日本の技術は世界トップクラス!乗り物シートの生地のひみつ

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乗り物シートのあの独特の質感と座り心地。どんな生地が使われているのだろう。

電車やバスのあの生地、日本の技術は世界トップクラス。
「モケット」という特別な織物のはなし

電車やバスに乗るとき、座席の生地をじっくり見たことはありますか? カラフルな幾何学模様、短い毛が密に並んだあの独特の手触り。何気なく触れているあの生地には、100年以上の歴史と、世界に誇る日本の技術が詰まっています。生地好きなら、知っておいて損のない「モケット」というテキスタイルのはなしをご紹介します。


モケットとは——パイル織物の王様

「モケット(Moquette)」とは、パイル織物の一種です。縦糸・横糸の地組織に、ウールやポリエステルなどの繊維を織り込んで、表面に短くて密な毛羽(パイル)を作り出した生地のこと。ベルベットのようなしっとりとした手触りが特徴で、フランスで考案され、ヨーロッパの鉄道座席に古くから使われてきました。

織物の中で最強クラスの耐久性

モケットがこれほど公共交通機関に愛用され続ける理由は、その圧倒的な耐久性にあります。パイル糸が表面を覆うことで、地糸が直接こすれることなく、摩耗に対して非常に強い。破れにくく、ほつれにくく、それでいて滑りにくい。毎日何百人もが乗り降りする座席に張るには、これ以上の生地はなかなか見当たりません。

パイル糸が前後左右に動き、経糸と緯糸が直接モノに触れることがなく、傷みにくく耐久性に優れています。また、パイルの間に空気が含まれるため、蒸れにくく適度に暖かいことや、水に濡れても染み込みにくく、滑りにくいという特徴もあります。


WEB CARTOP「車のシート素材の種類と特徴」

現在のモケットは、アクリルやポリエステルなどの化学繊維が主流ですが、素材の進化とともに難燃加工や帯電防止加工も施されています。裏側にはバッキング(コーティング)処理がほどこされ、毛抜けをさらに防ぎ、強度と柔軟性を同時に保っています。新幹線N700系のような最新車両向けには、ジャガード織機で複雑な柄を織り出し、約3,500本もの糸を1本ずつ手でセットするという、気が遠くなるような工程を経て完成します。

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世界に誇る、和歌山・高野口とメーカーの底力

あまり知られていませんが、日本を走る電車やバスのシートに使われるモケットの7割以上が、和歌山県橋本市・高野口(こうやぐち)で生産されています。世界遺産・高野山のふもとに位置するこの地域は、100年以上にわたってパイル織物の一大産地として栄えてきました。

日本初の機械織りモケット、そして現代へ

日本でモケットの歴史を語るうえで欠かせないのが、大阪に本社を置く「住江織物(現・SUMINOE株式会社)」です。1883年創業の老舗で、1896年に日本初の手織りシートモケットの製造に成功。1899年には国鉄のシート表皮材に採用されました。さらに1913年(大正2年)にはドイツ・イギリスから技術と力織機を導入し、日本で初めて機械織りモケットの量産を開始。国鉄一等車、私鉄のシートに次々と採用されていきました。

1896年、日本初の手織りによるシートモケットの製造に成功し、1899年、国鉄のシート表皮材に採用。以降JR、私鉄、公営交通に納入し、一世紀以上にわたりトップシェアを誇っています。


住江織物(Wikipedia)

現在のSUMINOEは、すべての日系自動車メーカーへ内装材を納入し、鉄道車両シート地は国内トップシェア。さらに北中米・アジアへのグローバル展開も加速しており、2024年12月には社名を「SUMINOE株式会社」に変更。世界を舞台に戦う企業へと進化を続けています。

