アフリカンプリントはどこで作られている? VLISCO・インドネシア・中国をめぐる「布の来歴」
ガーナやナイジェリアなど西アフリカの街角で、人びとが身にまとう色鮮やかな布。日本でも「アフリカンプリント」として人気がありますが、「あれは実はアフリカの布ではない」「いまは中国で作られたものが多い」という話を耳にしたことはないでしょうか。
海外のニュースや研究者の論考を読み進めてみると、この話は大筋では事実に基づいていました。ただし、「だまされている」「偽物ばかり」と単純に言い切れる話でもなく、植民地時代から現在へと続く、布の長い旅路が見えてきました。今回は、有名なオランダのVLISCOを中心に、その来歴を整理します。
先に結論をまとめます
・「アフリカの布」として知られるワックスプリントの源流は、インドネシアのバティック(ろうけつ染め)をオランダが機械で再現した布で、アフリカ発祥ではありません。
・VLISCOの最上位ブランドは、いまもオランダで作られています。一方、同じグループにはガーナやコートジボワールの工場で作られるブランドもあります。
・アフリカの市場に出回るオランダ風デザインのワックスプリントは、中国製の低価格品が多くを占めるという研究・報道が複数あります。ただし、アフリカ全体の正確な統計は見つかりませんでした。
・ケンテのように、アフリカで生まれ、アフリカで織られる布は、別にしっかり存在します。
「アフリカの布」の源流は、ジャワ島のバティック
ここで話題にしているのは、「ワックスプリント」「アンカラ」「アフリカンプリント」などと呼ばれる、大胆な柄の綿プリントです。ろうを使って染め分けるバティックの技法にヒントを得て作られたため、英語圏ではワックスと呼ばれます。
出発点は19世紀。ジャワ島の人びとが手で作っていたバティックを、当時インドネシアを植民地としていたオランダの業者が、機械で量産しようと試みました。Al Jazeeraの記事によれば、この布は現地ではあまり受け入れられなかったものの、思いがけずアフリカで注目を集めました。VLISCOの前身にあたる会社は1846年にオランダのヘルモンドで創業し、オランダ船が西アフリカの港に立ち寄った際には、布が物々交換にも使われていたといいます(WIPO)。
アフリカでは、鮮やかな色と品質のよさが歓迎され、手織りのケンテのように重くて普段着に向かない布に代わって、日常着の素材として広がっていきました。そして、柄に名前や物語を与えていったのは、現地の女性たちです。「アンカラ」という呼び名も、ハウサ人の商人が仕入れ先のアクラ(Accra)になぞらえて呼んだことに由来するという言い伝えがありますが、あくまで「言い伝え」とされています。
柄の由来も、一筋縄ではいきません
ナイジェリアの研究者トゥンデ・アキンウミ氏は、2008年の論文「The “African Print” Hoax」で、アフリカンプリントは起源も意匠の多くもアフリカのものではないと論じました。意匠にはインドやアラブ、ヨーロッパなど、さまざまな地域の図像が混ざっているという指摘もあります。「アフリカの布」という呼び名そのものが、複雑な歴史を背負っているのです。
VLISCOは、いまどこで作っているのか
VLISCOグループには、Vlisco、Woodin、Uniwax、GTPの4つのブランドがあります。最上位のVliscoブランドは、本社のあるオランダ・ヘルモンドで作られています。一方、Uniwaxはコートジボワール、GTPとWoodinはガーナで作られていると、同社経営陣へのインタビュー記事(How we made it in Africa)で紹介されています。
つまり「VLISCO=オランダ製」と言い切れるのはフラッグシップのブランドに限られ、グループ内のアフリカの工場で作られた布は、アフリカ製ということになります。ガーナのGTPは、1960年代に政府が過半数を出資して発足した会社で、コートジボワールのUniwaxも現地政府と英国企業の提携で生まれましたが、どちらも現在はVLISCOの子会社です(Al Jazeera)。名前だけ見ればガーナの会社でも、親会社はオランダのVLISCOだとBBCも伝えています。2023年の同誌の取材では、VLISCOのCEOが、ヘルモンドの生産拠点をアフリカへ移す予定は当面ないと述べました。
PROFILE
VLISCO GROUP(オランダ)
創業:1846年 本社:オランダ・ヘルモンド
ブランド:Vlisco/Woodin/Uniwax/GTP
生産拠点:Vlisco(ヘルモンド)、Uniwax(コートジボワール)、GTP・Woodin(ガーナ)
