海外クラフトの10年(2016〜2026)「見せるもの」から「つながるもの」へ

Shop Manager
Shop Manager
次の10年はどんなクラフトの主流となっていくのでしょうか。今後も目が離せません。

手芸は「見せるもの」から「つながるもの」へ 海外クラフトの10年(2016〜2026)

この10年で、海外の手芸はずいぶん違う顔つきになりました。2016年ごろ、麻縄を結んだプラントハンガーやタペストリーは、インスタグラムの中の「映える小物」でした。2026年のいま、人々が求めているのは、画面の外で手を動かす時間と、一緒に手を動かす誰かです。

この記事では、海外の手芸・クラフトの流れを、2016年から2026年まで年ごとにたどります。流行の始まりが年表より少し早かったものや、数字の読み方に注意が必要なものもあわせて書き留めておきます。

年 主な動き
2016 マクラメが観葉植物ブームとともに再び広がる
2017 SNSのハッシュタグが、スローファッションを語る場をつくる
2018 タフティングが一般の人の手に届き始める
2019 編み物コミュニティで、多様性をめぐる議論が表面化する
2020 パンデミックで手芸人口が急増。タフティングも大流行
2021 Z世代が編み物・かぎ針編みを「新しいもの」にする
2022 画面疲れへの反応として、静かに手を動かす趣味が見直される
2023 鮮やかで楽しい色づかいの「ドーパミン」系クラフト
2024 アップサイクルの広がり。AI時代に手仕事の価値が問われる
2025 古いキルトや服を、新しい服につくり直す
2026 集まって作る時間、体験とコミュニティの価値

※流行は、ある年にぱっと始まるものではありません。年は「その年に目立ち始めた」という目安です。


2016〜2018年 インスタグラムの中で、手仕事が「見せるもの」になる

マクラメは、観葉植物と一緒に戻ってきた

1970年代のボヘミアンな暮らしの象徴だった結び編みが、2010年代なかばに再び広がりました。英国の伝統工芸団体Heritage Craftsは、いまの再流行を、インスタグラムやピンタレストといったSNSに後押しされたものと説明しています。米国の地方紙Inlanderの記事は、背景に観葉植物を集める流行があることを指摘しています。

クラフト用品メーカーのブログ(Darice)によれば、インテリアデザイナーが撮影用の部屋づくりに壁掛けを取り入れ、それを見た人たちが真似をしたことが広がりのきっかけだったそうです。白い壁、淡い色の縄、吊るされた緑の鉢。写真に切り取りやすい、静かな景色だったのだと思います。

ハッシュタグが「ゆっくりな服づくり」を束ねる

年表では2019年にサステナビリティの流れが語られていますが、実際の出発点はもう少し前にあります。ニット関連のブログ「Fringe Association」を主宰するカレン・テンプラーは、2015年10月に「Slow Fashion October」を始めました。Interweaveのインタビューによると、ミー・メイド・メイ(Me Made May)に着想を得て、「一か月かけてスローファッションを考えてみませんか」とブログで呼びかけたところ、インスタグラムのハッシュタグ上で大きな反響があり、毎年の開催を望む声が続いたそうです。

Garments with long lives and legacies, that’s what I crave

長く着られ、受け継がれていく服。私が求めているのは、そういうものです。

— Seamwork「Slow Fashion October」(テンプラーの2015年の投稿を引用)

この企画の週替わりのテーマには、「直すこと」もありました。英国ブライトンの編み手トム・ファン・ダイネンが始めた「Visible Mending Programme」が、2016年の同企画で紹介されています。彼は当初、繕いあとが目立たないように直そうとしていたものの、それがとても難しく、やがて目に見える繕いを受け入れるようになった、と語っています。

now I positively celebrate a visible repair

いまでは、目に見える繕いを、むしろ誇らしく思っています。

— Fringe Association(トム・ファン・ダイネンへのインタビュー)

