「#WhoMadeMyClothes」という問いかけ ── オーストラリア発、世界を巻き込む「ファッション・レボリューション・ウィーク」
手を動かして服やバッグを作るとき、私たちは布の色や質感、縫いやすさに心を奪われがちです。けれど、その一枚の布が誰の手を経てここに届いたのか、考えたことはあるでしょうか。オーストラリアやニュージーランドで特に熱心に取り組まれている「ファッション・レボリューション・ウィーク」は、まさにその問いを消費者と作り手のあいだで交わし合うムーブメントです。今回は、その始まりと仕組み、そしてオセアニア地域での具体的な広がりについて詳しく調べてみました。
事故から生まれた運動 ── ラナ・プラザの記憶
2013年4月24日、バングラデシュの首都ダッカ郊外にあった8階建ての複合ビル「ラナ・プラザ」が突然崩落しました。この建物には5つの縫製工場が入っており、Mango、Primark、Benettonなど世界的なブランドの衣類が、多くの職人たちの手によって日々縫われていました。崩落によって1,000人を超える縫製職人が命を落とし、さらに多くの人が負傷するという、ファッション産業史上最悪ともいわれる産業事故となりました。
この事故から3か月後、ロンドンで開かれたエシカルファッションの会議で、英国人デザイナーのキャリー・ソマーズ氏と、デザイナー兼研究者のオルソラ・デ・カストロ氏が出会います。二人は「ラナ・プラザの犠牲者たちを、そしてこれまで数えきれないほど起きてきた同様の悲劇を、二度と忘れないための恒久的なキャンペーンが必要だ」と考え、同年のうちに「ファッション・レボリューション」を立ち上げました。これが2014年、最初の「ファッション・レボリューション・デー」として実現し、2016年以降は1週間にわたる「ファッション・レボリューション・ウィーク」として毎年4月に開催されるようになっています。
創設者キャリー・ソマーズ氏は当時をふり返り、ラナ・プラザの事故後、街には倫理的なファッション産業を求める記事があふれていたと語ったうえで、「ラナ・プラザの犠牲者、そしてこれまでのすべての悲劇の犠牲者たちが、決して忘れ去られることのないよう、長く続くキャンペーンを立ち上げる必要があった」という思いから運動を始めたと述べています(筆者要約・訳)。
ふたつのハッシュタグが生む対話
ファッション・レボリューション・ウィークの中心にある行動は、とてもシンプルです。着ている服のタグを裏返して撮影し、「#WhoMadeMyClothes(私の服を作ったのは誰?)」というハッシュタグを添えて、そのブランドをタグ付けしながらSNSに投稿する。それだけです。このハッシュタグは、実は初年度には「Who Made Your Clothes」という表現で使われていましたが、2年目から「私の(My)」という一人称に切り替えられました。より直接的で、自分ごととして問いかけられる言葉に変えたことが、運動が世界に広がる大きな要因になったといわれています。
作り手からの応答「#IMadeYourClothes」
2016年には、これに応える形で「#IMadeYourClothes(私があなたの服を作りました)」というハッシュタグが誕生しました。世界各地の提携縫製工場で働く職人たちが、自分の名前や作った製品を手に、笑顔で写った写真を投稿するというものです。ある年には、G-Star Raw、American Apparel、Zara、Massimo Dutti、Boden、Warehouseなど1,250以上のブランドや小売業者が、実際に働く職人たちの写真を添えて応答したという記録も残っています。声を上げるだけの一方通行のキャンペーンではなく、「問いかけ」と「応答」が双方向に成立している点が、このムーブメントの大きな特徴だといえるでしょう。
数字が語るインパクト
2013年、たった一日の追悼行動として始まったこの運動は、2016年に1週間形式の「ウィーク」となり、現在では世界100カ国以上で参加チームを持つ規模にまで成長しました。あわせて2017年に始まった「ファッション・トランスペアレンシー・インデックス(Fashion Transparency Index)」は、世界の大手ファッションブランド250社を対象に、サプライチェーンの情報公開度を毎年ランキング形式で評価する取り組みです。運動開始当初、サプライヤーリストを公開していたブランドはごくわずかでしたが、現在では250社以上が自社の取引工場リストを公開するようになったと報告されています。
2026年のファッション・レボリューション・ウィークは4月22日から28日にかけて開催され、テーマは「Collective Action(集団的行動)」でした。13年におよぶ活動の積み重ねを経て、個人の発信だけでなく、ブランド・政策立案者・市民が声をひとつにして、クリーンで公正、安全かつ透明性のあるファッション産業を求めていこうという呼びかけがなされています。ウィーク中の4月25日には「Mend in Public Day(人前で繕う日)」も設けられており、2026年には世界で130件を超えるイベントが開催され、繕い(つくろい)の技術を分かち合う場が各地に生まれました。
オーストラリア・ニュージーランドでの現地の動き
ファッション・レボリューションは英国発祥の運動ですが、オーストラリアとニュージーランドでは早くから独自の国内チームが立ち上がり、地域に根ざした活動が続けられています。オーストラリア・ニュージーランド地域を長年率いてきたコーディネーターのメル・トゥアリー氏は、「私たちはローカルになる以前から、グローバルな存在だった」と語っており、世界本部と連携しながらも、それぞれの国の実情に合わせた活動を展開してきました。
オーストラリアでは、国内の縫製産業を支援する非営利団体「エシカル・クロージング・オーストラリア」との共催パネルディスカッションが毎年開催され、実際に工場で働いてきた縫製職人が登壇し、自身の経験や労働環境について直接語る場が設けられています。ニュージーランドでは、エシカルファッションブランド「Kowtow」の創業者ゴーシャ・ピョンテク氏が、フェアトレード団体の代表とともにサプライチェーンについて語るオンラインイベントを開いたほか、ファッション・レボリューションのニュージーランド代表を務めるローズ氏は、廃棄されるはずだったファストファッションの衣類だけを使い、等身大の抗議バナー作品を制作するアーティストとしても知られています。古着や廃材の布から新しい表現を生み出すという発想は、私たちファブリック好きにとっても、大いに刺激を受けるところではないでしょうか。
以前当ブログでご紹介したアメリカの「ナショナル・コントラクト・ソーイング・マンス」が、どちらかといえば国内の縫製ビジネスを盛り上げるB2B的な色合いの強い取り組みだったのに対し、こちらのファッション・レボリューション・ウィークは、消費者と、遠く海の向こうで縫い針を握る職人とを、SNSを介して直接つなごうとする点が大きく異なります。ブランドという「窓口」を挟みながらも、問いかける側と答える側の顔が見える距離まで近づけようとする姿勢に、この運動ならではの意義があるように感じます。
まとめ ── 手を動かす私たちにできること
ファッション・レボリューション・ウィークが問いかけているのは、大きなブランドに対してだけではありません。手芸や裁縫を楽しむ私たちにとっても、布の産地や作り手に思いを馳せることは、ものづくりをより豊かにしてくれる視点だと思います。着られなくなった服を繕う「Mend in Public Day」の発想は、まさに手仕事を愛する人たちの日常と地続きです。次にファブリックを選ぶとき、その一枚がどんな旅をしてきたのか、少しだけ想像してみませんか。
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