参考:WIPO「The Fabled Cloth and its IP Future」
市場に出回っている布は、どこで作られているのか
いちばん気になるのは、「実際にアフリカで売られている布は、どこで作られているのか」でしょう。研究者がThe Conversationに寄せた2010年代半ばの解説では、アフリカの市場で手に入るオランダ風デザインの多くは、中国で作られた低価格の複製品だと指摘されています。中国ブランドの最大手とされるHitargetのデザインの多くは、VLISCOが権利を主張するオランダ発のデザインだといいます。
より新しい調査もあります。トーゴで100件以上の聞き取りを行った研究者らは、同じThe Conversationの記事で、この四半世紀ほどのあいだに中国の工場が多数、西アフリカ向けにアフリカンプリントを供給するようになったと報告しています。取引の拠点であるロメの市場では、中国製の6ヤード(約5.5メートル、1着分)が約9,000CFAフラン(約16米ドル)、VLISCOのワックス・オランデが約50,000CFAフラン(約87米ドル)と、5倍以上の開きがありました。データの入手は難しいとしつつ、2019年にロメ港へ入った同種の布の約9割は中国発という推計も示されています。
他の報道も傾向は同じです。Forbes Afriqueは、コートジボワールでは中国ブランドが2019年にワックス市場の8割に達したという、現地テレビ番組の数字を紹介しています。ナイジェリアでも2024年、文化・クリエイティブ経済担当の大臣が、アフリカで消費されるアンカラの大半は輸入品だと発言しました。
“Nearly 90 percent of the ankara consumed on our continent is imported”
(訳)アフリカ大陸で消費されるアンカラの、ほぼ9割は輸入品です。
— ハンナトゥ・ムサワ大臣の発言(2024年、CANEX WKND)。News Central TV
ただし、これらは地域や調査ごとの推計、あるいは政府高官の発言です。アフリカ全体の正確な割合を示す統計は、今回の調査では見つかりませんでした。「多くが中国製」という方向性は複数の資料で一致していますが、数字は幅をもって受け止めるのが安全です。
「偽物」とも言い切れない
Al Jazeera(2023年)によると、「スモール(small)」と呼ばれる中国製の安価な布は、ブランド品の3分の1から10分の1ほどの価格で売られています。中には有名ブランドを名乗り、誤字だらけのラベルを付けた露骨な偽物もある一方、色落ちしにくくなり、デザインもあか抜けてきたとして、品質を評価する声もあります。アクラの市場の女性商人は中国製ブランドを約90セディ(約8米ドル)で売っており、VLISCOは6ヤードで最大約220セディ(約200米ドル)にのぼるとのことです。
前述のロメでの研究でも、消費者が布の価値を決めるのは、法律上の「本物かどうか」よりも、手触りや質感、見た目のよさだと報告されています。若い世代にはHitargetを好む人も多く、本物より良いと考える人さえいたそうです。
工場を失った国、姿を変えた市場の女性たち
安価な輸入布の波は、アフリカ現地の繊維産業を直撃しました。ガーナのメディアCiti Business News(2017年)は、かつて2万5,000人以上を雇っていた同国の繊維産業が、2,000人強にまで縮んだと伝えています。現地メーカーのデザインが盗まれ、中国で安く複製されて国内に戻ってくる、という事態も指摘されました。
対策の動きもありました。ガーナの対策班が、偽物の布3,500点を焼却したこともあります。偽薬対策に使われた技術を応用して、布の真贋を見分ける仕組みも導入されました(The Christian Science Monitor、2015年)。
「ナナ・ベンツ」たちの変化
トーゴでは、この布の卸売りで財を成した女性商人たちが、高級車メルセデス・ベンツを乗り回したことから「ナナ・ベンツ」と呼ばれました。売るだけでなく、柄を選び、名前を付けるなど、デザインの現場にも関わっていたといいます。研究者らによれば、中国製の台頭とVLISCOの戦略転換のなかで、その数は約50人から約20人に減り、残った人びとも、決められたルールと価格で売る小売業者として契約する立場に変わりました。代わって、中国へ仕入れに出向く「ナネット(小さなナナ)」と呼ばれる新世代の商人が現れています。
