宇宙飛行士を守る布の話 – 驚きの素材たち


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宇宙で使用される生地にはどんなものがあるんだろう?

宇宙を守る布の話 ——
宇宙飛行士のスーツを支える、驚きの素材たち

真空の宇宙空間は、マイナス100度からプラス120度以上まで温度が激変し、目には見えない高速の粒子が飛び交う、きわめて過酷な環境です。宇宙飛行士たちがその中で生きていられるのは、何十年もかけて開発されてきた高機能素材のおかげ。今回は、打ち上げ時のスーツから船内の日常着、そして船外活動(EVA)用の宇宙服まで、宇宙と人間をつなぐ「布」の秘密に迫ります。

CONTENTS

01  打ち上げ・帰還時のスーツ ——「橙色のカプセル」
02  ISSの船内着 ——宇宙の「ふだん着」は何でできている?
03  船外活動(EVA)スーツ ——16層の宇宙服という「宇宙船」
04  宇宙素材の未来 ——3Dプリントで「布を編む」

CHAPTER 01

打ち上げ・帰還時のスーツ ——「橙色のカプセル」

NASAのオレンジ色の打ち上げスーツ(Launch Entry Suit)

Launch Entry Suit (LES)

スペースシャトル時代に使われた「Launch Entry Suit(LES)」は、その鮮やかなオレンジ色から「かぼちゃスーツ」とも呼ばれていました。宇宙空間への旅立ちと帰還という、最も危険な局面を乗り越えるための装備です。

“Nicknamed the ‘pumpkin suit’ for its distinctive bright orange Nomex outer layer, which offered flame resistance and visibility…”


Grokipedia: Launch Entry Suit

あの鮮やかな色の正体は「ノーメックス(Nomex)」という難燃素材です。1960年代にDuPont社が開発したアラミド系の合成繊維で、高温にさらされても燃え広がらず、炭化するだけという特性を持ちます。消防士の防火服や Formula 1 のレーシングスーツにも使われているこの素材が、宇宙飛行士の命を守る第一の盾となっています。

MATERIAL NOTE

Nomex(ノーメックス)は、メタ型アラミド繊維からなる難燃布。ナイロンと化学的に近いが、芳香族の構造を持つため耐熱性がはるかに高い。宇宙飛行士の打ち上げスーツ外層はもちろん、スペースシャトルの機体の断熱ブランケットにも使用されていた。

さらに現在のアルテミス計画では、この打ち上げスーツがさらに進化しています。NASAはMilliken & Company社と契約し、難燃性のアンダーガーメント素材を新たに開発。1967年のアポロ1号の悲劇的な火災事故を教訓に、宇宙探査の歴史は「布の開発」とともに進んできたのです。

“Nomex is a flame-resistant fabric that has previously been used in spacesuits and firemen’s clothing. Nomex in spacesuits offers astronauts with durability, flexibility, and insulation.”


Interesting Engineering: NASA plans new flame-resistant fabric for Artemis astronauts’ suits

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CHAPTER 02

ISSの船内着 ——宇宙の「ふだん着」は何でできている?

国際宇宙ステーション(ISS)の内部は、気圧・温度・湿度とも地上とほぼ同じ環境に保たれています。そのため宇宙飛行士たちは船内では特別なスーツを着る必要がなく、地上と似たような服装で生活しています。ただし「似たような」とはいっても、宇宙ならではの厳しい制約があります。

ISS「きぼう」モジュールでくつろぐ宇宙飛行士たち

ISS「きぼう」モジュール内の宇宙飛行士

“Much of the clothing astronauts wear on the ISS is made from synthetic materials that are lightweight, breathable, and moisture-wicking. Think of items similar to athletic or hiking wear: T-shirts, shorts, cotton polos, and pants sporting Velcro pockets…”


Discover Magazine: Dressing for the Final Frontier

Tシャツ、ポロシャツ、ショートパンツ——一見すると普段着と変わりませんが、ISSの衣服選びにはいくつかの重要な条件があります。まず難燃性。狭い密閉空間での火災は致命的なため、すべての衣類は難燃素材である必要があります。そして抗菌性・消臭性。無重力環境ではシャワーも思うように浴びられず、洗濯もできないため、一着を何日も着続けることになるのです。

綿はなぜ宇宙で敬遠されるのか

地上では最もポピュラーな天然素材である「綿(コットン)」ですが、宇宙では意外にも制限がかかっています。その理由は「繊維くず(リント)」。

“Cotton has been the material most used for crew clothing; however, its lint creates problems with the onboard air filters so yarns made of multifilament fibers are preferable.”


