“眠れるミシン” あなたのミシン、もう一度動かしませんか?

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あの時バカ売れしたミシンは、今使われてるんでしょうか。
調査・分析・推論記事 2026年

コロナ禍で爆売れしたミシン、
今は押し入れの中?
手芸ブームの光と影を数字で読み解く

jumble shop one 編集部

2020年のコロナ禍、「手作りマスク」ブームをきっかけに日本中でミシンが売れまくった。販売台数は前年比1.8倍、メーカー各社は史上最高益を記録し、生産ラインを急拡大。ところが——コロナ禍が明けた今、そのミシンたちはどこへ行ったのか。手芸店の閉店ラッシュ、生地メーカーの苦境、そして買ったまま使われていないかもしれないミシンの”現在地”を、データとともに考察する。

01コロナ特需——数字が示す”異常な盛り上がり”

2020年春、新型コロナウイルスの感染拡大でマスク不足が深刻化すると、「自分でマスクを縫おう」という動きが全国に広がった。これが家庭用ミシン市場を一気に活性化させた引き金となる。

調査会社GfKジャパンのデータによれば、2020年4〜10月の家庭用ミシン販売台数は前年同期比で約1.8倍に急増した。コロナ前の2019年、国内販売市場は52万台と1995年のピーク(約159万台)の3分の1以下まで縮小していたが、2020年には118万台まで回復したとみられる。

1.8倍
家庭用ミシン販売台数
2020年4〜10月(前年同期比)
GfKジャパン調べ
118万台
2020年国内市場規模
2019年:52万台から急回復
+30%増
蛇の目ミシン工業 販売台数見込み
2020年4〜9月(前期比)
86万台
蛇の目ミシン工業 販売台数
2020年4〜9月(前年同期比+34%)

ブラザー工業は「家庭用ミシン事業の2020年4〜9月の売上高と営業利益が創業以来、過去最高」と発表した。蛇の目ミシン工業(現ジャノメ)も同期の国内・海外販売台数が3割以上増加し、生産拠点のタイ・台湾工場では人員を一気に増やして増産体制を構築した。

中小メーカーも恩恵を受けた。アックスヤマザキが2020年3月に発売した「子育てにちょうどいいミシン」は、マスク作り需要を取り込み1年間で5万台を販売。同社の2020年12月期の売上高は前期比2.5倍の10億円、営業利益は12.5倍の2億5000万円に達し、営業利益率は25%という高水準を記録した。

「家庭用ミシン事業の2020年4〜9月の売上高と営業利益が創業以来、過去最高になった」
— ブラザー工業担当者(東京商工リサーチ 2020年記事より)

02メーカー各社の業績推移——コロナ前・中・後

コロナ禍の特需がいかに突発的だったかは、メーカー各社の業績の”振れ幅”を見るとよくわかる。以下に主要3社の動向を整理した。

時期 主な動向 状況
2019年以前 国内家庭用市場は縮小の一途。国内販売52万台(1995年比 約1/3)。工業用も低調。 縮小
2020年春〜 マスク需要で家庭用が急騰。ブラザー・蛇の目・JUKIいずれも家庭用売上が前年比2〜3割増。国内市場は118万台まで急回復。 急拡大
2021年 巣ごもり需要が継続し高水準を維持。各社が生産能力を増強。蛇の目は年間160〜180万台の生産体制を目指す。 高水準
2022〜2023年 ECサイトのミシン市場規模は2023年1〜3月に前年同期比127%(Nint推計)と一部好調を維持。一方でリアル手芸店の閉店が加速。 二極化
2024年〜 JUKIの2024年度売上高は前年比0.5%増の951億円にとどまり伸び悩む。在庫削減のための生産調整を実施。繊維・縫製関連業界の倒産リスクが高止まり。 踊り場

JUKIの直近決算(2024年度)によれば、縫製機器部門はアジア・中国では緩やかな回復を見せているものの、欧米の需要は低迷が続いた。在庫削減のために生産調整を余儀なくされており、コロナ特需からの反動が明確に数字に表れている。

03崩れゆくエコシステム——手芸店と生地産業の苦境

ミシンを使い続けるためには、ミシン本体だけでなく、生地・糸・型紙を売る手芸店、そしてそれらを供給する産業の存在が不可欠だ。ところが現在、そのエコシステム全体が揺らいでいる。