もうひとつ見落とせないのは、こうした布が服になる前の「反物」の状態で届く点です。6ヤードや12ヤードに切られた布を、街の仕立て屋が客の好みに合わせて服にしており、価値の一部は現地に残り続けています。また、ロメのブランドWina Waxは、デザインは現地で行い、電力不足を理由に生産だけを中国に任せています。創業者はナナ・ベンツの子孫で、時代に適応するための選択だと説明しています。
VLISCOの対抗策と、「本物」とは何か
VLISCOも、手をこまねいていたわけではありません。同社の布には、耳(布の端)に「Guaranteed Dutch Wax Vlisco」などの文字が入っており、1963年以降のすべての布に入れているとされます(Wikipedia)。2014年には、正規品の見分け方を伝えるキャンペーン「Connoisseurs of Style」を開始し、商標のモノグラムや暗号化したバーコード、デザイン番号などを目印として示しました。ただ、前述の研究者は、法的措置も含めてこうした対策の効果は限定的だと見ています。近年はQRコードを使ったデザインの保護や、コンゴ民主共和国の税関職員への研修にも取り組んでいます(Al Jazeera)。
さらに、中国勢との競争で売上が落ち込んだ2000年代以降、同社はアフリカ向けの布メーカーから、世界に向けた高級ファッションブランドへと戦略を転換しました(研究論文の要旨)。CEOは、値下げはせず品質を守る方針を語っています。
“If you’re successful, you’re being copied”
(訳)成功すれば、まねされるものです。
— VLISCOのCEO、ペリー・オースティング氏(2023年)。Al Jazeera
同氏は、コピーされることを、革新を続けるための刺激と捉えているそうです。
買う側の「本物」の基準は、ラベルよりも手触りにあるようです。Al Jazeeraの記事によれば、どのブランドの耳にも「Guaranteed」や「Real wax」といった文字が入っています。アクラのファッションデザイナーは、ブランド名や表示にかかわらず、柔らかく、アイロンでなじむ生地かどうかが目安だと話します。安価なものには綿に化繊を混ぜたものや、数か月で色あせるものもあるそうです。
これは「アフリカの布」と呼んでいいのか
この布をアフリカの象徴とすることへの異論もあります。ガーナのオフィスには金曜に「アフリカンプリント」を着る習慣がある一方、ナイジェリアのデザイナー、アマカ・オサクウェ氏は自身のブランドで使うのを避け、マリ出身の藍染め作家アブバカール・フォファナ氏も、ワックスプリントがアフリカらしさの象徴とされることには賛成できないと語っています(BBCの記事の転載)。反対に、百年を超える使われ方のなかで、アフリカの人びとが意味を与え、文化として根づいたと見る立場もあります(オランダの研究者ヨス・アルツ氏の見方として、Wikipediaが紹介)。
アフリカで生まれ、アフリカで織られる布
ここまで読むと、「アフリカ発祥の布は、もう残っていないの?」と思うかもしれません。そんなことはありません。ガーナのケンテは、17世紀にアシャンティ、アカン、エウェの人びとのもとで生まれた手織りの布です。細い織り機で織った帯状の布を、幅広に縫い合わせて仕上げます。かつては王族のものとされ、神聖な儀式でも着用されました(ニューヨーク・タイムズ記事の転載)。
人気が高まるほど、ケンテ風の模造品も世界に広がり、その多くは中国製だと報じられています。そうした中、ガーナでは2025年秋、ケンテが地理的表示(GI)の対象になったと伝えられました。GIはシャンパーニュやテキーラのように、産地と結びついた名称を守る仕組みです。ケンテの場合は、ガーナで織られた布だけを本物と位置づけ、職人と文化遺産を守ることが狙いとされています。同記事に登場するファッション法の専門家は、GIは商標のように働くものの、実際に守らせるには世論と政府の連携が欠かせない、と述べています。
このほか、ナイジェリアのヨルバ人の藍染め「アディレ」、マリの「ボゴラン」、南アフリカの「シュウェシュウェ」なども、アフリカ各地の布として知られています(Forbes Afrique)。ワックスプリントは、これらが担っていた日常着としての役割を、一部置き換えてきた面もあるようです。
布を選ぶとき、覚えておきたいこと
ここまでの内容を、布選びの目線で整理してみます。個別の商品の産地を断定するものではなく、海外の報道や研究から読み取れる、一般的な考え方です。
1. 呼び名は、産地の保証ではありません。
「アフリカンプリント」「ワックス」「アンカラ」は、柄や染め方の種類を指す一般的な呼び名です。アフリカで作られたことを意味するとは限りません。
