チャームパック、ジェリーロール、レイヤーケーキ——海外キルト生地の「プレカット」をもっと知りたい
海外の生地メーカーのページを眺めていると、「Jelly Roll」「Charm Pack」「Layer Cake」といった、まるでカフェのメニューのような名前がずらりと並んでいることに気づきます。これらはすべて、キルティング用にあらかじめカットされた生地のセット——「プレカット」(またはプリカット)と呼ばれるものです。なぜこんなにも種類が多いのか、どうして40枚や42枚という数字が基準になっているのか。今回は、プレカット生地の歴史と種類、そして海外のキルターたちの間での楽しまれ方をご紹介します。
プレカット生地のルーツをたどって
「チャームキルト」という古き伝統
現代のプレカット生地の精神的な原点は、1870年代のアメリカにまでさかのぼります。当時流行した「チャームキルト(Charm Quilt)」と呼ばれるスタイルのキルトは、一枚のキルト全体に同じ布を2枚以上使わないというルールのもとで作られていました。数百枚、時には数千枚もの異なる生地を集めるためにキルターたちは友人や知人にスクラップ布を「ねだり」にまわったことから、「Beggar’s Quilt(物もらいキルト)」とも呼ばれていました。
The accepted definition of a charm quilt is a one patch quilt that uses a different fabric for each patch with no two the same.
(チャームキルトとは、すべてのパッチに異なる布を用い、同じ布が2枚以上使われないワンパッチキルトです)
このチャームキルトの伝統は、ヴィクトリア朝の女性たちが「チャームストリング」と呼ばれるボタンを集める流行に影響を受けたとも言われています。ボタンを999個集めると、1000個目のボタンをもってきた男性が将来の伴侶になる——という言い伝えがあり、キルターたちはそのロマンをパッチワークに重ねるようにして、異なる布を集め続けました。
その後、20世紀の初めにいったん廃れかけたこの文化は、1930〜40年代の大恐慌時代に再び脚光を浴びます。物資が乏しい時代だからこそ、さまざまな端切れを組み合わせる知恵が生き返ったのでしょう。そして1980〜90年代のキルティングブームとともにチャームキルトは現代に蘇り、それが今日のプレカット生地文化へとつながっていきます。
Moda Fabricsが生み出した「プレカット」という革命
現代のプレカット生地の形を作ったのは、アメリカの生地メーカー「Moda Fabrics(モーダ・ファブリクス)」です。Modaは「Jelly Roll」「Charm Pack」「Layer Cake」などの名称を考案し、商標登録を取得。一つのコレクション内の生地を均等にカットしてセット販売するというスタイルを定着させました。それまでキルターたちが自分でハサミを入れていた下準備の工程が、工場で美しくカットされた状態で届くようになったのです。
ジェリーロールの誕生にはひとつのエピソードがあります。カリフォルニア州のキルトショップオーナー、Daniela Stoutさんが「Strip Club(ストリップクラブ)」と題したパターンプログラムを通じて、2.5インチのストリップを活用したキルト作りを普及させていました。彼女のアイデアにインスパイアされたModaが、ストリップをあらかじめカットした状態で提供することを思いついたのが、ジェリーロールのはじまりとも言われています。
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プレカットの種類とサイズ、なぜその大きさなの?
プレカット生地のサイズは、どれも「キルティングで最もよく使われる寸法」をもとに設計されています。裁断の手間を省くだけでなく、コレクション内のすべての柄を少しずつ試せるという楽しさも大きな魅力です。
チャームパック(Charm Pack)|5インチ x 5インチ
最もポピュラーなプレカットのひとつ。5インチ(約12.7cm)の正方形が、標準的に42枚入っています。なぜ5インチかというと、42〜44インチ幅のキルティングコットンを5インチの帯状に切ると8枚の正方形が取れ、端切れがほとんど出ないという合理的な理由があります。1枚手元に残して7枚を仲間と交換する、という物々交換の文化にもぴったりのサイズでした。
チャームパック1つでできるキルトの目安
1つ(42枚)→ベビーキルト
2つ(84枚)→ラップキルト
3つ(126枚)→ラップ〜シングルキルト
5つ(210枚)→ツインサイズ
8つ(336枚)→クイーンサイズ
なお、チャームパックを4分の1に切ると2.5インチのミニチャーム(ミニチャームパック)になります。Modaではこれを「Moda Candy(モーダキャンディー)」と呼んで販売しており、お試し感覚で購入しやすいと好評です。
レイヤーケーキ(Layer Cake)|10インチ x 10インチ
チャームパックをそのまま大きくしたような存在。10インチ(約25.4cm)の正方形が42枚入っているのが標準です。大柄プリントを生かしやすいサイズで、アップリケやハーフスクエアトライアングルにも重宝します。1枚のレイヤーケーキを4分割すると、ちょうど4枚のチャームスクエアが取れます。ちなみにModaの呼称はLayer Cakeですが、Robert Kaufmanは「Ten Squares(テンスクエアー)」、Hoffmanは「Bali Crackers(バリクラッカーズ)」など、メーカーによって名前が異なります。
レイヤーケーキ1つでできるキルトの目安
1つ(42枚)→ラップ〜ツインキルト
2つ(84枚)→クイーンキルト
ジェリーロール(Jelly Roll)|2.5インチ x 約42インチ(生地幅いっぱい)
プレカットの中でも特に人気の高い存在。2.5インチ(約6.3cm)幅の細長いストリップが40〜42本入っていて、くるくると巻かれた状態で販売されます。その見た目があのスイーツ「ジェリーロール」そっくりなのが名前の由来。ストリップキルトやパッチワークの仕切り(サッシング)、バインディングなど幅広く使えます。
Fun fact: if laid end to end, it takes just shy of 38 jelly rolls to make a mile!
