手芸材料の値上がり、どうして?
関税・物価高・世界情勢が、わたしたちの布選びにも影響しています
アメリカの手芸業界で起きていることを、できるだけわかりやすくお届けします。
ここ数年、お気に入りの輸入生地やヨーロッパの毛糸が値上がりしていたり、突然オンラインショップで取り扱いが終わっていたり……なんだか不思議に思ったことはありませんか?
実はその背景には、アメリカの関税政策の大きな変化と、中東・イランをめぐる世界情勢が深く関わっています。少し難しい話ではありますが、「なぜ手芸材料が値上がりするのか」を知っておくと、材料選びや購入タイミングのヒントにもなりますよ。今日はその仕組みを、できるだけやさしくご紹介します。
💡 この記事のポイント:関税・物価高・原油高という「三つの波」が同時に押し寄せ、手芸材料のサプライチェーンに影響を与えています。
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「関税」という名の直撃弾
2025年、アメリカの貿易政策が急変しました
2025年は、アメリカの手芸・布地業界にとって「関税の年」と呼ばれるほど激動の一年でした。トランプ政権が打ち出した大規模な輸入関税の影響で、海外からやってくる布地や手芸用品のコストが一気に跳ね上がったのです。
DATA
アメリカはアパレルと皮革製品の 89%を輸入 に頼っています。関税が発動された90日間では繊維・靴の関税率が 13%→54% へと急騰。その後一部は撤回されましたが、2025年10月時点でも上位10の輸入国からのアパレル・靴の平均実効関税率は 36% に達しました。
出典:Business of Fashion / McKinsey「State of Fashion 2026」
影響を受けたのは大手だけではありません。ピッツバーグで独立系の布地ショップを営むErin Love さんも、そのひとり。
「これは抽象的な貿易政策じゃない。外国政府を罰しているんじゃなくて、アメリカの中小企業オーナーと消費者を罰しているんです。」
出典:Pittsburgh’s Public Source(2026年1月)
彼女はインド製の生地をイギリス経由で仕入れていたのですが、注文から数か月後に50%もの関税請求書が届いたそう。発注時にはまだその関税率が適用されていなかっただけに、あまりにも突然の出来事でした。
ヨーロッパのお気に入りブランドが、突然買えなくなった理由
さらに打撃となったのが「デミニマス規定の廃止」です。これは800ドル以下の輸入品を関税免除にしてきたルールで、ヨーロッパのブランドが個人のお客さまに直接小口で届けることを可能にしていました。
このルールが廃止されたことで、デンマークの人気毛糸ブランド「Knitting for Olive」など、多くのヨーロッパブランドがアメリカの個人消費者への直接販売を打ち切りました。
🧶 「なぜあのブランドが急に購入できなくなったんだろう?」という経験がある方は、この政策変更が関係しているかもしれません。
出典:Reason.com(2025年8月)
02
「アメリカ国内で作られた材料を使えば関税の影響を受けないのでは?」と思うかもしれません。でも、実はそう単純ではないんです。
ウールやコットンは特定の気候でしか育ちませんし、ニット針・ミシンの小物・バッグなどの付属品類はアメリカ国内で生産するとコストが大幅に上がります。「アメリカ製の糸でさえ、他の国の素材に頼っている」のが現実なのです。
✂️ ちょっと意外な豆知識
ポリエステルをはじめとする合成繊維の多くは、石油を原料として作られる石油化学製品です。つまり手芸材料には「農作物(コットン・ウール)」と「石油製品(ポリエステル・ナイロン)」という二つの顔があり、どちらも原油価格の影響を受けやすいという宿命を持っています。
この事実が、次にお話しするイランをめぐる世界情勢と深くつながってきます。
🌐
以下は 2026年3月16日時点 の情報にもとづいています。状況は変化している場合があります。
03
関税による打撃でじわじわと苦しんでいた業界に、2026年2月末から3月にかけて、新たな事態が重なりました。米・イスラエルによるイランへの軍事行動です。
「中東の話でしょ?手芸と関係あるの?」と思われるかもしれません。でも、実は密接に関わっています。
「ホルムズ海峡」という、世界の糸道
問題となったのが、ペルシャ湾の出口にある「ホルムズ海峡」です。この海峡は、世界の原油消費量のおよそ20%が通過する、エネルギー輸送の大動脈。ここに通行リスクが生じたことで、原油の供給不安が高まり、価格が急騰しました。
DATA(2026年3月時点)
・ブレント原油が 1バレル100ドル近く まで上昇
・ポリエステルの主原料(PTA・MEG)のコストが紛争後わずか2週間で 15〜25%上昇
・見積もりの有効期限が 24時間 に短縮されるほど市場が不安定に
・テキスタイル業界全体で生産コストが 最大10〜15%上昇 するとの試算も
出典:Global Textile Times(2026年3月)、CNBC(2026年3月)、Wikipedia「Economic impact of the 2026 Iran war」
「アジアの衣料品産業はホルムズ海峡を通る石油化学製品の輸送に依存して合成繊維を生産しており、リスクは特に深刻だ。」
原油価格の上昇はすぐにわたしたちの生活にも影響します。ガソリン代はもちろん、石油由来の製品コストや物流費にも波及するためです。関税が価格に反映されるまで数か月かかったのとは違い、原油価格の影響は「すぐに」現れます。
この状況は2026年3月16日時点でも続いており、今後の展開次第でさらに影響が広がる可能性があります。
🧵 3つの波が、いっせいにやってきた
少し整理してみましょう。いま、手芸材料の世界では3つの大きな波が同時に押し寄せています。
2025年前半
トランプ関税による輸入コスト急騰
デミニマス廃止で、ヨーロッパブランドとの直接取引が途絶。小口での個人購入が難しくなりました。
2025年通年
JOANN倒産と連鎖的なサプライ混乱
業界大手の倒産が、関連サプライヤー全体に波紋を広げました。在庫の確保すら難しい状況に。
出典:Craft Industry Alliance(2025年12月)
2026年3月〜(現在進行中)
イラン情勢による原油高・物流混乱
合成繊維の原料コストが短期間で急上昇。すでに傷ついていたサプライチェーンにさらなる圧力がかかっています。
※ 2026年3月16日時点の情報
こうした世界の動きは、じわじわと日本の手芸材料市場にも届いてきています。輸入素材の価格変動や品切れが増えているとしたら、遠い国の出来事がその背景にあるかもしれません。
参考資料
Business of Fashion / McKinsey「State of Fashion 2026」
Pittsburgh’s Public Source(2026年1月)
Craft Industry Alliance「2025 State of Craft Retail Report」(2025年12月)
Reason.com(2025年8月)
Global Textile Times(2026年3月)
CNBC(2026年3月)
Wikipedia「Economic impact of the 2026 Iran war」
ISM Supply Management(2026年3月)
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