バスシートは国内シェア98%の職人仕事

乗り物のシートはモケット生地だけでなく、シート本体の製造も国内技術が圧倒的です。日本を走るバスの約98%のシートを手がける「天龍工業」では、コンピュータによる自動裁断は行うものの、縫製工程はほぼすべて職人の手作業。バスの車種・座席の位置によって微妙に形が異なるため、オートメーション化が難しく、人の手でしか作れない部分が多いといいます。多い日には1日30台分ものシートが出荷されていく、その技術と規模には驚かされます。

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あのカラフルな柄には、ちゃんとした理由があった

電車やバスのシートといえば、あの独特の幾何学模様や総柄デザイン。なぜわざわざ複雑な柄にするのか、不思議に思ったことはありませんか? 実はこれ、きちんと意味のある選択なのです。

理由1 —— 汚れが目立ちにくい

最大の実用的理由がこれです。コントラストの強い複雑な柄にすることで、小さな汚れや色ムラが模様に溶け込んで目立ちにくくなります。毎日多数の乗客が利用する公共交通機関では、シートの張り替えコストを抑えることが大切。柄物であることが、長く清潔感を保つうえで理にかなっているのです。

コントラストが激しい柄にすると汚れが目立ちにくい。なので、貼り替えのコストも抑えたいということで、そういうものがよく選ばれるのではないかと思います。


住江織物担当者コメント(Exciteニュース)

理由2 —— 縫製コストの削減(総柄の効率性)

かつては「センター柄」といって、シートの中央に柄の中心を合わせるデザインが主流でした。しかし位置合わせが必要なぶん縫製の手間がかかります。一方、全面にランダムに柄が入る「総柄」であれば位置合わせが不要で作業効率が大幅に上がり、コストダウンにもつながります。これが現代の総柄デザインが主流になった大きな理由のひとつです。

理由3 —— バリアフリーと色彩設計

路線バスのシートが青系に統一されているのは、バリアフリーとも関係しています。2004年に国土交通省が設けた「標準仕様ノンステップバス認定制度」では、手すりをオレンジ色に統一することが定められています。車内でオレンジの手すりが目立つよう、シートには青系を使ってコントラストをつける——これが「バスのシートは青い」という光景につながっているのです。

電車はもっと個性的
路線バスが青系に統一される傾向にある一方、電車のシートはより多様です。路線のイメージカラーや沿線の花・風景をモチーフにしたデザインが増え、七宝・市松・麻の葉などの吉祥文様を取り入れた和柄、沿線に咲くアジサイを織り込んだ上品な柄など、各社がデザインで個性を競っています。最近はインクジェット印刷による小ロット対応も進み、キャラクターものや観光列車向けのオリジナルデザインも広がっています。

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モケットの魅力は、今グッズにも広がっている

実用一辺倒だったモケットが、近年は新たな方向でも注目を集めています。大阪に拠点を置く老舗織物メーカー・日本シールが、モケットを使ったバッグ・クッション・ペンケースなどを販売したところ、想定の2倍ペースで売れる大ヒットに。国鉄ブルーや阪急バスの柄を使ったアイテムは1ヶ月待ちにもなったといいます。

「乗り物のシート」として無意識に触れてきた生地が、手元に持ち帰れるアイテムになる——その発想が鉄道ファンはもちろん、テキスタイル好きの心も捉えています。摩耗に強く、手触りがよく、独特の柄を持つモケット。改めて「素材」として見ると、これほど個性のある生地もなかなかありません。

昔はいろんなものに使われていたけれど、コスト削減という時代の要請にはあらがえず、電車やバスのシートくらいしか見かけることがなくなってしまった……。それでも新幹線、電車やバス、映画館や劇場のシートに張られるのは、摩擦に強く、生地が破れたりほつれたりしにくく、滑りにくいという、他の織物に代えがたい魅力があるから。


米阪パイル織物株式会社

次に電車やバスに乗ったとき、ぜひシートの生地をそっと撫でてみてください。そこには100年以上の歴史と、日本の職人たちの技術が静かに息づいています。


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