布のかけらが教えてくれること — 世界の「スクラップバスティング」に触れて
生地を裁ったあとに残る、小さな端切れ。捨てるにはためらいがあって、かといってすぐに使い道が浮かぶわけでもなくて、気づけば引き出しの奥にどんどん増えていく — そんな心当たりのある方も多いのではないでしょうか。海外の裁縫・キルトコミュニティでは、そんな端切れとの向き合い方に「スクラップバスティング(scrap busting)」という、ちょっと愛嬌のある名前がついています。今日は、その言葉の向こうにある小さな哲学をのぞいてみたいと思います。
スクラップバスティングとは何か
「バスト(bust)」には「打ち破る」「片づける」というニュアンスがあります。つまりスクラップバスティングとは、たまりにたまった端切れの山を、意識的に、そして楽しみながら使い切っていく行為のこと。SNSでは #scrapbusting や #stashbuster といったハッシュタグのもとに、世界中の作り手たちが自分の端切れ箱の中身や、そこから生まれた作品を投稿し合っています。ほんの数センチの布切れでも、必ずどこかに居場所があると信じて手を動かす — そんな考え方が、コミュニティの土台になっているようです。
端切れを救う仕組みも生まれている
この動きは個人の手仕事にとどまりません。アメリカ・ニューヨークの「FabScrap(ファブスクラップ)」は、アパレル業界や布地メーカーから出る端切れを回収し、縫い物を楽しむ人やキルター、クラフト愛好家に届け直す非営利団体です。小さすぎる端切れは、断熱材やクッション材としても再利用されているのだそうです。
“Nine years in, we have saved 2 million pounds of fabric from landfill.”
(活動を始めて9年、これまでに約90万キロの布を埋立地から救い出してきました。)
端切れの数だけ、生まれ方がある
海外のキルト作家たちは、端切れの大きさや形に応じて、実にさまざまな技法を編み出してきました。ここでは代表的なものをいくつかご紹介します。
クラムキルトとコンフェッティキルト
「クラム(crumb=パンくず)キルト」は、その名の通り、パンくずのように細かい布片を土台布の上に不規則に縫いつけていく技法です。プロジェクトとプロジェクトの合間、ちょっとした空き時間にコツコツとブロックを作りためておき、十分な枚数がそろったところで一枚のキルトに仕立てます。さらに小さな布片まで余すことなく使い切る「コンフェッティキルト」は、風景や静物といった絵画的な図案を、まるで紙吹雪(コンフェッティ)のような細片で描き出す、より自由度の高いスタイルです。
ストリングキルトとレールフェンス、ポステージスタンプ
細長い帯状の端切れが多くたまったときには「レールフェンスキルト」や「ストリングキルト」の出番です。ストリップ状の布を端から端へつなぎ、長い一本のテープにしてから裁ち直していく手法で、ジェリーロールの残りなどにもぴったり。反対に、端切れを同じサイズの正方形に切りそろえてつなぎ合わせる「ポステージスタンプキルト(切手キルト)」は、小さな四角がびっしりと並ぶ、見た目にも楽しい仕上がりになります。余った端切れは、キルトの縁を包む「スクラッピーバインディング」として使い切る、というのも定番の締めくくり方です。
“Crumb quilts are perfect if you want to have zero waste from your sewing projects.”
(クラムキルトは、裁縫プロジェクトから出るごみをゼロにしたい人にぴったりの方法です。)
「もったいない」という感覚は、世界共通だった
こうした遊び心の裏には、けっして小さくない現実があります。アパレル製造の裁断工程だけでも、使用する生地のおよそ15%が端切れとして出てしまうと言われ、国連環境計画(UNEP)によれば、世界全体で毎年生まれる繊維廃棄物は数千万トン規模にのぼります。
“Every year, 92 million tonnes of textile waste is produced globally.”
(世界では毎年、9,200万トンもの繊維廃棄物が生み出されています。)
日本の「はぎれ」文化との共鳴
こうして見てみると、スクラップバスティングは決して目新しい考え方ではないことに気づきます。日本には昔から「はぎれ」を大切にする文化があり、手芸店の片隅には今も、少しずつ違う表情のはぎれが袋詰めで並んでいます。ヘアクリップやコースター、ポーチにブローチ — ほんの少しの布からでも生まれる小物のアイデアは、国内の手芸メディアでも数え切れないほど紹介されてきました。「もったいない」という感覚と、”scrap busting” という言葉。生まれた場所も響きも違うけれど、そこに流れている想いはよく似ているように思います。
まとめ — 端切れ一つひとつに宿る物語
「いつか使うかもしれない」と取っておいた端切れが、実際に日の目を見ることは案外少ないものです。でも、クラムキルトのようにひとつまみずつ拾い集めていく方法や、レールフェンスのように帯状につないでいく方法を知っていると、端切れ箱を眺める目が少し変わってくるかもしれません。どの布にも、それを選んだ日の記憶があります。最後の一片まで使い切ることは、その記憶をもう一度形にすることでもあるのだと思います。
jumble shop oneでは、厳選した海外ファブリックを取り揃えています。

