嫌われ色? 売れ残る色とその理由

Shop Manager
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柄にもよるとは思いますが、どうしても茶系の生地は残りがちです

海外生地の"アースカラー"は、なぜ日本で売れ残るのか

海外の生地を仕入れていると、いつも同じことに気づきます。ひとつのコレクションの中に茶色や黄土色、マスタードといった"アースカラー"が混ざっていると、最後まで棚に残るのはたいていその色。ブルーやグリーンは早々に売り切れるのに、なぜ大地の色だけがこんなに苦戦するのでしょうか。単なる偶然でしょうか、それとも日本人と海外の人の色の見え方や好みに、何か根本的な違いがあるのでしょうか。少し調べてみることにしました。


世界共通、実は「茶色」はもともと嫌われ色だった

まず調べてわかったのは、茶色が苦戦するのは日本に限った話ではないということでした。カリフォルニア大学バークレー校のスティーブン・パーマーらが提唱した「生態学的原子価理論(ecological valence theory)」という色彩心理学の考え方があります。人は、自分が好きなものと結びついた色を好み、嫌いなものと結びついた色を嫌う、という理論です。青が世界的に好まれるのは澄んだ空やきれいな水を連想させるから。反対に茶色やオリーブ色は、腐った食べ物や汚れを連想させやすく、感情的にマイナスに働きやすいと説明されています。

“browns and olives may be universally disliked”
(茶色やオリーブ色は、世界共通で嫌われやすい色なのかもしれない)


PNAS「An ecological valence theory of human color preference」

実際、欧米の色の好き嫌い調査でも、茶色を「一番好きな色」に挙げる人は1%前後という結果が繰り返し出ています。禁煙啓発のためにあえて「魅力のない色」としてタバコのパッケージに採用されたのも、くすんだ茶色(パントンナンバー448C)でした。つまり海外のメーカーがアースカラーを積極的に生地コレクションへ取り入れているのは、決して「茶色が万人に愛される色だから」ではなく、自然や大地、素朴さを演出するデザイン言語として選ばれているだけ、というのが実情のようです。

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日本ならではの理由:パーソナルカラーと「肌に合う・合わない」

ただ、世界共通で茶色人気がいまひとつだとしても、日本のアースカラー生地の売れ残り方は、それだけでは説明しきれないほど極端に感じます。ここで無視できないのが、日本で独特の広がり方をしている「パーソナルカラー診断」の存在です。肌や瞳、髪の色をもとに「似合う色」をイエローベース/ブルーベースなどに分類するこの診断は、美容業界の調査でも認知度が8割ほど、20代女性を中心に検索数が年間数千万回にのぼるほど定着しています。

そして興味深いのは、マスタードやオリーブ、キャメルといったアースカラーが最も似合うとされる「オータムタイプ」は、日本人の肌色傾向のなかでは少数派だという点です。美容室の診断データなどを見ても、日本人はブルーベースにあたるサマーやスプリングのタイプが多く、オータム・ウィンターの割合はおよそ1割程度にとどまるといわれています。つまり多くの日本人にとって、黄土色や茶系の生地は「好き嫌い」以前に「診断的に似合わないとされやすい色」なのです。洋服やポーチなど身につけるものに使う生地の場合、この「似合う/似合わない」の物差しが、購入をためらわせるブレーキとして働きやすいのかもしれません。

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江戸から続く「渋い色」の美意識、そして生地選びのこれから

面白いのは、日本人が茶色そのものを嫌っているわけではまったくない、という歴史の事実です。江戸時代、幕府はたびたび倹約令を出し、庶民が身につけてよい色を茶・鼠(グレー)・藍のみに制限しました。すると江戸っ子たちは、限られた色のなかで少しずつ違う色みを生み出し、それぞれに歌舞伎役者や風景の名を冠して楽しみました。それが「四十八茶百鼠」と呼ばれる、数えきれないほどの茶色とグレーのバリエーションです。制約から生まれたこの美意識は、のちに「粋」という感性へと結晶していきました。

「同じ茶色」でも、好まれる濃淡が違う

ここに、海外生地とのすれ違いの正体がありそうです。四十八茶百鼠の色みは、灰色がかった落ち着いたトーンがほとんどで、彩度を抑えた「渋さ」こそが美しいとされました。一方で海外のアースカラー生地に多いマスタードやテラコッタ、赤みの強いラストカラーは、彩度がしっかり乗った、はっきりとした発色のものが目立ちます。さらに海外では、こうしたアースカラーの生地がインテリアやキルト、クラフトといった「空間になじませる色」として選ばれる場面が多いのに対し、日本での生地購入は洋服や身につけるものが中心。同じ"茶系の生地"でも、求められている役割や似合わせ方の文脈が、そもそも違っているのかもしれません。

だとすれば、答えは「アースカラーを避ける」ことではなく、選び方や見せ方を少し変えることにありそうです。彩度の高いマスタードやテラコッタは、洋服そのものよりもポーチやバッグ、クッションカバーなど、顔から離れた小物に。逆に、四十八茶百鼠のような灰みを帯びた落ち着いたブラウンは、肌なじみのよさを前面に出して提案する。海外の色と、日本で育まれてきた色の感性、その両方を知っていれば、コレクションの中で最後まで残ってしまう生地も、きっと減らせるはずです。

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