布と針にまつわる寺社仏閣・機織り・裁縫ゆかりの神社とお寺

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布や針は毎日のように触れているからこそ昔の人々はそこに感謝と祈りを重ねてきました。

布と針をまつる場所へ ― 機織り・裁縫ゆかりの神社とお寺をめぐる

布を織る、針で縫う。毎日のように手にしている仕事の道具や手順を、遠い昔の人々は「神さまに連なるもの」として敬ってきました。日本には、機織りや裁縫の技を伝えた人々を祀る神社、神さまの衣を織る役目をいまも続けている神社、そして折れた針をねぎらうお寺や神社があります。


呉の国から渡った織女たち ― 呉服神社と縫殿神社

『日本書紀』には、応神天皇の時代に阿知使主(あちのおみ)と都加使主(つかのおみ)が呉の国へ遣わされ、衣を縫う女性たちを求めた、という記述があります。福岡県神社誌が引く由緒では、呉王から兄媛(えひめ)・弟媛(おとひめ)・呉織(くれはとり)・穴織(あなはとり)の四人が贈られたと伝わっています。最初に訪ねる二つの神社は、どちらもこの伝承につながる場所です。

呉服神社(くれはじんじゃ)|大阪府池田市

阪急池田駅から歩いて5分ほどの住宅街に鎮座する神社です。祀られているのは、機織りと裁縫の技を日本に伝えたとされる呉服(呉織)で、仁徳天皇もあわせて祀られています。池田市の観光案内によれば、呉服と穴織の姉妹がこの地に住みつき、技術を伝えたという『日本書紀』の伝承を今に受け継ぐ神社だそうです。

拝殿の正面には美しいステンドグラスがあり、織物をモチーフにしたお守りも用意されています。形見の御神鏡を納めたと伝わる「姫室」が残っているのも見どころのひとつです。服飾やアパレルの関係者が、仕事の願いをこめて訪れることも多いといいます。

ひとつ付け加えると、尼崎市の地域史資料「apedia」は、この社伝を平安時代中期以降にこの地を開発した坂上氏の氏族伝承から生まれたものとみています。伝承としての物語と、歴史研究の見方の両方を知っておくと、境内の空気がまた違って感じられるかもしれません。

ワンポイント:「呉服(ごふく)」という言葉は、この神社の由来から絹布類を指す語として定着したと伝えられています。もともとは中国の「呉」から伝わった高級な絹織物や、その織りの技術を指していた、という説明もあります。

縫殿神社(ぬいどのじんじゃ)|福岡県福津市

福岡県福津市の奴山(ぬやま)地区、のどかな田んぼの先の山あいにある小さな神社です。現地の案内板によると、呉から招かれた四人の媛のうち兄媛だけが、宗像神の求めでこの地に残り、染色・機織り・裁縫の技術を広めたとされています。祭神は四人の媛に加えて、応神天皇、神功皇后、大歳神です。

「デザイン、ファッションの発祥の地」

— 縫殿神社の案内板(よかとこBY九州より)

案内板はこの神社を、日本最初の裁縫の神さまを祀る場所であり、デザインとファッションの発祥の地とも言える、と紹介しています。中世の記録に宗像社の末社として登場する古い社で、永享12年(1440年)に寄進された梵鐘(県指定有形文化財)などの宝物も伝わっています。神功皇后にまつわる、船の帆や旗を織った(縫った)という伝承も語られています。

訪ねるときは、西鉄バス「奴山公民館前」から徒歩約10分で、駐車場はありません。静かな境内ですので、ゆっくり歩いて参拝したい場所です。

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神さまの衣を織る ― 機殿神社と初生衣神社

伊勢神宮では、天照大神に衣を奉る「神御衣祭(かんみそさい)」が、5月14日と10月14日の年二回行われます。神宮は自給自足を旨とするため、神さまが身にまとう衣も、決められた土地で織られてきました。ここからは、その布にまつわる二つの場所をご紹介します。

神服織機殿神社・神麻績機殿神社|三重県松阪市

松阪市の櫛田川下流に、二つの機殿神社(はたどのじんじゃ)が並んでいます。大垣内町の神服織機殿神社では絹の「和妙(にぎたえ)」を、井口中町の神麻績機殿神社では麻の「荒妙(あらたえ)」を、それぞれ「八尋殿(やひろでん)」という機屋で織ります。どちらも伊勢神宮・内宮の所管社で、地元では「おんぞさん」と呼ばれています。

松阪市の文化財情報によると、この御衣奉織(ごいほうしょく)の行事は市の無形民俗文化財に指定されており、例年5月と10月の1日から15日ごろにかけて行われます。織り手は地元の人々で、布が織り上がる13日に鎮謝祭を行い、14日の神御衣祭へと送り出されます。今は10月、例年どおりであれば、まさに機を織る音が響いている時期です。

『倭姫命世記』には、天棚機姫神の孫の八千々姫命(やちぢひめのみこと)が、神の教えに従って和妙を織ったという起源も語られています。日本の織物の歴史を語るうえで欠かせない、古い神域です。見学の可否や日程は、訪ねる前に松阪市や神宮の案内で確認してください。

初生衣神社(うぶぎぬじんじゃ)|静岡県浜松市浜名区(旧・北区)三ヶ日町

祭神は、機織りの神さまの天棚機姫命(あめのたなばたひめのみこと)です。七夕の織姫とも呼ばれ、天照大御神が天岩戸に隠れたとき、神御衣(かんみそ)を織って奉ったとされる神さまです。地元では「おんぞ様」と親しまれ、遠州織物の発祥の地として、織物に関わる人々の信仰を集めています。

