スウェーデン発 World Embroidery Day 世界刺繍の日

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国は違っても、糸と針を通じて誰かとつながろうとする気持ちはどこか似ているのかも

針と糸がつなぐ、世界への想い。スウェーデン発「World Embroidery Day」の話

毎年7月30日は「World Embroidery Day(世界刺繍の日)」。実はこの記念日、スウェーデンの小さな村で生まれたのをご存知でしょうか。一針一針を積み重ねる刺繍という手仕事に、平和や自由への願いを込めた人たちがいました。今日はその成り立ちと、生みの親である一人の女性のこと、そして世界に広がっていった物語を紹介します。


南スウェーデンの村から始まった記念日

World Embroidery Day が生まれたのは2011年。スウェーデンの刺繍ギルド「Broderiakademin(ブロデリアカデミン)」に所属する地域グループ「Skåne Sy-d」の人たちが、南スウェーデンの小さな村ヴィスマルロブ(Vismarlöv)で最初のお祝いを開いたのが始まりでした。

彼女たちは、刺繍という手芸を「過去の遺物」ではなく、今を生きる人々の創造性の表現として、もっと知ってもらいたいと考えました。そこで書き上げたのが、この日のためのマニフェスト(宣言文)です。

“Make 30th July a day filled with creativity for the sake of Peace, Freedom and Equality.”

(日本語訳:7月30日を、平和と自由、そして平等のための創造性に満ちた一日にしよう。)


Corinne Lapierre

このマニフェストには、もう一つ大切なメッセージが込められています。それは、恵まれた北の国に暮らす自分たちの針と、世界のあちこちで刺繍を続ける「兄弟姉妹」たちの針とを、一本の糸でつなぎたいという願いです。刺繍を通じて心地よい創造の輪を広げ、平和運動の一部でありたい — そんな想いが、この記念日の出発点になっています。

「喜びの刺繍家」ケルスティン・ネッテルブラード

この記念日の生みの親として知られているのが、Skåne Sy-dを率いていたケルスティン・ネッテルブラードさんです。本業は家庭科の先生でありながら、自らを「lustbrodös(喜びのために刺繍をする人)」と呼び、針仕事を通して社会への向き合い方を表現してきた人物として紹介されています。日々のニュースや社会の出来事に対して、ただ黙っているのではなく、小さな布の上に自分の考えを刺していく。そんな姿勢が、多くの仲間から慕われてきました。

彼女にとって刺繍は、単なる装飾ではなく「考えたこと、感じたことを整理するための手段」でもあったといいます。だからこそ、World Embroidery Dayのマニフェストにも、平和や自由、平等といった社会的な言葉が自然に選ばれたのでしょう。

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一枚の布から、世界中へ

スウェーデン最南端の岬で開かれる展示会

2015年からは、スウェーデン本国でもこの日に合わせた展示会が続いています。会場に選ばれたのは、スウェーデン最南端の岬・スミーゲフック(Smygehuk)。灯台のそばに広がる会場に、子どもから大人、プロの作家からアマチュアまで、さまざまな作り手の刺繍作品が並びます。海辺を散歩したり、灯台に上ったりしながら、その合間に手を動かす — そんな、少し特別な一日の過ごし方が生まれました。

国境を越えて広がる、それぞれのお祝い方

スウェーデンから始まったこの日は、年を追うごとに世界中へと広がっていきました。祝い方は国や人によってさまざま。アメリカのキルトショップでは、初心者向けの無料キットを配って作品展示会を開いたり、イギリスの刺繍デザイナーが毎年この日に合わせて無料の刺繍図案を公開したりと、それぞれの土地らしい形が生まれています。

ウクライナのように、刺繍が単なる手芸ではなく、シャツやドレス、日常の装いにまで息づく民族文化の象徴として大切にされている国もあります。そうした国では、World Embroidery Day は自分たちの文化的なアイデンティティを見つめ直すきっかけとしても受け止められているようです。国は違っても、糸と針を通じて誰かとつながろうとする気持ちは、どこか似ているのかもしれません。

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「ブロディテーラ」– 縫うことは、瞑想すること

スウェーデンには「Broditera(ブロディテーラ)」という言葉があるそうです。「Broderi(刺繍)」と「Meditera(瞑想する)」を掛け合わせた造語で、テレビを見ながら、オーディオブックを聴きながら、無心に針を動かすあの時間を表しています。何を作るか決めずに、ただ手を動かすことそのものを楽しむ。忙しい毎日の中で、そんな時間を持つことの豊かさを、この記念日はそっと思い出させてくれます。

出来上がったものをどうするか、最初から決めている必要はありません。作った刺繍を引き出しにしまったまま、しばらく忘れてしまってもいい。ふとした時にそれを見つけて、バッグや服にあしらう場所を思いつく — そんな気ままな付き合い方も、この手仕事の魅力の一つだと言えそうです。

MEMO

World Embroidery Day は国連などの公式な記念日ではありません。それでも世界各地の手芸家・クラフトコミュニティ・博物館などによって支持され、2011年の始まりから10年以上を経た今も、毎年少しずつその輪を広げ続けています。


おわりに

たった一つの村で、一人の「喜びの刺繍家」から始まった小さな宣言が、10年以上の時を経て世界中の人の手に届いている。そう思うと、針を持つ時間がすこし特別なものに感じられます。次に生地を選んだり、糸を通したりするとき、遠いスウェーデンで最初に針を動かした人たちのことを、少しだけ思い出してみてもいいかもしれません。

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