数字でたどるEC開業のリアル – 「数年で半数が消える」は本当?
「ネットショップは3年で半分が辞めてしまう」「10年続くのは、ほんのひと握り」。ECを始めようと調べているとき、あるいは始めたばかりの頃に、こんな言葉を目にしたことはないでしょうか。
けれど、その数字はいったいどこから来たのでしょう。この記事では、中小企業庁・経済産業省・東京商工リサーチなどが公開しているデータをたどりながら、「ECの廃業率」について、言えること・言えないことを整理してみます。(2026年10月時点で確認できた情報をもとにしています)
01 まず、会社全体の数字から
EC単独の数字を見る前に、比べる物差しとして、日本の企業全体の「生存率」を確認しておきます。中小企業庁の白書をもとにした解説によると、起業後の生存率は次のとおりです。
| 開業後 | 生存率 | 退出した割合の目安 |
|---|---|---|
| 1年 | 95.3% | 約5% |
| 2年 | 91.5% | 約8.5% |
| 3年 | 88.1% | 約12% |
| 4年 | 84.8% | 約15% |
| 5年 | 81.7% | 約18% |
| 10年(注) | 約72% | 約3割 |
(注)10年後の数値は2016年版中小企業白書のもので、1〜5年の数値とは調査の時点が異なります。また、データが収録されるまでのタイムラグの影響で、実際よりやや高めに出ている可能性があるとも指摘されています。
「10年で9割が消える」は、全体では当てはまらない
全業種を平均すると、5年後に約8割、10年後でも約7割が続いているというのが公的データの示すところです。よく聞く「3年で7割、10年で9割が潰れる」という話は、少なくとも会社全体の数字とは合いません。ただし、この数字は「会社全体」の平均です。小さな個人事業やネットショップにそのまま当てはめてよいのか、というのが次の問いになります。
中小企業庁の小規模企業白書に基づく整理では、起業から5年後の生存率は81.7%で、欧米主要国と比べても高い水準とされています。
— 幻冬舎ゴールドオンライン(中小企業庁の白書を解説した記事)
02 「ECだけ」の公式な廃業率は、見つからない
今回調べた範囲では、国や公的機関が「ネットショップだけ」を切り出して、開業後3年・5年・10年の生存率を算出した統計は見つかりませんでした。ネットショップは個人でも副業でも始められ、閉めるときに届け出が必要なわけでもありません。そのため、実態を数えること自体が難しい分野なのだと考えられます。EC専門メディアの解説でも、ネットショップの成功率や廃業率を示すデータは出せない、と説明されています。
出回っている「3年で半数」「10年で9割」の出どころ
ネット上では「ECは3年で5〜6割、5年で7〜8割、10年で9割以上が撤退する」といった数字が語られています。ただ、こうした数字の元になった調査や統計までたどれる資料は、今回は確認できませんでした。たとえば金融系メディアの解説でも、「初年度の廃業率は3割、2年目で5割」という数字は、「と言われている」という伝聞の形で紹介されています。
つまり、これらは「厳しい世界だ」という肌感覚を表す目安としては参考になっても、公的データで裏づけられた確率として扱うのは慎重にしたほうがよさそうです。
入口の広さを示すデータ
参考になるのが、ネットショップ作成サービス「BASE」が2025年10〜11月に利用ショップ(有効回答1,083)へ行ったアンケートです。運営体制は個人が71.5%、運営人数は「1名」が77.4%。開設資金は「0円」が24.7%で最多、7割以上が10万円未満でスタートしており、約5割が副業・複業・兼業として運営していました。
BASEの調査では、ネットショップの運営は1人体制が約8割を占め、開設時の資金が10万円未満という回答が全体の約7割に達しています。
小さく、身軽に始められるのは、ECのいちばんの魅力です。一方で、始めるのも辞めるのも手軽であるぶん、出入りの多い土壌ではありそうです。ただし、これはBASEを使うショップへのアンケートであって、EC全体を代表する数字ではありません。また、この結果から廃業率を計算することもできません。
03 数字で見える、ネット通販の「退出」
率は出せなくても、「件数」なら追える数字があります。東京商工リサーチ(TSR)は、ネット通販を中心とする「無店舗小売業」の倒産・休廃業・解散を集計しています。
2024年は、倒産が169件(前年比45.6%増)で過去最多。休廃業・解散も261件(同21.3%増)で、合わせて430件となりました。市場から退出した企業は、過去10年で3.5倍に増えたとされています。さらに2025年は、休廃業・解散が408件(前年比56.3%増)と、大きく増えています。
倒産したのは、どんな会社か
