9月最終日曜日は「World Lace Day」——繊細な手仕事が紡いできたレースの物語
ハンカチの縁取りや、ワンピースの襟元にそっと添えられたレース。何気なく目にしていても、その一枚がどれほど繊細な手仕事の積み重ねから生まれているか、あらためて考える機会は少ないかもしれません。9月最終日曜日は、そんなレースをたたえる「World Lace Day(ワールド・レース・デー)」。
World Lace Dayとは
World Lace Day(インターナショナル・レース・デーとも呼ばれます)は、レース編みという繊細な手仕事に光を当てるための記念日です。特定の団体が公式に定めたものではなく、世界各地のレース愛好家や手芸コミュニティ、ギルドなどが少しずつ広めてきた、いわば草の根から生まれた記念日だといわれています。2026年は9月27日が最終日曜日にあたります。ただし、カレンダーによっては「9月最終土曜日」として紹介されているものも多く、地域や情報源によって曜日の捉え方に幅があるようです。どちらの日であっても、レースに思いを寄せる週末であることに変わりはありません。
起源をたどると
興味深いことに、この記念日そのものの成り立ちは、レース自体の歴史以上に謎に包まれています。一説には1982年に始まったとも言われていますが、誰が、どのような経緯で提唱したのかを特定する記録は見当たりません。それでも、レースという手仕事の文化的な価値を残し、伝えていきたいという思いだけは、世界中の作り手や愛好者に共有されてきました。
“International Lace Day was established to preserve and promote this traditional craft.”
「インターナショナル・レース・デーは、この伝統的な手仕事を守り、広めていくために生まれた」
レースの歴史をひもとく
レースが生まれたのは、15世紀末から16世紀初頭にかけてのヨーロッパ。とりわけイタリアとフランドル地方(現在のベルギー周辺)が、その発祥の地として知られています。刺繍やカットワークといった技法から発展したといわれ、瞬く間にヨーロッパ中の上流階級を魅了する装飾芸術へと育っていきました。1550年代には最初期のレース図案集が印刷されたという記録も残っており、貿易の要衝であったヴェネツィアも、レース文化が広がる拠点のひとつだったようです。
二つの技法——ニードルレースとボビンレース
レースづくりには、大きく分けて二つの技法があります。ひとつは針と糸だけで模様を編み上げていく「ニードルレース」。もうひとつは、複数の糸巻き(ボビン)を使い、糸を交差させながら模様を組んでいく「ボビンレース」です。このほかにも、化学的な処理で生地を溶かして模様を残す「ケミカルレース」や、機械で量産される「マシンメイドレース」、かぎ針を使う「クロシェレース」など、時代とともに技法は多様化してきました。地域ごとにも個性豊かなレースが育まれています。フランス発祥で花柄模様が優雅な「シャンティイレース」、19世紀のアイルランドで生まれ、立体的な模様が特徴の「アイリッシュ・クロシェレース」、ボビンレースとニードルレースを組み合わせたベルギーの「ブリュッセルレース」など、その土地の暮らしと美意識が編み込まれているようで、知れば知るほど奥深い世界です。
現代に息づくレースの楽しみ方
19世紀に入り、レース編み機が発明されると、それまで職人の手仕事に頼っていた生産が一気に工業化されました。手作りのレースは希少なものとなっていきましたが、それでも今なお、世界中で多くの作り手が伝統的な技法を守り続けています。大量生産の時代だからこそ、一針一針積み重ねて生まれる手仕事の温かみが、より一層特別なものに感じられるのかもしれません。
World Lace Dayの過ごし方に、決まったルールはありません。レース編みのワークショップに参加してみる。近くのレース博物館や展示会に足を運んでみる。お気に入りのレースのドイリーを取り出して、ちょっと丁寧なお茶の時間を過ごしてみる。あるいは、レースを扱う作り手やお店を応援してみる。どれも日常のなかに小さな豊かさを添えてくれる過ごし方です。
ハンドメイドの世界でも、レースは今も現役の名脇役です。手作りの服やバッグの縁にほんの少し添えるだけで、印象がぐっと華やかになります。今年の秋は、いつもの生地選びにレースのトリムを一枚加えてみるのも素敵かもしれません。
何百年も前、ヨーロッパの職人たちが一本の糸から編み上げた繊細な模様は、時代を越えて、今もわたしたちの暮らしを彩り続けています。World Lace Dayは、そんなレースの背景にある物語に、少しだけ思いを馳せてみる日。今年の9月最終日曜日は、身近なレースをそっと手に取りながら、その奥にある長い歴史に想いを馳せてみてはいかがでしょうか。
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