布の“生まれ”をたどるデジタル・トレーサビリティ TextileGenesis

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繊維から小売までの流れをつなぎ、素材の由来を確かめやすくしようとする仕組みです

TextileGenesis(テキスタイルジェネシス)とは? 布の“生まれ”をたどるデジタル・トレーサビリティの仕組み

タグに書かれた「コットン100%」「オーガニック」の文字。その綿はどこの畑で育ちどんな工場を経て、いま私たちの手元にある布になったのでしょうか。布や糸を選ぶとき、産地や素材の由来に思いを巡らせたことのある方は多いと思います。

この「布の生まれをたどる」ことはファッション業界にとって想像以上に難しい課題です。その難題に、デジタルの技術で挑んでいるのが「TextileGenesis(テキスタイルジェネシス)」という企業とそのプラットフォームです。


01 TextileGenesisとは何か

TextileGenesisは、繊維・アパレル業界のために作られた「トレーサビリティ(追跡可能性)」のプラットフォームです。糸や布のもとになる「繊維」の段階から、店頭に並ぶ商品まで、その流れをデジタル上でつないで記録していくことを目指しています。公式サイトでは、天然繊維だけでなく、木材由来の繊維、プレミアムコットン、シルク、ウール、カシミヤといった、価値の高いサステナブル素材向けに作られたと説明されています。

創業は2018年。インド出身のアミット・ガウタム氏が立ち上げたスタートアップで、のちに紹介する買収発表ではオランダ企業と表記されています。2022年12月、ファッション向けのソフトウェアなどを手がけるフランスのLectra(レクトラ)が、TextileGenesisの株式51%を1,520万ユーロで取得することを発表しました。取得は2023年1月に完了し、残りの株式は2026年と2028年の2段階で取得する計画とされています(現時点の最新状況は、公式発表でご確認ください)。

公式サイトによれば、H&Mグループ、Inditex、Marks & Spencer、Gap Inc.、Levi’s、lululemon、Saint Laurent、Calvin Kleinなど150以上のブランドが顧客で、これまでに追跡した製品は累計で12億点を超えるとのことです。

PROFILE

TextileGenesis(テキスタイルジェネシス)
創業:2018年 創業者:アミット・ガウタム氏
事業:繊維から小売までを結ぶトレーサビリティのクラウドサービス(SaaS)
親会社:Lectra(仏) 公式サイト:textilegenesis.com

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02 なぜ「布の追跡」が必要なのか

一枚の綿布ができるまでには、綿花の栽培、綿繰り、紡績、織りや編み、染色、縫製と、たくさんの会社が関わります。ブランドが直接取引しているのは、その一部にすぎません。ここでよく使われる「ティア(Tier)」という言葉は、直接の取引先を「ティア1」、その取引先の取引先を「ティア2」と数えていく呼び方です。

Lectraの買収発表では、ファッション業界で自社のバリューチェーンを見通せている企業は19%にとどまり、それも部分的なものだと紹介されています。また、Lectraの製品ページには、上位100のファッションブランドの95%がティア2より先を把握できていない、という記載もあります。

“Fashion is one of the most fragmented industries…”

「ファッションは、最も細分化された産業のひとつです……」(創業者ガウタム氏のコメントより)

— Lectra プレスリリース(2022年12月8日)

見えないままでは、「このオーガニックコットンは本当にオーガニックなのか」「強制労働に関わる原料が混ざっていないか」を確かめることができません。欧州を中心に、企業へ情報開示を求める規制が広がっていることも背景にあります。経済産業省の資料でも、フランスで2023年1月から、リサイクル素材の利用率やトレーサビリティなどの情報提供が義務づけられたことが紹介されています(経済産業省 製造産業局生活製品課の資料)。

もうひとつ見逃せないのが、書類の問題です。素材の認証を裏づける「取引証明書」は、これまでPDFや紙でやり取りされることが多く、確認にも手間がかかってきました。TextileGenesisは、これをデジタルで置き換えようとしています。

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03 仕組みのかんたん解説:Fibercoin(ファイバーコイン)

TextileGenesisの中心にあるのが「Fibercoin(ファイバーコイン)」と呼ばれる独自のデジタルトークンです。繊維や糸、布、衣類といった実物の素材一つひとつに対応するデジタルの札を発行し、工程が進むたびに、その札を次の会社へ受け渡していきます。宅配便の追跡番号が荷物と一緒に移動していくイメージに近いかもしれません(これは分かりやすくするためのたとえです)。

この札の記録には「ブロックチェーン」という技術が使われています。取引の履歴を複数のコンピューターで共有し、あとから書き換えにくくした記録の仕組みのことです。公式サイトでは、さらに食品や医療の分野で使われている世界共通の情報規格「GS1」をもとに、繊維業界向けの追跡データの共通ルールを作ったと説明されています。

