがわかります。
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数字の奥にある「なぜ人は手芸をするのか」という問い
決算数字の背景にあるのは、クラフトに対する人々の意識の変化です。ホビークラフトがイギリスの精神保健チャリティ「Mind」と共同で行った大規模調査では、印象的な結果が出ています。
イギリス人の72%が「医療の専門家は手芸や工芸をメンタルヘルスのサポートとして推奨すべき」と考えており、すでに880万人が創作活動でストレス軽減や気分向上に役立てている。また、59%が「ものをつくることで達成感を得ている」と答えた。
— Hobbycraft × Mind 「The Power of Making」調査(Retail Times, 2025年8月)
若い世代が手芸に向かっている
マイケルズも同様のトレンドを感じ取っています。2025年を通じて若い世代の来客が増え、「ものをつくることの喜びをあらためて発見している」と同社は述べています。かつて手芸は中高年の趣味というイメージがありましたが、SNSでのハンドメイド発信や、デジタル疲れへの反動として、若い世代が手を動かすことを選ぶ動きが世界規模で広がっています。
サステナブルへのまなざし
2026年の手芸トレンドとして注目されているもうひとつのキーワードが「サステナビリティ」です。ゼロウェイストクラフトの検索はPinterestで150%増と急増しており、洗いざらしのリネン生地が今年の素材トレンドとして挙げられています。既存の衣類を刺繍などで美しく補修する「ヴィジブルメンディング(見せる修繕)」という手法も人気を集め、「捨てずに直して使う」という意識がクラフトの世界にも根づいてきました。
アメリカの市場調査機関IBISWorldによると、アメリカのファブリック・手芸用品ストアの市場規模は2026年に約52億ドル(約7,800億円)に達する見込み。ここ数年は横ばいから微減傾向が続いていますが、縫製用品市場全体(ミシン糸や針など含む)は2026年から2032年にかけて年率5.1%成長が予測されており、手芸の世界は確かな裾野の広がりを見せています。
手芸は「趣味」を超えた、暮らしの文化へ
マイケルズの回復、ホビークラフトの再建と復活、そして世界各地で高まる「手づくりとウェルビーイング」への関心。この流れを見ていると、手芸はもはや単なる趣味ではなく、人が自分を取り戻すための文化的な行為になっているのかもしれません。
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海外の手芸業界の動きはまだまだ目が離せません。今後も気になるニュースがあれば、こちらのブログでご紹介していきますね。
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