ブロックプリント生地の魅力 ― 手彫りの木型が生み出す、世界にひとつだけの風合い
木の型を彫り、生地に一つひとつ手で押していく。そんな素朴な工程から生まれる「ブロックプリント」は、機械では決して再現できないゆらぎと温度を布に宿します。今回は、ブロックプリントがどのように作られ、どんな産地で育まれてきたのか、そして実際に使う上でのメリットとデメリットまで、じっくりとご紹介していきます。
ブロックプリントとは? ― その製法をひもとく
ブロックプリントとは、木材に模様を彫り込んだ「版木」を染料に浸し、生地の上に一つずつ手で押し当てて模様を写していく、手作業による捺染技法です。デザイン画をもとに職人が版木を彫るところから始まり、色ごとに版を変えながら、同じ動作を何百回、時には何千回と繰り返して一枚の布を仕上げていきます。ため息が出るほど地道な作業ですが、この繰り返しの中にこそ、機械にはない“手の記憶”が刻まれていくのです。
彫る・浸す・押す ― 三拍子でできる模様
代表的な工程はとてもシンプルです。まず職人が木材(シーシャムなどの堅い木が好まれます)に図案を彫り込み、版木をつくります。次にその版木を染料皿に浸し、余分な染料を落としてから、広げた生地の上にリズムよく押し当てていきます。柄がずれないよう目測で位置を合わせながら、色数分だけ版を替えて重ね押しするため、複雑な柄ほど多くの版木と手数が必要になります。押し終えた生地は天日で乾かし、その後水洗い・仕上げを経て、ようやく一枚の生地として完成します。
染めずに「防染」で模様を描く技法も
ブロックプリントには、染料を直接押す「直接捺染」のほかに、泥や樹脂を版木で押して染料をはじかせる「防染(レジスト)」という技法もあります。代表的なのが泥を使う「ダブー」で、泥のペーストを模様の形に押しつけてから全体を染めることで、泥を置いた部分だけ色が入らず、独特の淡い柄が浮かび上がります。同じ「型を押す」という所作でも、狙う効果によって道具や工程が少しずつ変わっていくところが奥深い部分です。
インドにおけるブロックプリントの起源は非常に古く、その歴史はおよそ4000年前のインダス文明にまで遡ると考えられています。(意訳:Block printing in India boasts a rich history, dating back more than 4,000 years to the Indus Valley Civilization.)
世界の主な産地 ― 土地ごとに異なる色と模様
ブロックプリントの代表的な産地はインドです。特に北西部のラジャスタン州は、12世紀頃からこの技法を担ってきたチッパー(Chippa)と呼ばれる職人コミュニティの拠点として知られ、地域ごとに全く異なる表情の生地が育まれてきました。
ラジャスタン州 ― サンガネールとバグルー
州都ジャイプール近郊のサンガネールは、白地に繊細な花柄を重ねる上品な染めで知られ、対してバグルーは、赤や黄土色を基調にした素朴で力強い柄が持ち味です。どちらも地域固有の伝統技術として、インド国内の地理的表示(GI)に登録されており、サンガネールのブロックプリントは2009年に、バグルーのブロックプリントは2011年にそれぞれ認定を受けています。
グジャラート州 ― 藍と茜のアジュラック
グジャラート州やカッチ地方(一部はパキスタンのシンド地方にも及びます)に伝わる「アジュラック」は、天然の藍と茜を使い、生地の両面に柄を通す高度な染色技法です。深い藍色と朱色を基調にした幾何学模様が特徴で、星座の巡りを思わせるような、静かで荘厳な佇まいを持っています。
アーンドラ・プラデーシュ州 ― 物語を描くカラムカリ
南インドのアーンドラ・プラデーシュ州で育まれた「カラムカリ」は、竹ペンによる手描きとブロックプリントを組み合わせ、神話や物語の情景を布の上に描き出す技法です。マチリパトナムとスリカラハスティという二つの土地で、それぞれ独自の表現が発展してきました。
ジャイプール、バグルー、サンガネール、バルメール、シカールといった土地は、それぞれ独自の柄の言語を育て、繊細な花柄から力強い幾何学模様まで、地域ごとの個性を今に伝えています。(意訳:making Jaipur, Bagru, Sanganer, Barmer, and Sikar renowned for their own unique prints. Each region brought its own design language.)

使ってみて分かる、メリットとデメリット
メリット ― ゆらぎこそが個性になる
ブロックプリントの一番の魅力は、なんといっても「同じものが二つとない」ことです。版の押し方や染料の含み具合によって、色の濃淡や柄の位置に微妙なずれが生まれますが、これは欠陥ではなく、手仕事だからこそ生まれる味わいとして楽しまれています。裏側にもうっすらと柄が写り込むほど染料が繊維にしっかりと入り込むため、生地の風合いは柔らかく、通気性にも優れています。また、多くが植物や鉱物由来の天然染料を使っているため、化学染料に比べて肌にも環境にもやさしく、生地を選ぶことが、遠く離れた土地の職人の手仕事を支えることにもつながります。
デメリット・気をつけたいところ
一方で、手作業ゆえの制約もあります。一枚仕上げるのに何百回も型を押す必要があるため、機械プリントに比べて生産に時間がかかり、価格もどうしても高くなりがちです。(とはいえ、インドから日本への輸入の場合は物価差によりまだまだ安価に輸入できています。)また「柄の位置が完全に揃っていること」を求める方にとっては、手押しならではの微妙なずれが気になる場合もあるでしょう。天然染料を使ったものは、購入直後の数回の洗濯で色が少し流れ出たり、他の生地に色移りしたりすることがあるため、最初は単独で優しく洗う、日陰で干すといった手間が必要です。長い目で見れば天然染料は色が穏やかに落ち着いていく「育つ生地」ですが、化学染料のようにいつまでも鮮やかさを保つタイプとは性格が異なる、という点は知っておくと安心です。
お手入れのコツ:最初の数回は他の洗濯物と分けて、冷水・中性洗剤でやさしく手洗いするのがおすすめです。直射日光は色あせの原因になるので、干すときは陰干しに。アイロンをかける際は裏側から低温であてると、柄をきれいに保ちやすくなります。
まとめ
木を彫り、染料に浸し、手で押していく。ブロックプリントは、シンプルな所作の繰り返しの先に、土地の記憶と職人の手癖が刻まれた生地です。完璧な均一さとは違う少し不揃いな柄に愛着が見つかるはずです。
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