穴をあけたまま、着る。visible mendingという修繕のかたち
肘に空いた穴、膝の擦り切れ、袖口のほつれ。かつてはそれを「隠す」ことが修繕の目的でした。でも今、世界のあちこちで、穴をあえて目立たせ、糸や布で飾りながら繕う人たちが増えています。「visible mending(ビジブル・メンディング)」と呼ばれるこの手法は、傷を欠点ではなく物語として扱う、新しい — そして実はとても古い — 衣類との付き合い方です。
01. なぜ今、繕った跡を見せるのか
visible mendingは、穴や傷みをパッチや刺繍、目立つ糸使いで覆い、修繕そのものをデザインの一部にしてしまう手法のことです。アイロン接着のワッペンで済ませることもできますが、針と糸でしっかり縫い付けたほうが丈夫に仕上がるとされています。
背景にあるのは、ファストファッションへの違和感です。安く大量に作られた服は、穴が空けばすぐに捨てられ、新しいものに置き換えられていきます。その流れに対して「直して着続ける」という選択を意識的にする人たちが、SNSを中心に存在感を強めています。
ピッツバーグの「繕い専門店」
アメリカ・ピッツバーグでは、Old Flame Mendingという修繕専門の店を営むRebecca Harrisonさんが「直せないのは失恋だけ」と語るほど、あらゆる衣類の修繕を請け負っています。彼女にとって繕いは目新しいものではなく、人が服を着るようになってからずっと存在してきた営みの延長にすぎません。
“driven by individuals concerned about the environmental impact of new clothing”
新しい衣類が環境に与える影響を懸念する人々によって、この動きは推し進められている。
— NPR
02. ルーツは日本の刺し子とぼろ
海外で語られるvisible mendingの多くは、日本の「刺し子」と「ぼろ」を起源として紹介しています。刺し子はもともと江戸時代、布が貴重だった東北の農村や漁村で、着物を長持ちさせるために生まれた運針の技法です。布を重ねて刺し、補強しながら模様を描くその手法が、時代を経て装飾性の高い工芸としても評価されるようになりました。
一方の「ぼろ」は、繰り返しつぎはぎされた木綿の布そのものを指す言葉です。捨てずに重ね、縫い、また重ねる。その過程で生まれる不均一な風合いが、今では美しさとして受け止められています。
「完璧」から離れるという価値観
刺し子を扱うブランドdorsaliのブログでは、この動きが「完璧」という価値観そのものへの問いかけになっていると紹介されています。傷や繕いの跡を隠すのではなく、そこに一枚一枚の布が歩んできた物語を見出す。刺し子と可視化された修繕は、量より質、使い捨てより耐久性を選ぶという姿勢を共有しているとも述べられています。
“the way the stitches lay helps to reinforce the weave of the original fabric”
ステッチの並び方そのものが、もとの布地の織りを補強してくれる。
03. はじめてみるなら、何から
ジーンズやシャツのように織り目の詰まった布であれば、刺し子風の運針でしっかりとしたステッチを重ねる方法が向いています。一方でニット素材は、刺し子のような硬い運針だと生地が引きつれてしまうため、糸を編み込むように渡していく「ダーニング」という技法のほうが向いているとされています。穴より一回り大きく布を当ててから縫うと、周囲の弱った繊維ごと補強できて長持ちします。
布選びも、繕いの一部
visible mendingの面白さは、当て布の色や柄をどう選ぶかにも表れます。同系色でなじませてもいいし、あえて異素材・異色を合わせて、繕いの跡そのものを主役にしてもいい。手元に少しずつ残っている端切れや、色や柄に一目惚れした輸入コットンは、こうした一着だけの繕いにこそ活かせる存在です。手を動かしながら選ぶ時間も含めて、visible mendingという営みなのだと思います。
ワンポイント:衣類を3か月長く着るだけでも、廃棄や環境負荷を抑える効果があるといわれています。まずは一着、洗濯かごの隣に「繕い待ち」のバスケットを置いてみることから始めてもよさそうです。
まとめ|穴は終わりではなく、続きのはじまり
visible mendingは、特別な技術がなくても始められる小さな実践です。ボタン付けができるなら、もう最初の一歩は踏み出せています。穴を隠すのではなく、そこに糸を重ねていくこと。それは服を長く着るための工夫であると同時に、一枚の布と向き合う時間そのものを楽しむ営みなのかもしれません。
jumble shop oneでは、厳選した海外ファブリックを取り揃えています。