「伊勢の神宮に神御衣を収める」

— 初生衣神社公式サイト「おんぞ祭り」

この神社の大切な役目が、毎年4月第2土曜日の例祭「おんぞ祭り」に結びついています。奥三河の赤引きの絹糸を使い、神社の織殿の織機で織り上げた御衣を神前に献上して、織物業の発展を祈ります。御衣は行列で浜名惣社神明宮へ運ばれ、のちに伊勢神宮へ奉納されます。

公式サイトによれば、明治18年(1885年)まで続いた神御衣調達の儀はいったん途絶え、昭和43年(1968年)に結成された「おんぞ奉賛会」が、おんぞ祭りとして復活させたそうです。境内には享和元年(1801年)に建てられたと伝わる草ぶきの織殿があり、浜松市の有形民俗文化財にも指定されています。

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縫う手と針をねぎらう ― 衣縫神社と針供養

衣縫神社(いぬいじんじゃ)|京都府城陽市

京都府城陽市の水主神社(みずしじんじゃ)の本殿に、あわせて祀られている神社です。祭神は衣を縫う神さまの大縫命(おおぬいのみこと)と小縫命(おぬいのみこと)で、「和裁の聖地」として知られています。水主神社そのものの創建は、5世紀半ばとされています。

毎年4月29日の例大祭では、昭和53年に奉納された針の碑(針塚)の前で、日本和裁士会の方々などが古い針や折れた針を大きなこんにゃくに刺して供養し、裁縫の上達を祈願します。令和5年の例大祭では、和裁で唯一の人間国宝とされる小見外次郎氏の胸像が移設されたことも紹介されています。

そもそも「針供養」とは

針供養は、折れたり曲がったり錆びたりして使えなくなった縫い針を供養し、近くの社寺に納める行事です。日本にはもともと、2月8日と12月8日を「事八日(ことようか)」と呼んで仕事を休む風習があり、この日は針仕事も休んで、針に感謝しました。豆腐やこんにゃくのような柔らかいものに針を刺すのは、固い布を縫い続けた針に休んでもらうためです。

日付は地域によって違い、一般には2月8日ですが、関西や九州では12月8日が多いとされます。起源の詳細ははっきりしておらず、中国の風習が9世紀ごろに伝わったという説もあります。

法輪寺(虚空蔵法輪寺)|京都府京都市西京区嵐山

嵐山の中腹にあるお寺で、本尊は虚空蔵菩薩です。手芸や芸能など、技芸の守り仏として信仰を集めています。針供養は毎年2月8日と12月8日の午後1時から行われ、12月の法要では皇室から預かった針の供養も営まれます。清和天皇が針を納める堂を建てたという由緒にちなんだ行事です。

「針を蒟蒻にさして休んでもらおう」

— 虚空蔵法輪寺 公式サイト「年間行事」

法要では、二段重ねの大きなこんにゃくに、五色の飾り糸のついた長い針を刺して、裁縫や服飾の上達を祈ります。12月8日には、古式の装束をまとった織姫の舞が奉納されます。廃針は、注射針などを除いて、どなたでも本堂前の御針納箱に納めることができるそうです。境内には、電電宮もあります。今年の12月8日は火曜日です。

淡嶋神社(あわしまじんじゃ)|和歌山県和歌山市加太

全国に1000社ほどある淡島(粟島)系の神社の総本社で、人形供養や雛流しでよく知られています。祭神の少彦名命(すくなひこなのみこと)は、神社の案内では医薬の神さまであり、裁縫の道を最初に伝えた神さまとも紹介されています。女性にまつわる願いの神さまとして、古くから信仰されてきました。

毎年2月8日の午前11時から行われる「針祭」では、一年間に納められた針を本殿でお祓いし、針塚に納めて塩をかけ、土に返します。縫い物をする人が減るなかで、納められる針の数も少なくなっていると伝えられています。

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訪ねるときの目安

行事の日にあわせて訪ねると、その場所ならではの雰囲気に触れられます。ただし、日程や参拝・見学の可否は変わることがあるため、お出かけの前に各社寺や自治体の最新の案内をご確認ください。

社寺 祀るもの・由来 時期・行き方の目安
呉服神社(大阪府池田市) 機織り・裁縫を伝えた呉服(呉織) 阪急池田駅から徒歩約5分
縫殿神社(福岡県福津市) 呉から来た四人の媛 奴山公民館前バス停から徒歩約10分、駐車場なし
神服織機殿神社・神麻績機殿神社(三重県松阪市) 伊勢神宮の和妙(絹)・荒妙(麻)を織る機殿 例年5月・10月の1〜15日ごろに奉織、神御衣祭は14日
初生衣神社(静岡県浜松市) 機織りの神・天棚機姫命 おんぞ祭りは4月第2土曜日
衣縫神社(京都府城陽市・水主神社内) 大縫命・小縫命、和裁の聖地 例大祭と針供養は4月29日
法輪寺(京都市西京区) 虚空蔵菩薩、針供養の由緒 針供養は2月8日・12月8日の13時から
淡嶋神社(和歌山県和歌山市) 少彦名命、全国の淡島神社の総本社 針祭は2月8日の11時から
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まとめ

呉の国から技を伝えたとされる織女たち、神さまの衣を織り続ける人々、そして使い終えた針をねぎらう風習。布や針は、毎日のように触れているからこそ当たり前の存在になりがちですが、昔の人々はそこに感謝と祈りを重ねてきました。

遠くまで足を運べなくても、12月8日や2月8日には、一年の間に折れた針や古くなった針を、あらためて眺めてみるのもよさそうです。今年の針仕事に、ひとこと「ありがとう」を伝える日にしてみませんか。

参考にした情報

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