Specialty Fabrics Review: Textiles in space

コットン繊維からはがれる微細な綿くずが、ISS内の空気フィルターを詰まらせてしまうのです。そのため実際には、ポリエステルやナイロンなどマルチフィラメント系の合成繊維が主流。繊維くずが出にくく、速乾性・吸湿性にも優れています。

JAPAN IN SPACE

JAXAとビームス社が協力し、野口聡一宇宙飛行士のISSでの長期滞在(2020年〜)のために専用衣類を制作。速吸水性・速乾性・抗菌・消臭性を備えた機能素材を採用した。星出彰彦宇宙飛行士には、JAXAとゴールドウィン社が共同研究した素材の衣類が用いられた。宇宙ファッションには、日本のアパレル技術も活きている。
参照: JAXA Human Spaceflight Technology Directorate

宇宙で試された次世代アスレチック素材:SpaceTex実験

欧州宇宙機関(ESA)は「SpaceTex」という実験を通じて、宇宙飛行士の運動時の発汗管理に最適な素材を探求しました。無重力空間では対流が起きないため、体から出る熱と汗が服に閉じ込められてしまいます。

“The lack of convection in space affects the way body heat and sweat are transported and absorbed into an astronaut’s clothing. Astronauts often report sweating more during exercise in orbit compared to exercise on Earth.”


NASA: Clothes “Made In Space”

この研究で選ばれた素材の条件は、抗菌性・超速乾性・高い吸湿性。宇宙で鍛えられたこれらの技術は、すでに地上のアスリートウェアや消防士の作業服にも応用されつつあります。

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CHAPTER 03

船外活動(EVA)スーツ ——16層の宇宙服という「宇宙船」

宇宙飛行士が宇宙空間に出て作業を行う「船外活動(EVA:Extravehicular Activity)」のために着るスーツは、もはや「服」ではありません。それは1人が着る小型の宇宙船です。NASAが使用するEMU(Extravehicular Mobility Unit)は、最大16層の素材で構成されています。

船外活動(EVA)中の宇宙飛行士

船外活動(EVA)中の宇宙飛行士

“The flexible parts of the suit are made from as many as 16 layers of material. The layers perform different functions, from keeping oxygen within the spacesuit to protecting from space dust.”


NASA: Spacewalk Spacesuit Basics

内側から外側へ——16層の素材を解剖する

01  冷却・換気ガーメント(第1〜3層):ナイロン・スパンデックス・冷却チューブ

肌に最も近い3層は「Liquid Cooling and Ventilation Garment(LCVG)」と呼ばれる冷却スーツ。ナイロントリコットとスパンデックスで作られた長袖長ズボン型の下着のような構造で、体中に数百メートルにも及ぶ細いチューブが縫い込まれています。このチューブの中を冷水が循環し、強烈な太陽光にさらされながら作業する宇宙飛行士の体温を調節します。

02  気密・耐圧層(第4〜7層):ネオプレンコーティングナイロン、ダクロン

気密性を保つ「ブラダー層」にはネオプレンでコーティングされたナイロンが使われており、その外側をダクロン(ポリエステル)の拘束層が覆って膨らみを防ぎます。さらにリップストップ(裂け止め)ライナーが加わり、スーツが破れるリスクを軽減します。

03  断熱層(第8〜14層):アルミ蒸着マイラー(Mylar)

続く7層は「Mylar(マイラー)」と呼ばれるアルミ蒸着ポリエステルフィルム。ちょうど魔法瓶の内壁のような構造で、外気の極端な温度変化(日向で100度超、日陰でマイナス100度以下)から内部を守ります。

“The next seven layers are Mylar insulation and make the suit act like a thermos. The layers keep the temperature from changing inside. They also protect the spacewalker from being harmed by small, high-speed objects flying through space.”