(ちょっとした豆知識:ジェリーロールのストリップを全部つなげると、38本でほぼ1マイルの長さになります!)
なお、メーカーによって名前が異なります。Riley BlakeやKaumanの「Rolie Polie(ロリーポリー)」、Baliの「Bali Snaps(バリスナップス)」、一部では「Roll Ups」「Pixie Strips」とも呼ばれています。
ハニーバン(Honey Bun)|1.5インチ x 約42インチ
ジェリーロールをさらに細くしたイメージ。Moda Fabricsが展開する1.5インチ幅の細いストリップセットで、40本入りが標準。ストリップキルトやサッシングのほか、小物づくりにも向いています。こちらも見た目のかわいらしさから人気があります。
ファットクォーター(Fat Quarter)|約18インチ x 21インチ
プレカットの中でも最もなじみ深いのがファットクォーター。1ヤードの生地を縦横半分ずつに切った「太い4分の1ヤード」という意味で、通常のクォーターヤード(細長い9インチ幅の短冊)よりも正方形に近い形状が特徴です。10インチ角を2枚取れるなど、裁断の自由度が高く、キルト作りの基本アイテムとして長年愛されています。1コレクションの全柄を揃えたファットクォーターバンドルは、生地コレクターにとって「全部ほしい!」の気持ちを叶えてくれる存在でもあります。
なぜ「42枚」が多いの?
チャームパックもレイヤーケーキも、標準的に42枚入りです。これはModaをはじめとする多くのコレクションが、ちょうど42〜44柄で構成されることが多いからです。コレクション内のすべての柄を1枚ずつ入れ、端数が出た場合は人気柄を重複させて42枚に揃えることもあります。ただし42はあくまでも慣例であり、メーカーやコレクションによって40枚・38枚になることもあります。
プレカットが愛される理由——海外キルターの声
裁断いらずで「ずっとやりたかった」が叶う
キルティングを続けるうえで「一番大変なのが裁断」という声は、初心者・ベテランを問わず多く聞かれます。プレカット生地なら、届いた瞬間からミシンが動かせます。しかもコレクション内のすべての柄が少しずつ入っているため、色選びやコーディネートの悩みも一気に解決。海外のキルティングコミュニティでは「precuts take the stress out of choosing fabrics and eliminate hours of cutting(プレカットは色選びのストレスをなくし、何時間もの裁断を省いてくれる)」という言葉が繰り返し語られています。
「ジェリーロールレース」という熱狂
プレカット人気を語るうえで欠かせないのが、「ジェリーロールレース(Jelly Roll Race)」というパターンです。ジェリーロール1本のストリップをすべて端からつなぎ合わせて1本の長いテープにし、折りながら縫い合わせてキルトトップを完成させるシンプルな手法。なんとキルトトップが数時間で完成してしまいます。Missouri Star Quilt Company(MSQC)のJenny DoanさんによるYouTubeチュートリアルがきっかけで広まり、世界中のキルターがこぞって挑戦する動画が次々とSNSに投稿されました。
A baby sized Jelly Roll Race quilt top can take between 45 min – 1.5 hours to pull together.
(ベビーサイズのジェリーロールレースのキルトトップなら、45分〜1時間半で仕上がります)
さらに毎年「National Sew a Jelly Roll Day(ジェリーロールを縫う日)」というイベントまで生まれ、InstagramやPinterestでは世界中のキルターが完成作品を投稿し合っています。「誰かと競いながら、楽しく縫う」——という文化が、プレカットを単なる便利グッズから、コミュニティをつなぐ存在へと昇華させているようです。
「開けられない」という悩みも……
海外のSNSやキルティングブログでよく目にするのが「Jelly Rolls are so cute that they are often pretty hard to unwrap(ジェリーロールはあまりにもかわいくて、なかなか開けられない)」という声。まるいリボンで束ねられた状態があまりにも美しいため、飾っておきたくなるという気持ちは、日本のキルターも共感できるのではないでしょうか。実際「stash(スタッシュ)」と呼ばれる、使わずに溜め込んだ生地コレクションを大切にしている文化は洋の東西を問わず根強くあります。
ピンクエッジ(ピンキング加工)には意味がある
チャームパックやレイヤーケーキ、ジェリーロールの端がギザギザに切られているのに気づいたことはありますか?これは「ピンキング加工」といい、布端のほつれを抑えるための処理です。縫うときにはギザギザの山の先端を基準に1/4インチの縫いしろをとることがポイント。「ピンキングの先端が直線と同じ役割を果たす」ということを知っておくと、仕上がりが格段に変わります。
おわりに——プレカット生地が運んでくれるもの
チャームパックの「5インチ」はヴィクトリア朝の布交換文化から生まれ、ジェリーロールはカリフォルニアのキルトショップからModaへとつながったアイデアの結晶——プレカット生地の一枚一枚には、長い歴史とキルターたちの工夫が詰まっています。
コレクションのすべての柄が揃っているからこそ生まれる色の調和、裁断なしにすぐ縫い始められる気軽さ、そして「全部ほしい」という気持ちを叶えてくれるお手頃な価格感。プレカット生地は、キルティングという手仕事をもっと身近に、もっと楽しくするための贈りものかもしれません。
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