手芸店の大量閉店

全国に展開する大手手芸チェーン「クラフトハートトーカイ」(藤久グループ)は、2022年以降、毎月のように複数店舗を閉店している。2022年から2026年にかけての閉店店舗一覧は数十店舗に及び、ユーザーからは「気づけば近くの店がなくなっていた」という声が絶えない。

ユザワヤも都心店の縮小が報道されるなど、大手でも苦境は続く。手芸店閉店の背景には、ネット通販の普及による来店客減少に加え、コロナ禍に膨らんだ借入金の返済(いわゆる「ゼロゼロ融資」の返済本格化)が追い打ちをかけているとみられる。

生地産業の衰退

繊維・縫製関連業界も厳しい。信用情報会社アラームボックスの調査では、繊維工業は2024年度においても「倒産危険度の高い業種」の上位に常にランクインしており、円安による輸入コスト高騰や関連会社の連鎖倒産リスクが指摘されている。生地の国内生産は1970年前後には年間約400万台(生産台数ベース)あったものが、近年は5万台前後まで落ち込んでいるのが実態だ。

【推論】手芸店が消えると何が起きるか?

初心者がミシンを買っても、実際に生地を選ぶ体験ができなければ「縫いたい気持ち」は育たない。ネット通販では生地の風合い・厚さ・色の微妙なニュアンスは伝わりにくく、失敗した経験がミシンへの心理的距離を広げることになる。手芸店の閉店は、単なる販売機会の損失にとどまらず、「ミシンを継続して使う文化」の基盤そのものを弱体化させているのではないだろうか。

04推論してみる——「眠れるミシン」仮説

以上のデータを踏まえ、次の仮説を提示したい。

💡 コロナ禍に購入されたミシンの多くは、現在、使われないまま収納されている可能性が高い。
① 購入動機が「マスク」という限定的目的だった

マスクが市販品で十分に供給されるようになると、ミシンの必要性が薄れた。

② 外出自粛解除で「おうち時間」が急減した

巣ごもり需要が消え、趣味としての手芸に割く時間と意欲が失われた。

③ 近隣の手芸店が閉店し、材料入手のハードルが上がった

使いたいと思っても「生地を買いに行く場所がない」という現実が立ちふさがる。

④ 生地・縫製材料のサプライチェーンが弱体化した

生産者の倒産や廃業により、選べる素材の幅が狭まっている。

⑤ 初心者に適した購入後サポートが不足した

特需で急いで購入した層の多くは縫製経験が少なく、使い方が分からないまま挫折した可能性がある。

もちろん、コロナ禍をきっかけに本格的に手芸にハマり、今も活発に活動しているユーザーも多数いる。ECサイトでは2023年にかけて高単価ミシンへの買い替え需要も見られた。しかし市場全体として見れば、コロナ特需で膨らんだ需要の「底上げ」がそのまま定着したとは言い難い状況だ。

メーカー各社が当初「一時のブームで終わらせたくない」と語っていた懸念は、少なくとも一部については現実になっていると推測する。

05それでも「手作りの灯」は消えていない

悲観的な数字が並ぶ一方で、前向きなサインもある。国内のハンドメイドマーケット(minneやCreemaなど)は引き続き成長を続けており、手芸を「作って売る」という新しいライフスタイルに転換したユーザーも増えている。SNSでは縫製動画が根強い人気を誇り、ミシンを軸にしたコミュニティは健在だ。

また、グローバルなミシン市場は2030年に向けてCAGR約5.75%で成長が見込まれており(市場調査会社予測)、長期的な縮小トレンドに歯止めがかかる可能性もある。

問題は「環境」だ。生地を実際に触れる場所、困ったときに相談できる人、続けるための材料が揃う場所——そうした「手芸文化の土台」を再構築できるかどうかが、眠れるミシンを目覚めさせるカギとなる。


※ 本記事は公開情報をもとにした筆者の推論・考察を含みます。販売台数等のデータは各社発表・報道・調査機関の推計値に基づいており、確定値とは異なる場合があります。

※ 参考:日本経済新聞(2020〜2021年)、東京商工リサーチ(2020年)、GfKジャパン調査データ、日経ビジネス(2021年)、Nintブログ(2023年)、JUKIグループ業績ハイライト(2024年)、アラームボックス倒産予測(2023〜2024年)ほか。

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