タフティングの種がまかれる

年表では2017年に、パンチニードルやタフティングが「注目され始めた」とあります。実際には、タフティングガンそのものは1930年代からあるカーペット産業の道具でした。それを一般の人の手に届けたのは、フィラデルフィアのアーティスト、ティム・イーズです。MetropolisやChicago Readerによると、彼は2018年にタフティング愛好家のオンラインコミュニティを立ち上げ、のちに糸や機材の販売を始めています。ただ、本当に火がつくのは、次の章で触れる2020年です。

—  —

2019〜2021年 議論と、家で過ごした時間と、若い世代の登場

2019年 「誰の手芸なのか」という問い

年表では2018年とされている多様性をめぐる議論ですが、大きな転機は2019年1月でした。カレン・テンプラーが、インド旅行の計画を綴ったブログ記事を公開したところ、その書きぶりが他者を珍しいものとして扱っているとして、有色人種の編み手たちから批判の声が上がりました。議論はインスタグラムや、編み物コミュニティサイトのRavelry(ラヴェリー)に広がっています(Craft Gossip、Vice)。

Ravelryの創設者たちは、有色人種の人が居心地よく参加できるよう、特集やインスタグラムで紹介する作り手の幅を意識して広げる、といった取り組みに触れています。同じ年の6月23日には、サイト上でのトランプ政権への支持表明を禁じる方針を発表し、大きく報じられました。この判断には賛否があり、コミュニティの中でも意見が分かれました(Wikipedia)。ここでは、その是非には立ち入りません。ただ、趣味の場が「ただ楽しむ場所」であるだけでなく、「誰が居心地よくいられるか」を問われる場所でもあることが、はっきり見えた年だったように思います。

2020年 世界中の家で、針と糸が動き出す

パンデミックの初期、手芸への関心は目に見えて跳ね上がりました。英エクセター大学の学生媒体ENIGMAは、Googleトレンドで「sewing」の検索が2020年3月から4月にかけて世界で190%以上増えたと伝えています。

同じ年の2月には、歌手のハリー・スタイルズが英国のデザイナー、JWアンダーソンのパッチワーク風カーディガンを着て話題になり、あの形を自分で編みたいという若い人たちが続出しました(The Linc)。

もうひとつ、この年を象徴するのがタフティングです。ティム・イーズの電動タフティングガンと、「#rugtiktok」の早回し動画が人気を呼び、イーズの元には3月以降、機材の注文が殺到したと報じられています(Vice)。同じ記事には、糸を布に打ち込む様子を眺めること自体が心地よい、という声と並んで、こうした流行が、繊維芸術が長く「女性の仕事」とされてきた歴史を見えにくくしてしまうのではないか、という指摘も紹介されていました。

2021年 「おばあちゃんの趣味」ではなくなる

この年のCNNの記事は、編み物やかぎ針編みが「高齢者の趣味」というイメージを脱ぎ捨て、Z世代の新しいファッションになりつつあると書いています。若い人たちが、手の届かない値段の服を自分で編んで再現する、という動機もあったようです。学生の寄稿(Grattan Street Press)は、「コテージコア」と呼ばれる田園風の美意識や、70年代ファッションの再流行との重なりにも触れています。

英国のCrafts Councilによれば、パンデミック以降、手芸を楽しむ消費者の中で35歳未満が最も大きな割合を占めるようになったとも言われています(前出ENIGMAによる紹介)。

—  —

2022〜2024年 静けさから、遊び心へ、そして「つくり直す」へ

この3年は、ひとつの大きな出来事というより、空気の変化として現れた時期です。年表の各項目も、はっきり裏づけられる資料が見つかったものと、そうでないものがありました。確かめられた範囲だけを書きます。