2. 耳の文字だけで判断しないこと。
VLISCOは耳に表示を入れていますが、他のブランドも似た言葉を入れていると報じられています。表示は目安のひとつにとどめましょう。
3. 質感と素材を見ること。
綿100%か混紡か、手触りは柔らかいか、洗って色落ちしないか。現地でも、品質を見分ける基準はそこにあります。
4. 「中国製」と「デザインの権利」は別の話。
中国製でも品質の高いものが増えているという報道がある一方、他社デザインの複製が多いことは問題視されています。産地だけでなく、誰が企画し、誰が売っているのかにも目を向けたいところです。
5. アフリカ製を選びたいときは、販売元に確認を。
GTPやUniwaxのようにアフリカで生産するブランドや、ケンテのような織物があります。商品ごとに事情が違うので、産地や製造元を尋ねるのが確実です。
まとめ 布の旅は、まだ続いている
ジャワ島のバティックから、オランダの工場へ、西アフリカの市場へ、そして中国の工場へ。ワックスプリントの旅は、植民地の歴史と市場の力が幾重にも折り重なった道のりでした。「どこで作られたか」と「誰の文化になったか」は、実は別の問いです。作られた場所がアフリカでなくても、柄に名前を付け、仕立て、晴れの日に身にまとってきたのは、アフリカの人びとでした。
いっぽうで、安い複製品の流入が現地の工場や商人を追い込み、アフリカで布を作り続けることの難しさが浮き彫りになっているのも、確かな事実です。目の前の1枚の布が、どんな旅をしてきたのか。そんな視点をもつだけで、布選びは少し奥深くなりそうです。
※本記事で紹介した数字は、調査・取材の時期や地域がそれぞれ異なります。最新の状況は、各出典でご確認ください。
参考にした情報源
- Al Jazeera「Fabric wars: Ghana’s colourful prints face renewed Chinese competition」(2023年12月30日)
- The Conversation「West Africans ditch Dutch wax prints for Chinese ‘real-fakes’」
- The Conversation「Togo’s ‘Nana-Benz’: how cheap Chinese imports of African fabrics have hurt the famous women traders」
- Forbes Afrique「Le Wax a-t-il l’étoffe d’un vrai pagne africain ?」
- News Central TV「Nigeria Imports $3 Billion Ankara Fabrics Annually」(2024年)
- Citi Business News「Left to Die: Ghana’s textile industry nears collapse」(2017年11月)
- The Christian Science Monitor「Chinese counterfeits leave Ghanaian textiles hanging by a thread」(2015年5月)
- WIPO「The Fabled Cloth and its IP Future」
- How we made it in Africa「How Dutch-based Vlisco became one of Africa’s most popular fashion companies」
- BBC「Wax print: Africa’s pride or colonial legacy?」(myjoyonline転載)
- Tunde M. Akinwumi「The “African Print” Hoax」(2008年)
- RAI 2018発表要旨「Fashioning wax cloth: Vlisco designs and the aesthetic negotiation of African globality」
- The New York Times「Cracking Down on What Can Be Called Kente Cloth」(The Philadelphia Tribune転載、2025年11月28日)
- Wikipedia「Vlisco」
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