ScienceDirect Topics: Space Suit

04  最外層:Ortho-Fabric(オルソファブリック)——3素材の奇跡の組み合わせ

ケブラー繊維のクローズアップ

ケブラー(Kevlar)繊維クローズアップイメージ / Wikipedia Commons

EVAスーツの最も外側を守るのが「Ortho-Fabric(オルソファブリック)」。これはゴアテックス(Gore-Tex)、ケブラー(Kevlar)、ノーメックス(Nomex)という3種類の素材を1枚の布に織り込んだ特殊生地です。

“The outermost layer is white Ortho-Fabric, made with a blend of Gore-Tex, Kevlar, and Nomex. This layer can withstand temperatures from −300° to +300°F (−184.4° to 149°C).”


ScienceDirect Topics: Space Suit

ORTHO-FABRIC: 3つの素材の役割

Gore-Tex(ゴアテックス)
防水・透湿性素材。液体を通さないが水蒸気は通す微細孔膜で、宇宙の厳しい環境から内部を守る。

Kevlar(ケブラー)
防弾チョッキにも使われるパラ型アラミド繊維。鋼鉄の5倍の引張強度を持ち、マイクロメテオロイド(微小隕石)から宇宙飛行士を守る。

Nomex(ノーメックス)
メタ型アラミド難燃繊維。熱や炎に対する最後の防壁として機能し、宇宙船とのドッキング時などの発熱からも体を守る。

このオルソファブリックが純白の外観を持つのには理由があります。白色は太陽光を最も効率よく反射し、スーツ内部の温度上昇を抑えるため。あの白い宇宙服は、機能美の結晶なのです。

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CHAPTER 04

宇宙素材の未来 ——3Dプリントで「布を編む」

NASA ジェット推進研究所(JPL)では、3Dプリンティング技術を使って宇宙用の「新しい布」を開発しています。金属の鱗のような構造を持つこのメッシュ素材は、反射性・熱管理・折りたたみ性・引張強度という4つの機能をひとつの素材で実現します。

“The space fabrics have four essential functions: reflectivity, passive heat management, foldability and tensile strength.”


NASA JPL: ‘Space Fabric’ Links Fashion and Engineering

宇宙探査の長期化・深宇宙化が進むにつれ、素材への要求はさらに高度になっています。月面の砂塵(レゴリス)は非常に鋭く、従来の素材を削ってしまう可能性がある。そのため次世代の月面探査スーツには、耐塵性を備えた新しいアウターレイヤー素材が必要とされています。

NEXT FRONTIER

NASAの専門家はこう述べている——「私たちはまだ、可能性の表面をひっかいたにすぎない」。3Dプリントで作られる宇宙布は、有機的・非直線的な形状を追加コストなしで製造できる。これが宇宙服のデザインに、これまでにない自由度をもたらすかもしれない。
参照: NASA JPL: Space Fabric Links Fashion and Engineering

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素材は、人間の夢を形にする

宇宙飛行士を守る素材の世界を見ていくと、驚くほど私たちの日常に近い言葉が並んでいます——ナイロン、ポリエステル、ゴアテックス。しかしそれらが宇宙の過酷さに対峙するとき、まったく異なる顔を見せます。冷却チューブを縫い込まれた下着、16層に重ねられた防護服、3つの素材を一枚に織り込んだ奇跡の外層布。宇宙服は、人類の英知が凝縮した「着る工学」とも言えるでしょう。

そしてその技術は、地上にも降りてきます。速乾・抗菌アスレチックウェア、防炎素材の作業服、防水透湿素材のアウトドアウェア——私たちが日々触れる布にも、宇宙からのインスピレーションが宿っているかもしれません。素材の物語は、星と星の間の距離と同じくらい、広くて深い。

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