“…NOT based on any crypto-currency…”

「……いかなる暗号通貨にも基づいていません……」(Fibercoinについての説明より)

— TextileGenesis 公式サイト

ここで気になるのが「ビットコインのようなもの?」という点ですが、公式サイトの説明では、Fibercoinは暗号通貨とは無関係で、企業間の取引で使いやすいように設計されたものとされています。お金として売買するものではなく、あくまで「素材の履歴をつなぐ札」です。

「混ぜて帳尻を合わせる」方式ではない

素材の認証では、認証を受けた素材と一般の素材を混ぜて扱い、量の帳尻だけを合わせる「マスバランス方式」が使われることがあります。TextileGenesisは、この方式ではなく、商品(SKU)単位で追跡することを特徴に挙げています。たとえば米国のスーピマ綿は2022年、綿1キログラムごとにデジタルトークンを発行して、農場から店頭まで追跡する取り組みでTextileGenesisと提携すると発表しました。

三つの追跡メニュー

公式サイトでは、追跡の方法を大きく三つに整理しています(あわせて「6次元のトレーサビリティ」とも表現されています)。

一つめは「Fiber-to-Retail(繊維から小売まで)」で、Fibercoinを使い、サステナブル素材を原料の段階からリアルタイムで追う方法です。二つめは「Supply Chain Discovery」で、すでに出来上がった一般的な素材の商品から、さかのぼって供給元をたどる方法です。三つめは「Supply Chain Mapping」で、直接の取引先(ティア1)にだけ協力してもらい、その先を含めた供給網の全体像を素早く描き出す方法です。

このほか、素材の整合性・取引先企業・生産国という三つの観点から、ブランドにとってのリスクを洗い出す機能もあるそうです。

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04 どんな企業・団体が関わっているのか

TextileGenesisの特徴は、ブランドだけでなく、素材メーカーや認証団体とも手を組んでいる点です。Fashion for Goodの紹介ページにまとめられた沿革には、レンチング、ビルラ・セルロース、Renewcell、Canopy、FSC、Textile Exchange、Cotton Trust Protocol、アルヴィンドなどとの提携が並んでいます。またBESTSELLERは、2,500万点の衣料品の追跡に取り組んだと紹介されています。

日本企業では旭化成のベンベルグ

日本との接点として分かりやすいのが、旭化成の繊維「ベンベルグ」です。ベンベルグは綿実油をつくる際に出る副産物「コットンリンター」を原料にした素材で、旭化成は2023年11月、TextileGenesisとの提携により、流通の透明性をさらに高めていくと発表しました。

認証書類のデジタル化:OEKO-TEXの試み

2025年の初めには、国際認証団体のOEKO-TEX®が、オーガニックコットンのデジタル追跡でTextileGenesisと試験運用を始めました。インドとバングラデシュを舞台に、綿繰り、紡績、織りや編みの工場、検査機関までを巻き込んだ実証で、成功を受けて、対象のサプライチェーンを広げていく方針とのことです。

“…eliminating pdf/paper-based Transaction certificates.”

「……PDFや紙ベースの取引証明書をなくしていきます。」(ガウタム氏のコメントより)

— OEKO-TEX® プレスリリース

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05 私たちにとっての意味と、これからの課題

TextileGenesisは、企業どうしで使うサービスです。手芸好きの私たちが直接ログインするものではありません。それでも、布の世界にじわじわと関わってくる可能性があります。公式サイトには、店頭の販売時点で商品の履歴を確認できるモバイルアプリの構想も記されています。将来、タグやQRコードから「この綿の来歴」を見られる日が来るかもしれません。

一方で、いくつか冷静に見ておきたい点もあります。

まず、追跡は関わる会社がみなつながって初めて成り立ちます。一社でも参加していなければ、履歴はそこで途切れてしまいます。次に、ここで紹介した数字や実績の多くは、企業自身や提携先の発表にもとづくものです。実際にどこまで広がり、どれだけ正確に機能しているのかは、今後も第三者の報道や検証とあわせて見ていく必要があります。

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まとめ 布の「生まれ」に、もう少し光を

TextileGenesisは、Fibercoinというデジタルの札で、繊維から小売までの流れをつなぎ、素材の由来を確かめやすくしようとする仕組みです。認証書類の紙からの脱却や、各国で強まる情報開示の流れとも深く結びついています。

私たちが手にする一枚の布の向こうには、畑や工場、たくさんの人の手があります。その道のりが少しずつ見えるようになれば、布を選ぶ時間はもっと豊かなものになるのではないでしょうか。

参考:TextileGenesis 公式サイト/Fashion for Good/Lectra/旭化成 ベンベルグ/スーピマ×TextileGenesis(Business Wire)

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