中南米の伝統布の種類と特徴

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単なる「装飾」ではなく、出身地や家族、祈り、暮らしの記憶を伝えるための手段でした

世界のファブリック紀行:中南米に息づく、布に縫い込まれた物語

カラフルな幾何学模様、太陽のような放射状のレース、荷物や赤ちゃんを背負うための頑丈な織物――中南米の布には、文字を持たなかった時代から人々が語り継いできた物語が、色と模様というかたちで刻まれています。今日は、パナマのモラ、メキシコ・グアテマラのウィピル、ボリビア・ペルーのアワヨという3つの布を出発点に、さらに南米に息づく2つの布、パラグアイのニャンドゥティとメキシコのレボソまで、少し足をのばしてご紹介します。


第一章|中央アメリカ:布に閉じ込められた宇宙

モラ(パナマ/クナ族)――布を削ることで生まれる絵画

パナマ北東部、カリブ海に浮かぶグナ・ヤラ(サン・ブラス諸島)に暮らすグナ(クナ)族の女性たちが手がけるモラは、2〜6枚もの色布を重ね、上の層をカットして下の色を出す「逆リバース・アプリケ」の技法で作られます。もともとグナの人々は体にペイントを施す風習を持っていましたが、19世紀にヨーロッパとの接触を機に女性たちが布のブラウスをまとうようになり、その身体装飾の図案を布へと置き換えるかたちでモラが生まれたといわれています。動物や植物、神話上の生き物から、近年では日用品や政治家のポスターまでモチーフにするなど、時代の空気を映す自由さも魅力です。

“Ledezma estimates that a single shirt can take anywhere from 60 to 80 hours of labor to sew.”
(1着のモラを縫い上げるには、60〜80時間もの手作業がかかると推定されている)


Smithsonian Magazine

ウィピル(メキシコ・グアテマラ)――織り込まれた出身地の地図

ウィピルは、ナワトル語で「私を覆うもの」を意味する言葉に由来する貫頭衣。バックストラップルーム(腰機)を使い、一方を木や柱に、もう一方を織り手自身の腰に結びつけて、体全体で織りの張りをコントロールしながら仕上げていきます。グアテマラだけでも25の先住民族と24の言語が存在し、村ごとに異なる色や文様のルールがあるため、着ている人がどの村の出身かが一目でわかるのだそうです。中央に配されるひし形は「宇宙」や「食卓の皿」を、ジグザグ模様は「山」や「人生の浮き沈み」を表すなど、模様の一つひとつに意味が込められています。

“It is a cosmological diagram, a marker of belonging, and an archive.”
(それは宇宙を表す図であり、帰属の印であり、ひとつの記録である)


The Textile Anthropologist

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第二章|アンデス高地:暮らしを背負う布、アワヨ

ボリビアやペルーの高地で暮らすアイマラ族やケチュア族の女性たちにとって、アワヨ(アグアヨ)は暮らしに欠かせない万能布です。アルパカやリャマの毛を紡いで天然染料で染め上げ、幅75センチほどのバックストラップルームで長い時間をかけて織り上げます。赤は大地の女神パチャママへの捧げものである血を、黒は喪の色を表すというように、色にも明確な意味があります。文字を持たなかった時代には、家族ごとに異なる文様が「身分証」のような役割を果たしていたともいわれ、13歳になった娘が持参品として自分だけのアワヨを織りはじめる、という通過儀礼も伝えられています。

“These patterns were the ID cards of pre-Columbian Bolivia.”
(これらの文様は、コロンブス以前のボリビアにおける「身分証」だった)


Moowon

アワヨは赤ちゃんや荷物を背負うためだけでなく、座布団代わりに敷いたり、市場で売り物を包んだりと、まさに「手放せないバッグ」のような存在。現在では化学染料を使った量産品も増えていますが、天然染料を使った伝統的な一枚には、数ヶ月がかりの手仕事が込められています。

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第三章|もう少し南へ:レースとショールの物語

ニャンドゥティ(パラグアイ)――蜘蛛の巣をかたどったレース

グアラニー語で「蜘蛛の巣」を意味するニャンドゥティは、17〜18世紀にスペイン・テネリフェ島のレース技法が伝わり、グアラニーやメストラの女性たちの手で独自に発展したパラグアイの針レースです。ヨーロッパのレースが布の糸を抜いて模様を作るのに対し、ニャンドゥティは布とは別の枠に糸を張って一からモチーフを織り上げていくのが特徴。太陽や花をかたどった放射状の文様は、パラグアイの伝統衣装「ティポイ」の飾りとしても使われ、今も国のアイデンティティを象徴する存在です。

“A spoke-like structure of foundation threads upon which many basic patterns are embroidered.”
(車輪の軸のように張られた土台の糸の上に、さまざまな基本模様が刺繍されていく)


Encyclopaedia Britannica

レボソ(メキシコ)――国民的ショールに宿る絞り染めの技

肩にかけたり、頭を覆ったり、赤ちゃんや荷物を運んだり――メキシコの女性の暮らしに寄り添ってきたロングショール、レボソ。なかでもメキシコ州テナンシンゴ産の「ハスペ(絞り染め)レボソ」は、織る前の経糸を一本一本染め分けるイカット(絣)技法で作られ、熟練の織り手でも1枚仕上げるのに数ヶ月を要することもあるといいます。先住民の織りの伝統に、スペインやフィリピン経由のアジアのフリンジ文化が重なり合ってできあがった、まさに中南米らしい混交の布です。

“The garment is considered to be part of Mexican identity.”
(この衣装は、メキシコ人としてのアイデンティティの一部だと考えられている)


Drive Mexico Magazine


まとめ|布は、文字のなかった時代の言葉

モラ、ウィピル、アワヨ、ニャンドゥティ、レボソ。5つの布に共通しているのは、それが単なる「装飾」ではなく、出身地や家族、祈り、暮らしの記憶を伝えるための手段だったということです。文字を持たなかった、あるいは文字を奪われた歴史を持つ人々にとって、布の色や模様は、自分たちが何者であるかを語るための、もうひとつの言語だったのかもしれません。針を進めるたびに、遠い高地やカリブの島の織り手たちの手つきに、少しだけ思いを馳せてみませんか。

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