家庭ミシンの保有率は?

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国によっては統計自体がない。文化の違いは調査の切り口からも透けて見えます。

日本の家庭にミシンはどれくらいある? 保有率から見える「作る」という選択

押入れの奥にしまい込んだミシン、実家から譲り受けたミシン、入園準備のために慌てて買ったミシン。手元にミシンがある人は多いはずなのに、「日本の家庭のどれくらいがミシンを持っているのか」を数字で意識したことがある人は少ないのではないでしょうか。


「保有率」の推移 国の統計からたどる

ミシンの家庭内保有率について、国がもっとも本格的に調べていたのが総務省の「全国消費実態調査」です。主要な耐久消費財のひとつとして「電動ミシン」の普及率が定期的に集計されていました。

平成16年から平成21年へ

平成16年(2004年)の調査では電動ミシンの普及率は67.1%でした。それが平成21年(2009年)の調査(二人以上の世帯)では61.6%まで下がっています。5年で5ポイントほどの減少ですが、それでも6割を超える世帯がミシンを持っていたことになります。

電動ミシンの世帯普及率は、平成16年67.1%、平成21年61.6%(二人以上の世帯)と推移している。


— 総務省「平成21年全国消費実態調査 主要耐久消費財に関する結果」

ミシン調査項目そのものがなくなった

実はこの平成21年のデータ以降、電動ミシンは主要耐久消費財の調査対象から外れてしまいました。つまり国による全国一律の最新公式データは、今のところ「平成21年の約6割」が最後の数字ということになります。全国消費実態調査は現在「全国家計構造調査」に引き継がれていますが、家電の中でもミシンは調査項目の入れ替わりが激しいジャンルで、生活必需品というより「持っている人と持っていない人がはっきり分かれる品目」として扱われてきた面があるのかもしれません。

都市部より地方のほうが持っている

平成21年のデータをもう少し掘り下げると、都市規模による差もはっきり出ています。全国平均61.6%に対して、東京23区は56.0%、町村部は62.6%。都道府県別で最も高かったのは奈良県の69.9%で、本州中央部の県が上位に並ぶ一方、九州や東北、沖縄(42.2%)では低めという傾向でした。既製品が手に入りやすい都市部よりも、地方のほうが「自分で作る」文化が根強く残っていたとも読み取れます。

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今、家庭でミシンを持つ理由 2023年の意識調査から

国の統計が途絶えたあとの「今」を教えてくれるのが、子育て世代向けメディアを運営する企業による調査です。園児のママ・パパ向け情報誌を発行する株式会社こどもりびんぐが2023年に行った全国の女性517名を対象とした調査では、ミシンの所持率は50.1%でした。

ミシンを「持っている」人は50.1%。持っている人のうち「電動ミシン」の所有が70.7%と最も多い。


— 株式会社こどもりびんぐ「シルミル研究所」ウーマンリサーチ(2023年)

買う理由は「作りたいもの」と「子どものため」

購入理由として多かったのは「作りたいものがあった」(34.4%)、「子どもの持ち物を作るため」(33.2%)、「子どもの入園準備のため」(32.8%)。実際に作られているものも「雑巾」(43.4%)「レッスンバッグ」(42.2%)「シューズバッグ」「マスク」「お弁当袋」など、園や学校まわりの実用品が上位を占めています。趣味というより「必要に迫られて」手に取る道具、という側面が数字にもよく表れています。

「所有」と「使用」のあいだにある距離

国の統計でも民間調査でも、日本の家庭のミシン所持率はおおむね5割から6割台で推移してきました。ただしこの数字は「持っている」割合であって、「日常的に使っている」割合ではありません。入園・入学準備の時期だけ物置から引っ張り出す、というのは多くの家庭にとって身に覚えのある光景ではないでしょうか。所有率の高さと、実際の稼働率のあいだには、想像以上の距離があるのかもしれません。

ワンポイント:手芸が得意な人ほどミシンを持っている割合は高くなる傾向があるという調査結果もあります。「必要だから買う」入り口と、「好きだから使いこなす」その先の段階は、少し違う道筋をたどっているようです。

 

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海外と比べてみると

海外に目を向けると、日本のように国全体の世帯保有率を継続的に調べている公的統計は、実はあまり見当たりません。ミシンの位置づけそのものが国によって違うため、単純な数字の比較は難しいのですが、文化の違いは調査の切り口からも透けて見えます。

アメリカ・ヨーロッパ 「必要」より「趣味」から

アメリカでは、日本のような「子どもの入園グッズ作り」よりも、キルティングやインテリア装飾、洋裁そのものを楽しむクラフト文化としてミシンが語られることが多いのが特徴です。ヨーロッパでもドイツを中心に、学校の家庭科教育や、古着をリメイクする「アップサイクル」への関心の高まりが、ミシンを持つきっかけとして語られています。日本の「必要に迫られて買う」という動機とは、入り口の部分で少し違う空気があるようです。

アジアの新興国 実用としてのミシン

一方でアジアの新興国では、家計を支えるための内職や、仕立て屋としての実用需要が根強く残っている地域もあります。電動ミシンだけでなく、手動式・足踏み式の簡素なミシンにも一定の需要があるのは、趣味や教育というより生活の手段としてミシンが存在してきた歴史の名残といえそうです。

国境をまたいで比べてみると、日本のミシン文化の輪郭がかえってはっきりしてきます。学校行事という「締め切り」に背中を押されて手に入れ、押入れにしまい込みながらも手放さない。そんな独特の距離感が、5割から6割という保有率の数字に静かに表れているのかもしれません。

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おわりに

国の公式統計としては約20年前の数字が最後、というのは少し寂しい気もします。それでも民間調査を見る限り、家庭のミシン所持率が急激に下がっているわけではなさそうです。押入れの奥のミシンも、これから買おうか迷っているミシンも、日本の家庭の「作る文化」を静かに支える存在であることに変わりはありません。

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