2024年の倒産169件のうち、設立年がわかった151件を見ると、2010年以降に設立された新しい会社が7割以上を占め、業歴10年以内が64.2%でした。TSRは、市場の拡大を見込んで新規参入したものの、販売不振で事業が軌道に乗らなかったケースが多いとみています。背景として、参入障壁が低く異業種からの参入も増えて過当競争になっていること、仕入れや物流のコストが上がって採算が取りにくくなっていることを挙げています。
TSRの分析では、無店舗小売業の倒産は2021年に一度減ったあと増加が続いており、2024年の件数は前年の約1.5倍に達しました。
— ECのミカタ(東京商工リサーチの調査を紹介した記事)
この数字の読み方について。ここに挙げたのは「件数」であり、「何%が消えたか」を示す率ではありません。開業した数がわからないので、割合は計算できないのです。また、「無店舗小売業」にはネット通販のほか、テレビ通販や産地直送なども含まれます。そして集計の対象は企業データベースに載る事業者が中心のため、個人で静かに閉じたショップは、こうした集計には現れにくいと考えられます。
04 市場は伸びている、それでも
では、EC市場そのものは縮んでいるのでしょうか。答えは逆です。経済産業省が2026年10月21日に公表した調査によると、2025年の国内BtoC-EC(消費者向けの電子商取引)市場規模は27.6兆円で、前年比5.5%増でした。このうち物販系は15兆8,233億円(3.97%増)で、物販のEC化率(物販全体に占めるECの割合)は9.80%です。
伸び方はなだらかになってきました。2023年が前年比9.23%増、2024年が5.1%増、2025年が5.5%増という流れで、成長は続いているものの、ひところの勢いとは違います。そして物販の買い物のうち、ECが占めるのはまだ約1割。市場にはまだ伸びしろがあります。
経済産業省の調査では、2025年の物販系EC市場は約15.8兆円、サービス系は約8.9兆円、デジタル系は約2.8兆円で、3分野とも前年を上回りました。
— コマースピック(経済産業省「令和7年度電子商取引に関する市場調査」を紹介した記事)
市場が広がれば、参入する人も増えます。前の章のデータと並べると、「市場が伸びること」と「個々のショップが続くこと」は、別の話だということが見えてきます。
05 数字から読み取れること
ここからは、データそのものというより、データを並べてみて読み取れることです。
「出店」と「集客」は、別の仕事です
店を開くだけなら、数時間でできる時代です。けれど、開いた店に人が来るかどうかは別問題です。BASEの調査で「最初の売上につながった取り組み」を尋ねたところ、「SNSでの情報発信」が61.3%と圧倒的でした。出店したあとに、誰にどう知らせるのか。そこが最初の壁になっていることがうかがえます。
コストが上がる時代は、利益の残り方を見る
TSRが指摘するとおり、仕入れや配送のコストは上がっています。売上があっても、仕入れ・送料・梱包・手数料を引いて手元にいくら残るのかを把握していないと、気づかないうちに苦しくなります。これは、実店舗でもECでも変わらない基本です。
「選ばれる理由」をひとつ持つ
過当競争の中で残るのは、価格以外の理由で選ばれるショップではないでしょうか。伝え方、選び方、顧客への寄り添い方そのものが差別化になりえます。画面越しでも「このお店から買いたい」と思ってもらえる何かがあるかどうか。数字の向こうで、それが分かれ目になっているように思います。
まとめ
会社全体で見れば、5年後に約8割、10年後でも約7割が続いており、「10年で9割が消える」という話は公的データと合いません。一方、EC単独の生存率を示す公式の統計は、今回は見つかりませんでした。ネット上の「3年で半数」といった数字は、出どころを確認できない目安として受け止めるのが安全です。
そのうえで、ネット通販を含む無店舗小売業の倒産や休廃業は近年増えており、その中心は業歴の浅い新しい事業者でした。市場が伸びていても、続けられるかどうかは、集客、利益、そして選ばれる理由をどれだけ丁寧に積み上げられるかにかかっています。怖がりすぎず、楽観しすぎず、数字をひとつの地図として手元に置いておきたいものです。
参考資料
- 幻冬舎ゴールドオンライン 企業生存率(小規模企業白書をもとにした解説)
- M&Aキャピタルパートナーズ 10年後の企業生存率(2016年版中小企業白書をもとにした解説)
- 創業手帳 起業後の生存率とデータの注意点
- ECのミカタ ネットショップ運営の完全ガイド
- マネーフォワード ネットショップの廃業率に関する解説
- ネットショップ担当者フォーラム BASEオーナー調査
- ECのミカタ BASEオーナーズ調査2025
- ECのミカタ 無店舗小売業の倒産・休廃業・解散(東京商工リサーチ調査)
- ネットショップ担当者フォーラム 2025年の休廃業・解散(東京商工リサーチ調査)
- コマースピック 令和7年度電子商取引に関する市場調査
- LOGI TODAY 2025年のEC市場(経済産業省調査)
- 経済産業省 令和6年度電子商取引に関する市場調査の結果
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