2022年 画面から離れて、静かに編む

この年に出版された『Mindful Knitting』(Chloé Elizabeth Birch著)は、編む動作のやさしいリズムを前面に出した本として、米国の出版業界誌Publishers Weeklyの記事で紹介されています。手を動かす時間そのものが、休息になる。そんな受け止め方が、本の企画にも現れていたのだと思います。

2023年ごろから ドーパミンの色

静けさのあとに来たのが、見ているだけで気分が上がるような鮮やかな色づかいです。同じPublishers Weeklyの記事によると、気分を高める色や質感を身につける「ドーパミン・ドレッシング」の人気を受けて、家の中にも楽しい色を取り入れる「ドーパミン・デコール」の本が相次いでいます。先ほどの著者自身も、静かな編み物の本から一転して、『Dopamine Crochet Decor』という遊び心のある本を出す流れです。英国の出版社Greenfinchからは、2026年10月に『Dopamine Knitting』も刊行される予定です。

ただ、この流れが「2023年」にはっきり始まったと言える資料は、今回は見つけられませんでした。2023年ごろから目立ち始め、2026年のいまも続いている、というのが確かなところです。

2024年 「つくり直す」手芸が目立ってくる

英国のクラフト系ブログThe Morning Crafterは、2024年のトレンドとして、アップサイクルと持続可能なクラフトを挙げています。毛糸の開封動画や買い込みが当たり前になった「買いすぎ」の空気に対する反動として、ここ1年で強まった動きだとのことです。クラフトのマーケティング会社の2024-2025年のトレンドレポートも、古いキルトや端切れを使ったパッチワークの服が広がっていると記しています。

年表は、この年をAIとの融合の年として描いています。実際のところ、手芸の世界でのAIは歓迎一色ではなく、距離を置こうとする動きも見られます。Etsyの2026年のトレンドレポートは、手縫いの質感の人気を、AIが作る画一的な見た目への反発と結びつけている、とYahoo Lifestyleの記事が伝えています。

—  —

2025〜2026年 古い布を生かし、集まって手を動かす

2025年 古いキルトが、新しい服になる

米国オレゴン州ポートランドのテイラー・ネランダーさんは、2018年に初めてキルトジャケットを作り、パンデミック中に、古いキルトを服にすることを仕事にしました(Metropolis)。フリーマーケットや古着店で出会った誰かの手仕事を、新しい服として着る。環境への負担を減らす方法として、こうした実践が注目されています。一方で、前出のThe Morning Crafterは、手作りの古いものを再利用することを「議論の分かれる流れ」とも書いています。残された手仕事を切ってよいのか、という問いは、まだ答えが出ていません。

生地を扱う側から見ると、もうひとつ興味深い動きがあります。米国のキルト産業を振り返るCraft Industry Allianceの記事には、次のような言葉があります。

apparel sewing is seeing a revival thanks to sustainability concerns, slow fashion

洋服づくりが、サステナビリティへの関心やスローファッションを追い風に、見直されている。

— Craft Industry Alliance「How Quilting Came to Dominate the U.S. Sewing Market」

キルティングコットンが中心だった米国の手芸店で、洋服用の生地やインテリア用の生地の需要が高まっている、という報告もあります(GCN)。古い服をほどいて新しい服に仕立て直す動画が、SNSで広がりやすい題材になっていることも、同じ記事で触れられています。

2026年 集まる、という楽しみ

米国の大手手芸チェーンMichaelsは、2026年を「Year of Creative Living」と名づけました。同社の年次レポートは、人々が求めているものを次のように表現しています。

tactile, analog activities to reclaim time and identity in an automated world

自動化された世界で、時間と自分らしさを取り戻すための、手ざわりのあるアナログな活動。

— Better Homes & Gardens「The 8 Biggest Crafting Trends in 2026, According to Michaels」

