移民の夢が生んだ布 ――
Robert Kaufman Fabricsという物語
キルティングファブリックを扱うショップのサイトをのぞいてみると、必ずといっていいほど目にする名前があります。Robert Kaufman Fabrics 。セルヴェッジにそのロゴを見つけた瞬間、なんとなく安心するという方も多いのではないでしょうか。
でも、この名前の後ろにどんな歴史が刻まれているかを知っている人は、意外と少ないかもしれません。今回は、ロシア移民の若者がアメリカの地でひとつの夢を紡ぎ、80年以上の時を経てキルティングコミュニティに深く根を張るまでの物語を、布とともに辿ってみたいと思います。
ひとりの移民と、布への夢
1899年、ロシアで生まれたロバート・カウフマンは、多くの移民がそうであったように、アメリカに夢を持ってやってきました。着いた先はニューヨーク。手に職をつけようと繊維の世界へ飛び込み、長い年月をかけて紳士服の製造業で確かな地位を築いていきます。
しかし、時代はそう優しくありませんでした。1929年の株式市場の崩壊、第二次世界大戦、家族の病――。幾度もの逆境が彼の前に立ちはだかります。それでもロバートは諦めませんでした。戦後、家族を連れてロサンゼルスへ移り住み、ゼロからもう一度、自分のビジネスを立ち上げます。
そしてまた、彼は成功しました。LA郊外のカーデナに構えた小さな布の店が、やがて世界中のキルターたちが頼りにするブランドへと成長するとは、当時は誰も想像しなかったでしょう。
Despite setbacks like the stock market crash of 1929, World War II, and bouts of poor health in his family, he persevered and became a successful maker of men’s clothing. After the war, he relocated his family to Los Angeles, essentially rebuilding his business from scratch.
1929年の株式市場の大暴落や第二次世界大戦、家族の度重なる病気といった逆境に見舞われながらも、彼は粘り強く努力を続け、紳士服の成功した製造業者となった。戦後、彼は家族を連れてロサンゼルスに移住し、事実上、ゼロから事業を再建した。
息子たちの時代、そしてファブリックブランドへの転換
1950年代、健康を害したロバートに代わって息子たちが事業を引き継ぎ始めます。彼らが選んだ方向は、紳士服から「ファブリック専業」への転換でした。ベルベット、プラッド、シアサッカー、シフォン、サテン――専門性の高い素材を製造・輸入するビジネスへと舵を切り、ここに「Robert Kaufman Fabrics」という名が生まれます。
末っ子のハーヴェイが1963年に加わると、全国規模の営業網が整備されます。1970年代半ばには100%コットンプリントも展開し、製品のラインナップは大きく広がっていきました。
COMPANY
Robert Kaufman Fabrics(ロバート・カウフマン・ファブリックス)
創業:1942年
本社:米国カリフォルニア州カーデナ(ロサンゼルス近郊)
事業内容:キルティング・ファッション・製造向け高品質テキスタイルの卸売
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キルティングとの出会い ―― Kona Cotton Solidsの誕生
1980年代に入ると、アメリカ全土でキルティングブームが静かに広がり始めます。一方でファッションファブリックの小売市場は縮小傾向にあり、Robert Kaufmanはここで大きな決断をします――急成長するキルティング産業への本格参入です。
このタイミングで誕生したのが、のちにブランドの代名詞となるKona Cotton Solids(コナ・コットン・ソリッズ)です。100%コットンの無地生地でありながら、その色の数は圧倒的。現在は366色というラインナップを誇り、世界中のキルターたちが「あの色が欲しい」と手を伸ばし続けるシリーズへと成長しました。
さらに、アーティストデザイナーとの協働がブランドを一躍キルティング界の中心へと押し上げます。最初のシグネチャーアーティストであるDebra LunnとMichael Mrowka、そしてJennifer Sampouの参加によって、Robert Kaufmanはただの素材メーカーから、クリエイティブなパートナーへと変貌を遂げたのです。
Kona Cotton Solids ―― 366色のパレット
Kona Cottonがこれほど世界中に愛される理由は何でしょうか。まずは布そのものの質。44インチ幅、100%コットンのブロード生地は、なめらかな手触りとしっかりとした織り密度を持ち、カットもソーイングも心地よく行えます。アイロンのかかりが良く、縫い目がきれいに出るため、精度の求められるパッチワークでも信頼して使える一枚です。
01 圧倒的なカラーラインナップ
366色という数字は、単なるスペックではありません。「あのプリント生地に合う白を探している」「背景に使える落ち着いたネイビーがほしい」――そんなときに、Konaのカラーカードを広げると、必ず答えが見つかる。それがキルターたちをKonaに惹きつける最大の理由のひとつです。白だけでも複数の種類があり、その奥深さに初めて気づいたときの驚きは、ベテランキルターでも同じかもしれません。
02 Color of the Year という文化
毎年秋、Robert Kaufmanが発表する「Kona Color of the Year」は、キルティングコミュニティにとってひとつの風物詩になっています。2025年は深みのある紫「Nocturne(ノクターン)」、2026年は穏やかで清々しいグリーン「Wander(ワンダー)」が選ばれました。発表のたびにSNSが色めき立ち、その色を使ったデザインが次々と生まれる。一枚の生地が会話を生み出す、そんなブランドならではの現象です。
I love Kona solids and have used them for more than 30 years. The array of colors is impressive to say the least!
