なぜ海外のキルターは、作品を大地の上で広げて撮るのか
インスタグラムで海外のキルターのアカウントを覗くと、必ずと言っていいほど出会う一枚の写真があります。牧場の柵にかけられたキルト、干し草畑に広げられたキルト、山の頂で風にはためくキルト。日本のハンドメイド界隈ではあまり見かけない光景です。完成した布の作品を、なぜわざわざ屋外の、それも自然のただ中まで運んで撮影するのでしょうか。海外のブログやSNSの投稿を集めて調べてみると、そこには写真の技術的な工夫だけでなく、キルトという手芸そのものの成り立ちに関わる理由が見えてきました。
01|まず技術的な理由がある
屋外撮影がよく選ばれる一番の理由は、実はとてもシンプルです。キルトのように大きな布は、室内で全体をきれいに写すのが難しい。壁や床のスペースには限りがあり、部屋の照明では色が黄ばんで写ってしまうこともあります。屋外なら、曇り空や日陰の自然光がやわらかい影を作り、色も本来の発色に近く写る。さらに広い場所があれば、フチまで含めた作品全体を無理なく画面に収められます。
加えて、キルトデザイナーのスージー・ウィリアムズさんは、SNSでのキルト写真の見せ方についてこんな指摘をしています。平らに畳んだだけの写真では、布の重なりやしなやかさが伝わらない、というのです。
“You have to show the texture and drape.”
(質感とドレープを見せなければならない)
風になびかせる、中心をつかんでくるくると渦を巻くように広げる、柵に引っかけて自然にドレープを作る。屋外という舞台があるからこそ、布が「動く」瞬間を写真に収めることができる。これは室内の壁掛けやベッドの上では、なかなか再現できない演出です。
02|#quiltsinthewild というコミュニティ
インスタグラムには「#quiltsinthewild(野生のキルト)」というハッシュタグがあり、世界中のキルターが牧場や砂漠、滝のそばで撮った作品を投稿し合っています。ここで面白いのは、多くの投稿者にとって撮影場所が単なる背景ではなく、自分自身の暮らしや家族の記憶と結びついた場所だという点です。
たとえばモンタナ州の牧場で育ったキルター、リンドリー・スミスさんは、実家の牧場で牛たちの前にキルトを広げて撮影しました。彼女はこの一枚をこんな言葉で紹介しています。
“It’s the first time the cows have ever seen a quilt.”
(牛たちがキルトを見るのは、これが初めてのことでした)
— Curated Quilts
彼女は、キルトの写真を撮ることは「キルトそのものと、屋外で過ごす時間という、自分の好きな二つを組み合わせる行為」だと語っています。ほかの投稿者にも、地元の砂漠や渓谷を「もっと知ってもらいたい」という気持ちで撮影する人、闘病中の家族との穏やかな時間を残すために国立公園へキルトを持ち出す人がいました。作品の写真が、土地への愛着や、その人自身の物語を語る手段になっているのです。
03|キルトと「土地」の結びつき
もう少し歴史をさかのぼると、屋外撮影の背景には、キルトという手芸とアメリカという土地の結びつきが見えてきます。パッチワークキルトの原型は17世紀のイギリスにありますが、それが「暮らしの手芸」として広く根づいたのは、開拓時代のアメリカでした。ニューイングランドの開拓農家では、女性たちが羊毛を紡ぎ、キルトを縫うことが、農作業や家畜の世話と並ぶ日々の営みだったといいます。西部開拓が進むにつれて、キルトは荒野を切り拓きながら暮らす人々の、実用と心の支えを兼ねた手仕事として、広大な大地とともに広がっていきました。
メイン州の田舎で自然光を活かした撮影を続けるプロのキルト写真家、キティ・ウィルキンさんも、自宅の周りの森や滝、崖の上といった「変わった場所」を選んで作品を撮ることで知られています。アメリカ、イギリス、オーストラリアといった国々には、車を少し走らせれば牧場や草原、荒野にたどり着ける環境があり、キルターにとってそれは特別な遠出ではなく、日常の延長にある撮影場所なのだと思われます。
日本では、住宅事情から広い庭や牧草地を身近に持つ人は少なく、キルトの撮影は室内の壁やベッド、公園のベンチなどが中心になりがちです。これは撮り手の工夫の差ではなく、単純に手が届く「屋外」の広さや種類が違うからこそ生まれる違いなのかもしれません。
まとめ
海外のキルターが作品を大地の上で広げる理由は、ひとつではありませんでした。自然光の美しさや布の質感を見せるという実用的な工夫、#quiltsinthewildのような場所を通して自分の物語を語るコミュニティの文化、そして開拓時代からキルトとともにあった広大な土地への感覚。技術・つながり・土地の記憶という三つが重なって、あの牧場や山頂の一枚が生まれているのだと思います。次にSNSで海外のキルト写真を見かけたら、背景に写る草原や柵の向こうに、その作り手の暮らしまで想像してみると、また違った見方ができるかもしれません。
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