同じ記事によると、「craft night(手芸の夜)」の検索は前年から103%増え、「girls’ night craft」に限れば242%増えたそうです。Michaelsの2025年のデータでは、Z世代とミレニアル世代の71%が手芸クラブへの参加に関心を示した、とMartha Stewart Livingは伝えています。Yelpの2026年トレンド予測では、タフティング教室の検索が480%増え、手芸生地店の検索は3,771%増えたとのことです(前出GCNによる紹介)。

数字の読み方について。2026年の数字は、おもに米国の小売や検索のデータです。検索の伸び率は関心の高まりを示すもので、実際の売上や人口の伸びとは別の話になります。また、「ハイファッションの領域への波及」(2025年)と「作り手同士のつながりを重視する流れ」(2026年)のうち、前者を直接裏づける資料は今回は見つかりませんでした。後者は、上の手芸クラブや手芸の動きから方向性として確かめられます。

—  —

10年を一本の糸にしてみると

年ごとに並べてみると、10年の間には、ゆるやかな三本の流れがあったように見えます。

ひとつは、手仕事が「見せるもの」から「感じるもの」へ移っていったこと。マクラメやタフティングは、画像や動画として美しいから広がりました。けれど、画面に疲れたあとの人たちが求めたのは、手の中にある糸の感触や、動かしているあいだの静けさのほうでした。

ふたつめは、「誰の手芸なのか」を問い直す動きです。2019年の議論や、手芸が「女性の仕事」として軽んじられてきた歴史への指摘は、流行の明るい面とは別のところで、この世界の足元を見つめ直させるものでした。

みっつめは、「新しく作る」から、「長く使い、つくり直し、つながる」へという変化です。2015年のSlow Fashion Octoberから、古いキルトの服、手芸の夜まで、どれも根にあるのは、ものと時間と人との関係を、もう少しゆっくり結び直したいという気持ちではないでしょうか。

布の目線で見ると、洋服づくりへの関心が戻り、生地そのものを選ぶ時間に価値が置かれつつあることは、うれしい変化です。どんな布で、何を作ろうか。そう思いを巡らせる時間は、きっと、この10年で一番変わらなかった楽しみなのかもしれません。

この記事で参照した主な情報源

Heritage Crafts「Macramé」
Inlander「Social media, houseplant cultivation and contemporary decor trends…」
Darice「Macrame History: Back and Better Than Ever」
Interweave「Slow Fashion: What Is It & How Can I Get Some?」
Seamwork「Slow Fashion October」
Fringe Association「mending」
Metropolis「Meet the Makers Behind the Tufted Rug Renaissance」
Chicago Reader「The rug revival」
Craft Gossip「On Racism in the Knitting Community」
Vice「The Real Reason Ravelry’s Ban on White Supremacy Is Surprising」
Wikipedia「Ravelry」
ENIGMA「Subtly Subversive: Is Crochet Gen Z’s Answer to Punk?」
The Linc「Move over nana」
CNN「Crochet TikTok is the most soothing and sustainable corner of the internet」
Vice「The Handmade Rug Scene is Booming, Thanks to TikTok」
Grattan Street Press「The Gen Z Crochet Renaissance」
Publishers Weekly「Interior Design and Crafting Books Go Wild with Dopamine Décor」
The Morning Crafter「Craft Trends You Need to Know About」
Stitchcraft Marketing「2024-2025 Trends Report for Craft Marketers」
Yahoo Lifestyle「Crocheting and ‘Grandma Hobbies’ Surge in 2026…」
Metropolis「Contemporary Quilters Are Piecing Together a New Era of the American Craft」
Craft Industry Alliance「How Quilting Came to Dominate the U.S. Sewing Market」
GCN「Searches for crochet classes and sewing stores surged…」
Better Homes & Gardens「The 8 Biggest Crafting Trends in 2026, According to Michaels」
Martha Stewart Living「The Crafting and DIY Trends Set to Shape 2026, According to Michaels」

jumble shop oneでは、厳選した海外ファブリックを取り揃えています。

ショップへ

✦ 新着商品
読み込み中...
ショップで全商品を見る →