私はコナの無地生地が大好きで、30年以上も使い続けています。その色のバリエーションは、まさに圧巻です!
03 Oeko-Tex認証の安心感
Kona Cottonは国際安全基準「Oeko-Tex Standard 100」の認証を取得しています。これは有害物質の不使用を第三者機関が認定するもの。子どものキルトを作るときにも、肌に触れるものを縫うときにも、安心して手を動かすことができます。
Artisan Batiks ―― ジャワ島の手仕事
Kona Cottonと並んでRobert Kaufmanを代表するのが、Artisan Batiks(アーティザン・バティクス)のシリーズです。インドネシア・ジャワ島で生産されるこのバティクファブリックは、一枚ごとに職人の手が入った、まさに「一点もの」の布。
手でスタンプを押し、手で色を重ねていく工程は、何人もの職人の手を経て完成します。屋外で作業されることも多く、そのときの天気や湿度さえも布の表情に影響するといいます。だから同じデザインのつもりでも、二枚として全く同じものはできない。その偶然性が、Artisan Baticsをコレクターが惹きつけてやまない理由でもあります。
NOTE
Artisan Baticsの製造はLunn Studios(ルン・スタジオ)が担当しています。デブラ・ルンとマイケル・ムロウカのふたりは、1994年からRobert Kaufmanと協働してきた最初期のシグネチャーアーティスト。手染め・手描き・エアブラシ・スクリーンプリントなど多彩な技法を組み合わせ、いくつもの受賞歴を持つ布を生み出し続けています。
Essex ―― リネンとコットンの心地よい混紡
キルティングだけでなく、ソーイングや雑貨づくりにも人気の高いEssex(エセックス)シリーズ。リネン55%・コットン45%のブレンドで、独特のナチュラルな風合いとほどよいハリ感が特徴です。単色のソリッドカラーから、チェック・ストライプのヤーンダイ(先染め)まで幅広く展開されており、素朴な温かみを生かした小物づくりにもよく合います。
リネン特有の経年変化を楽しみながら、使い込むほどに柔らかくなっていく質感は、「長く使うもの」を作りたいときの頼もしい相棒です。
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デザイナーとの協働 ―― 多様な才能が集まる場所
Robert Kaufmanのもうひとつの大きな強みは、才能あるテキスタイルデザイナーたちとのコラボレーションです。社内に独自のデザインスタジオを持ちながら、外部の実力派デザイナーとのシグネチャーコレクションも積極的に展開してきました。
Carolyn Friedlander(キャロリン・フリードランダー)のミニマルで洗練された幾何学プリント、Elizabeth Hartman(エリザベス・ハートマン)の動物モチーフを用いたユニークなパターン、Jennifer Sampou(ジェニファー・サンポ)の豊かな色彩感覚――それぞれ個性の異なる声がひとつのブランドの中に共存しています。
年間約3,000ものSKUを四半期ごとに新しくリリースし続けるその勢いは、ただの量産ではなく、デザインの多様性と品質への飽くなき追求の表れだといえるでしょう。
DESIGNERS
Lunn Studios(Debra Lunn & Michael Mrowka)…… Artisan Baticsの生みの親。手染め・手描きの先駆者。
Jennifer Sampou…… ブランドを初期から支えたカラーアーティスト。
Carolyn Friedlander…… モダンキルティング界を代表する精緻なテキスタイルデザイナー。
Elizabeth Hartman…… 動物をモチーフにしたキュートで個性的なプリントが人気。
そのほかAnn Kelle、Jill Shaulis、Flowerhouse、Wishwellなど多彩なデザイナーが在籍。
激動の2024年 ―― それでも布は続く
80年以上の歴史を持つRobert Kaufmanも、近年の経済的な逆風から無縁ではありませんでした。2024年、創業者の孫にあたる3代目ケン・カウフマンは経営の安定を求め、業界随一のキルティング専門店Missouri Star Quilt Companyに支援を仰ぐことを決断します。
Missouri Starのサポートによって資本が再編され、ブランドとしての独立性は保ちながら経営基盤が立て直されています。この動きに対してはキルティングコミュニティでも様々な意見が交わされましたが、ケン自身は「会社の消滅はこの業界全体にとって大きな損失になっていた。Missouri Starの対応には心から感謝している」と語っています。
創業者ロバートが1929年の崩壊を乗り越えたように、3代目もまた時代の荒波を泳いでいく。その姿には、どこかファミリービジネスらしいしぶとさを感じます。
セルヴェッジのロゴに込められたもの
ニューヨークに渡ったひとりの移民の夢が、ロサンゼルスの地で育ち、いつのまにか世界中のキルターたちの縫い台に届くようになった。「30年以上使い続けている」という声が世界のあちこちから聞こえてくるブランドは、そう多くありません。
Kona Cottonの366色を前にして、どの色を選ぼうか迷う時間。Artisan Baticsの一枚をひっくり返して、その偶然の模様に見入る瞬間。Essexのリネン地に触れたときの、あのほどよい素っ気なさ。
セルヴェッジに小さく刻まれた「Robert Kaufman」の文字の向こうには、そんな長い旅がつまっています。次に手に取るときは、ぜひそのことも思い出しながら、一針一針を楽しんでみてください。
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